前口上
さぁさぁよってらっしゃい、みてらっしゃい。
ここに始まりますは、とある街「傾城街」でのお話。
時は大正、国は日ノ本。
大小様々な都が存在し、それぞれで人が暮らしを営む、
蒸気と電気に愛された国。
赤レンガとランプ灯が並び、這うように繋がれた管と導線。
もくもくと立ち昇る水蒸気とひっきりなしに動く工機の雑音。
そんな風景がどこでも見受けられる国。
そして、何より特筆すべきは、まだまだ神様が生きていらっしゃること。
神々が与え賜うた「啓示」と「術」によって恩恵をうけているということ。
おっと、誤解を招くような言い方でしたが、
どなた様方もその「術」を使える訳ではございやせん。
それぞれ、神様から与えれし者だけがその力を行使出来るのです。
脈々と続く一子相伝であったり、血反吐を吐くような修行の果てであったり、
はたまたある日突然もたらされたり、その形は様々ですが、
その作用は一言では言い合わせないものであります。
もちろん、善も、悪も、でございます。
少々話が逸れましたが、もちろん傾城街もその範疇でございます。
ただ、他の街と異にするのは、何よりも歓楽の街であるということでしょう。
いわゆる無法の、とまではいきませんが、人の欲望渦巻く街であることは、
皆様周知の事実でございましょう。
欲望渦巻く、ということは、それなりに事件も起きうるということをお忘れなく。
そんな街でこの物語は始まります。
また、盛者必衰の鐘が鳴るのです。