我思う故に汝あり
今日はカウンセラーの先生に薦められて、作文を書いてみた。
何でも私見たいな人は文章に起こす事で気持ちに整理や区切りが付けられるそうだ。
なので、書いて見ようと思う。私と祖母と人形の事を。
……昔から家には古い人形がある。
私はこの人形が小さな時から嫌いだった。
何故か無性に怖かったのだ。まるで、突然に動き出しそうなくらいに、リアリティーがあったのも恐怖に拍車を掛けた。
だが、祖母はこの人形をとても大事にしていた。
『私が死んでも人形を大切にしておくれ』と言うくらいに人形を大事にしていた。
けれども私の人形嫌いは年を経ても治らず、寧ろ人形の怪談話などを聞いた事により、ますます人形に近付く事すらしなくなった。
そんな私に祖母も見切りを付けたのか、何時しか『私が死んでも人形を大切にしておくれ』と言っていたのが『私が死んだら人形も一緒に棺桶に入れておくれ』と言う様になった。
私はたかが人形に祖母が何故そこまで執着するのか気になり、祖母に理由を尋ねて見た。
すると、祖母は私が人形に興味を持った事が余程嬉しかったのか、心良く教えてくれた。
『あれは、私が人形と出会ってから10年くらいたった日の事だったね。』
『私は買い物に行こうと家を出た。』
『家から少し離れた交差点で信号待ちをしていた私は突然意識を失ったのさ。』
『私は交通事故にあったらしい、原因は居眠り運転だと聞いたよ。』
『トラックに跳ねられて、意識を失った私は、病院に運び困れる事になった。』
『幸いな事にかすり傷だけですんだけど、事件関係者全員が不思議がっていたよ。』
『何せ、目撃者によると私は10Mくらい吹き飛んだらしい。』
『警察が言うには、トラックのスピードも其なりにあった。』
『それで、外傷が全くと云うほど無かったから奇跡だと大騒ぎになったね。』
『何とテレビが取材にくるほどの騒ぎに迄発展したのさ。』
『念のために入院して検査もしたけれど、何処にも異常は無くて直ぐに家に帰れた。』
『家に帰った私は驚いた、何せ大切にしていた人形が壊れていたんだからね。』
『人形は頭と胴体に罅が入って、右腕がバラバラ、左足が折れていたのさ。』
『それの惨状を見た私は我を失って、人形を抱いて泣いていた。』
『暫くして、泣き疲れて落ち着いた私は何故、人形が壊れていたのかを考え始めた。』
『そして、結論としてあんたのお爺さんが落として壊したんだと思ったのさ。』
『当日、家にはお爺さんしか居なかったからね。』
『私は直ぐにお爺さんに何故人形が壊れているのかを問い詰めたよ。』
『すると、お爺さんは何もしていないと言ったけれど私は信じなかった。』
『きっとお爺さんが人形を壊したんだと思いながら、私は人形を修理に持っていった。』
『そこでも、また不思議がられたよ。』
『人形師が言うには、壊れた原因がサッパリわからないらしい。』
『私は意味が分からず人形師にどういうことかを尋ねた。』
『人形師曰く、壊れる原因となった傷がわからないと言うのさ、まるで突然勝手に壊れたようだとね。』
『その時に私は思ったのさ、人形が私の事故の傷を引き受けてくれたんだってね。』
『昔から人形には魂が宿るって言うだろう。』
『きっと私が人形を大切にしていたから、人形が私を守ってくれたんだろうね。』
―――だから、人形を大切にしておくれ。
祖母はそう言って話を締めくくった。
この話を聞いて私は少し恥ずかしくなった。
祖母を守ってくれた人形を怖がっていた事が、酷く最低な事に思えたから。
だから初めて自分から、勇気を出して人形に近付いてみた。
初めて間近で見た人形は、思っていたよりも怖くなくて、何であんなに毛嫌いしていたのか分からなくなった。
そこで私は思いきって人形を抱いてみる事にした。
――だけど、私が人形を抱く事は無かった。
人形に手を伸ばした瞬間、全身に鳥肌がたった。
何故なら、まるでそこに人が存在しているような、圧倒的存在感を感じたからだ。
咄嗟に私は手を払った。
払った手は人形に当たり、人形は勢い良く床に落ちた。
――ガシャン!
そんな音がして私は我に返った。
我に返った私が見たのは、床の上に横たわってる人形だった。
祖母の大切な人形を壊してしまった、その時はその事で頭が一杯で、思わず人形を持ち上げて壊れていないか確かめた。
音の割には傷1つ無くって安心しつつ人形を元の場所に戻した。
―――その時、ふっと祖母の事が気になった。
虫の知らせというのか何故か無性に祖母の事が心配になった。
そして、祖母の所に行くと……
祖母が血を吐いて倒れていた。
私は急いで祖母に駆け寄った。
―――おばあちゃん!そう叫びながら祖母を揺すると、祖母の体が通常では有り得ない位にぐにゃぐにゃと動き、私は思わず、ひぃ!と叫びながら飛び退いてしまった。
私の叫び声が聞こえたのか母がやって来た。
母は祖母の容態を確認すると直ぐに救急車を呼んだ見たいだった。
しばらくして救急車が来て祖母の体を運んで行った。
病院に母と行くと、やはり祖母は死んでいたそうだ。
医師が言うには、祖母の死因は全身の骨が粉々に砕けた事によるショック死だそうだ。
血が出ていたのは骨が内臓や血管を破り、傷付けた時のモノだそうだ。
だけど、何故全身の骨が粉々になったのかが全く分からないらしい。
意味が分からなくって、思わず罵倒しながら医師に詰め寄ると、母に止められた。
医師が謝りながら言うには、全身の骨が粉々になるほどの衝撃が起こったのならば、どこかに痣や外傷が必ず出来るだけ筈が、それが全く無いらしい。
外傷じゃないなら内部からの衝撃だと思った私は医師に尋ねてみた。
医師曰く、内部からの衝撃はまず無いと思っていたらしいが、原因不明なので手掛かりを探す為に調べたそうだ。
結果は、内部からの衝撃すらも無いと云うモノだった……。
次の日、警察がやって来て私達に色々と聴いてきた。
特に私は第一発見者だからか念入りに事情聴取された。
警察としては奇妙な遺体に事件性を感じているらしい。
けれども、警察も何も掴めなかった見たいで捜査は難航している見たいだった。
祖母の突然の死から暫くして、祖母の葬儀が行われる事になった。
そこで私は祖母が生前言っていた事を思いだし、人形をどうするか母に相談する事にした。
母は私が人形を受け継ぐのが良いんじゃないと言ったが、私は人形を受け継ぐなんてもっての他だと思い、祖母の棺に入れる事にした。
――まだ、あの時感じた存在感の恐怖が残っていたから。
人形は祖母と一緒に火葬される事になった。
火葬中の待ち時間の間に、ふっと祖母の昔話を思い出した。
祖母の事故の怪我を人形が引き受けたと云う話……。
果たして、それは一方通行なのだろうか?
持ち主の怪我を一方的に引き受ける人形。そんな都合の良い物が有るだろうか?
いや、無い世の中そんな都合の良い事は無い。何か代償と言える物を払っているはずだ。
ここまで考えた時、私は恐ろしくなった。
もしこの考えたが当たっていたならば……
―――私が祖母を殺した事になるからだ。
事故にあっても無傷の祖母。
払い落としても無傷の人形。
そして、原因不明の死因(破損)……
この2つの共通点を鑑みると……
その日から私は自分の意志というモノを失い、毎日を淡々と過ごすようになった。
―――ただ、どうしてだろうか、あんなに毛嫌いして、怖かくて堪らなかった人形に、少しでも似ている人形を見掛けると、無性に欲しくなるのは……
皆さんは、いつの間にか何かに入れ込んでいたりしませんか……