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新星樹のアナントス  作者: 川獺 馬来
1/5

始まり/The end

 ここ最近各地で地震が勃発していた。ニュースでは地震の影響で道路のひび割れやビルの崩壊などが起きていた。だが、それら全てが地震による影響かは定かではない。

震源地の者達はひび割れた道路を指さしながら「まるで何かが削りながら進んでいるような耳障りな音を聞いた」だったり、幸いにも家が半崩壊で怪我をすることがなかった老人は言う「あれはかまいたちのようにも感じられたが、目にも留まらぬ速さで何かが横切ったようにも見えた。ただ地震が引き起こしたようには思えない。そんなことよりワシの家をなんとかしておくれ…」と証言している者の中にも被害に受けた者は多く、みな勃発的に起きている地震に対して畏怖しており、悲哀に満ちていた、

住民達の大半は腹蔵した思いを言外にほのめかしている。やがてそれは噂となり、今ではワイドショーなどで取り上げられるようになっていった。内容はこうである。

『実はここ最近起きている地震とは宇宙人の飛来などが関係しているのではないか?』ということであった。だが、それを否定する意見も出ている。

『私たち研究員が調べたところでは少なくとも宇宙人と言った突拍子もないことではありません。どうやら震源とされる場所は双子山から起きているようなのです。ですが、どういう訳か震源とされる我が国以外にも地震は起きており、影響を与えているようなのです。何故か蔓延しているようなのですが、それでは到底説明がつかないのです』

 先程、自分達の仮説を得意気に話していたオカルトマニアたちが言下に否定する。明らかに自分達の仮説を否定された腹いせなのだろうが、研究員たちも食い下がることはなく、てんやわんやな放送になってしまい、最後まで持ち直すことなく終わってしまう。

 研究員たちが口述していた双子山とは一つの山が連なっており、山頂が二つあるということで有名な山である。登山家の間では誰しもが一度は登ったことがある山と評されているとか。

そんな双子山だが、地理学者は「おそらく火山活動が激しい時期があり、横からも噴火すると言うことが何度もあった結果、双子のように山が連なったのであろう」とされていた。

 今回は研究員の話で地震の震源と見られている双子山を徹底的に分析するものとなるが、世間ではそれどころではなく、中途半端な意見のぶつかり合いなどを放送した為に、大衆もこれまで以上に恐慌し、スーパーやコンビニからは防災道具や非常食が消えてしまう羽目に。

この混乱に乗じて窃盗犯などが出てくるなどで警察は辟易してしまう。何とか体制を立て直し、窃盗を無くす為に警察側は至る所に検問場を設置することで、犯罪行為への抑止と地震が起きた際の模範的な行動の仕方、そして安全な場所への誘導を兼ねて二十四時間体制をとることにした。賄えないところは民間協力をとることで何とか回している状態に今ある。

人々の鬱積した思いは募るばかりであるが、そんなことはお構いなしに再び地震はやってくる。


 地震が再び起きたしばらくの静けさ、奮起した電話が鳴り波及する。最初に出たのは母親らしく、僅かにだが声が聞こえてくる。次に父親に代わると受話器を置く音がする。

 何分かすると部屋に重い足音が近づいてくるのが分かる。やがて、ケリのような鳴き声でドアは開かれる。入ってきたのは母親である。

「今から買い物に行ってくれない? 紙に買ってほしいものを書いておいたから」

 それを受け取ると息子は立ち上がり「行ってくるよ」とただ一言残し、階段を軽々しく降りていくとそのままの流れで家を出る。

既に空の色は暗くなっており、スーパーはとても空いているような時間ではなかったのでコンビニに行くことへした。

 外に出るとすぐに分かることだが閑静していた。皆余震に注意してのことだと分かるが、それにしても不気味な程静かである。風の通る音も飛行機の飛ぶ音すら聞こえてこない。

 闇の中再び地震が起きる。彼は服で頭を守るとその場で蹲った。収まりをみせた時に彼は立ち上がる。

「急いで買うものを買って帰ろう」

そう言った瞬間だった。聞き取り辛い声ではあったが、確かに彼の声を復唱するような内容が聞こえた。思わず彼は辺りを見渡してみるが、そこに人影らしいものは何もなく、いるのは自分だけである。

「気のせいか」

「き、き、き…のおお……せいが」

最初に聞いた時よりもはっきりと近く、確実に木霊した。不格好というような返しではあったがそれはすぐ近くにいる。声は近いのだ、今度は確実に声の正体を見ようと彼はすぐに後ろを振り向く。だが、そこには誰もいない。

「なんだ」

「なな…なんだ」

 さっきよりも近く、言葉も流暢に喋れるようになってきている。そして、彼はその声がどこから聞こえてきているのか知る。しかし、それは彼の中で否定し難いものであった。例えば、子ネズミが彼の肩によじ登り話しかけているとかそういった夢のファンタジーを彼は期待していたのだが、そうではなく声は彼の真上から聞こえている。

 上を見ることに戸惑いがある彼は心の中で数字を唱える。その数字が0になった瞬間彼は恐怖が八割、好奇心が二割の思いで真上を見上げる。

 そこには彼の想像以上の光景が目前に広がっていた。妖精などが話しかけているならまだ彼は納得していたのかもしれないが、それは見上げる彼を鏡に写したかのように顔を地面に向けて彼の上を浮いている。そして、真上を見上げた彼に応えるようそれもまた彼を見つめるように見上げる。互いに顔を合わせる形になり、三百センチメートル空いた空間には空気すら必要ない。

それは形としても人と同じように見える。違いがあるとするならば、人にあるとされる目も耳も鼻、そして口が見当たらず、体全体が真っ白であるということだけだ。

それを見た時の彼は恐怖にも侵されていながら、どこか懐かしくもあり、憧れと尊敬を抱いていた。その感情は彼自身が不思議とさえ思うほどに。

白いそれはどこからともなく目が生えると彼を見つめる。声を上げる間すら与られずにそれは彼の中に落ちてくる。

 彼が目を瞑った瞬間には頭に静電気が走ったような痛みが襲い、視界が段々と黒くなっていく。視界が完全な一色の黒となった時、彼は自分が立っているのかも分からなくなり、全身の骨が抜けたように地面へと雪崩こむ。

 顔にこれでもかという位に冷たい水の衝撃をくらう。

「目を覚ませ」

その声で重たくなった瞼を開けようと努力するが、朝起きるときよりも重く感じられ、半分開けるのがやっとであった。目の前には赤黒の服を着た男が一人、奥の扉の前に立っている男が一人という二人の男が立っていた。全体を見たわけではないがマジックミラーらしき大きな鏡がある。

「名前を言え、それと年齢も」

 名前…。彼は働かない頭を何とか呼び起こそうとする。水を被って頭の中は冴えているが、状況との混乱が整理つかずにいた。

「早く言え!」

 目前にいる男は逆上し、ふいに彼の腹部に衝撃が走る。彼は腹部を思いっきり殴られていた。彼が苦悶の表情を浮かべると男は苛烈さを増し、最早ここでの支配者が誰なのか顕示している。それ故に彼は雑然した考えをなくし、訳の分からない悪意と痛みへの恐怖から目前の男が欲する回答だけを出そうと頭の中を切り替える。

「藤長 コトツキ」

「年齢は?」

「十四…」

「藤長 コトツキ。十四か」

 目前の男を刺激しないようにコトツキは即答していく。男の苛立ちも収まった時にコトツキは初めて気付く、体が不自由であることに。先程までは目前の男に対しての恐慌が勝り、動作をとることすら考えつけなかったが、手は背もたれの後ろで縛られており、足首は椅子の足にしっかり括り付けられている。

 コトツキの様子に気付いた男は豹変し軽蔑と優越の混じった顔を浮かべる。それは醜悪ともいえる。コトツキは先程のこともあり辛苦し辟易していた。コトツキの中にあったのは男に対して迎合し服従する姿であった。

 しかし、男からかけられた言葉は想像絶するものだった。

「お前に殺された人達と愛人の無念と恨みを晴らさせてもらうからな。これだけで済むと思うなよ」

 コトツキは困惑顔を浮かべ熟考したいが考えが纏まらない。それを見ていた男は憤懣やるかたなり、とりあえず暴力によって発散させようとする。コトツキは意識の中に逃避しようとしたばかりに、満身創痍になり吐血していることにも気づかずにいた。

 血の池となった溜りに倒れ込むと意識が朦朧とし始めただただ死を確信した。

「誰か…、誰か僕を殺してくれ。残りの人生なんていらない、もう裁断してくれ。もう舌を噛む力が何もないんだ……」


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