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ししゃもとしゃもじが怪電波でランデブーする諏訪子SS

作者: 鈴ノ風

これは東方プロジェクトの二次創作です。

作者の妄想、二次設定、キャラ崩壊を多大に含みます。

それらが受け入れられない方は、今すぐブラウザバックしてください。



それではどうぞ

 ある日、諏訪子は一人で留守番をすることになった。

 妖怪の山の頂上、守矢神社で諏訪子とともに暮らしている二人の家族は、今はいない。所用にて、博麗神社へ赴いている。

 諏訪子は料理があまり得意ではないのだが、お昼はすでに二人によって作られていた。シシャモの定食。肝心のししゃもは生だが、これくらいはさすがの諏訪子でも調理できる。

 適当にししゃもを焼き、鍋の中のお味噌汁を温める。

 お茶碗にご飯をよそい、愛用の湯呑にお茶を注ぐ。

 ししゃもをお皿に、お味噌汁をおわんによそって、テーブルに並べた。

「いただきます」

 諏訪子の声が一人っきりの台所に響く。

 たった一人きり。けれどさみしいとは思わなかった。

 なぜなら、この食事には早苗と神奈子、二人の家族の愛がこもっているから。

 そう、この湯気を立てる白米のように、暖かく、安心できる愛が――――


 ぴぃぃぃぃいいい、ガガガァががぁあああ


 ひどく、耳障りな音が聞こえた。暖かい食卓を破壊し、踏みにじる奇怪な音。

 それは台所の片隅に置かれたラジオから鳴り響いた。

 どうやら、何らかの手違いで電源が入ったままになっていたらしい。よくよく耳をそばだてれば、ラジオのスピーカーから砂嵐の音が聞こえた。

 聞こえたが、おかしい。この幻想郷に電波など届かない。だからこそ、このラジオは最近はずっと放置され、ほこりをかぶりそうになっていた。スピーカーも、砂嵐の音しか発さないはず。

 なのに、先ほどのものはなんだ。あの耳障りで、しかし何かしらの法則を感じさせる変な音は。

 仮説として考えられるのは、何らかの電波を突然受信したこと。

 妖怪の山には地底へ通じる穴がある。地底には核融合炉が存在するから、そこから何らかの手違いで電磁波が発生した、ということもあり得なくはないだろう。普通はありえないが、あの核融合炉はかなり特殊な代物だ。

 正体不明の現象に対し、諏訪子はいろいろと思考を巡らせる。しかし、謎の出来事はそれだけではなかった。

 声がしたのだ。無機質で、森を思わせる声が。

「ちょっとそこの御嬢さん」

「だれ?」

 首を回す。台所には、どころかその外にさえ、人の気配はない。

「ここです、ここです」

 しかれど、依然として声が聞こえる。

 その方角に首を巡らせる。耳をそばだて目を見開き、何一つ声を発するようなものはないと確認する。

 いや、ちょっとまて。待ってほしい。

 いるではないか? 動くものが、一つ。

 自己を主張するために精一杯、どういう原理か己の形をゆがめることなく飛び跳ねるものが、いる。

 しゃもじだった。炊飯器の横のガラス容器に突っ込まれたしゃもじが、ぴょんぴょんと兎のように跳ねているではないか。

 夢か、と諏訪子は思ってしまった。早苗曰く常識にとらわれてはいけないここ幻想郷だが、いくらなんでも唐突に、一切の気配無く意思を持ち動き出すしゃもじなど初めて見た。

 付喪神とも思えぬその奇怪な気配に気圧されている諏訪子にかまわず、しゃもじは矢次に話し出す。

「お嬢さん。あなたはそのご飯を、私を使ってよそわれましたよね?」

「え? ええ、一応は」

「つまり、その白米はこの私が、炊飯器から茶碗へ、いえその食卓へ送り出したのです。そんな私に対して、何の断りもなくその白米を食するのは失礼というものではありませんか?」

 訳が分からない。理論が通っているのかいないのかさえ、混乱した諏訪子の頭では考えられない。

 ただ言われたまま、頭を下げる。

「えっと、いただ」

「ちょっと待った!」

 おとなしく従う諏訪子を止めたのは、またもや謎の声。

 何だ何だと視線を向ける。声はテーブルの上から聞こえた。

 これまた兎のように飛び跳ねる、焼きたてのししゃもの姿を認め、諏訪子の思考はいよいよもって停止寸前に追い込まれた。

「その白米を彩り、よりおいしく食べるために私がいるわ。つまり私は引き立て役。そのうえ、私は白米とともにあなたに消化され、あなたの血肉となる。そんな木屑より、白米に寄り添い未来のあなたの一部となるこの私にこそ、一言いうべきではなくて?」

「――――」

 何かを言えと、そう命じられたのは理解できた。しかし回転を放棄した脳みそでは、何をどうすればいいのかなど全く分からない。

「おかずは黙ってな!」

 茫然とする諏訪子など放置して、しゃもじが叱咤する。

「出番の終わった道具こそ黙りなさい!」

 しかしししゃもも黙ってはいない。負けじと大声を上げた。

「あなたは白米を茶碗に盛るためだけのただの道具。もう出番なんてないのよ。まして、お断りですって? 笑わせないで」

「あなたこそ、おかずが調子に乗るな」

「乗らせていただくわ。そしてさらに言わせてもらうけど、あなたは白米に何かすることはできても、何かを一緒に成し遂げることはできない。添い遂げることもね。私はその点、これから白米と一緒に胃袋ツアーをする予定があるの。せっかくのデートに水を差さないで」

「おかずなんて、白米の表面を着飾る装飾品じゃないか。白米を茶碗によそったのは私。私だけが、白米を正しく見ているわ。味を彩るとか、添い遂げるとか言いながら、その実自分を引き立てるためのファクターとして白米を見下す不届き者が。あなたに伴侶なんて名乗る資格はない」

「あら、私たちの中を引き裂こうっていうの? そんな言いがかりで? 無理よ、不可能。私たちのエンゲージリンクは胃袋すら断ち切れないわ。私たちは栄養素として分解され、この子の一部として生き続ける」

「どうせ時間がたてば老廃物として捨てられる。第一、栄養素なんてものになった時点で、ししゃもも、白米も、それそのものとして死んでしまっているじゃないか。死後、死体が混ぜ合わされてもそれは結ばれたとは言わない。死後よりも、重要なのは生前よ。どれだけ愛されたか、どれだけ認識してもらったか。それこそがそのものの外的価値を生み出す。

 白米は私の子供も同然。だからその命を、魂を愛するわ。たとえ死んだとしてもね。着せ替え人形よろしく、主旨が逆転した思考しかできないあなたとは違う」

「私たち食材は、栄養素に分解され吸収されることで意味を成すわ。食べられるまでは、何があろうと、所詮過程に過ぎないのよ。愛されようと、愛されまいと関係ない。食材としての使命を果たすことこそ、食材の生の証明となる。それを共に行うことは、すなわち食材にとっての婚姻も同然。あなたには、わからないでしょうね。作られ使われ捨てられる、道具風情には」

「……」

 しゃもじが、震えていた。

 人でいえば、肩を震わせるように、その薄いへら状の部分を、小刻みに。

「おとなしく、聞いていれば調子に乗る。あなたにはわからない。調理され食べられるだけの食材には、湯気を立てる愛しい白米を送り出す、母の心地は絶対に」

 しゃもじの周囲がゆがむ。

 非常識的存在故か、その周りを摩訶不思議な力が漂い始めた。

 その力がどんなものか、諏訪子にはわからない。ただ、そこに敵意と戦意があることは、理解した。

「あら、やろうっていうの?」

 応じるように、ししゃもの周囲でも同じ現象が起こる。

「受けて立ちましょう。しゃもじ。伴侶の愛を、見せてあげる」

「愛? 伴侶? 母の一念、なめるな!」

 叫びと同時、しゃもじの周囲が爆発した。

 ほとばしるエネルギーが急激に膨張し、ししゃもに向かって駆け抜ける。

 無数のエネルギーの塊は、まるで弾幕のようにししゃもに襲いかかる。

「道具と、食材。星が違うと、思い知りなさい!」

 ししゃもはそれに臆さない。力強く啖呵を切り、同じく弾幕を展開する。

 両者の間で、激しい衝突が起こった。

 爆風が周囲のものをふっとばした。諏訪子はそれに耐えるが、しゃもじとししゃも、双方から放たれた弾幕は、呆然としていたために爆風に対応しきれなかった諏訪子を容赦なく襲う。

 動けぬところを挟み撃ちにされた諏訪子は、思いっきりぶっ飛ばされた。

「がっ」

 柱にぶつかり、苦悶の呻きを上げる諏訪子を置いて、双方の戦いは白熱する。

 もはや、食材と道具の戦いなどではない。二体の、立派な妖怪の戦いであった。

 この家は二柱の神の守護を受けている。ちょっとやそっとでは壊れない。しかし二体の放つ弾幕は、ちょっとやそっとというレベルではないらしい。壁が柱が天井が床が、軋み悲鳴を上げていた。

「あ、やめ」

「腐って蛆のえさになれ!」

「木くずになって稲穂の養分になれ!」

 混乱から抜け出す途中の諏訪子の声は、弾幕の爆風で完全にさえぎられる。

 二体の攻防は止まらない。浮遊し、空中戦に移行していた。

 台所の中を縦横無尽に、三次元的に飛び回り、戦闘は続く。被害は増大する一方であった。

 そしてついに、棚の上に置かれた写真が被弾した。諏訪子と神奈子と、小さいころの早苗が写った写真。それを収めた写真立てが、音を立てて倒れる。

「や、やめ」

「くたばれしゃもじ!」

「くたばれししゃも!」


「やめろっつてんだろうがぁ!」


 飛び回るしゃもじとししゃもを鷲掴みにし、唯一損害を免れたお茶碗へ、争いの中心たる白米へ突っ込む。

 そしてそのまま、ありったけの弾幕をぶち込んだ。

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

 肩で息をしつつ、諏訪子は静かになった台所を見る。

 あっちこっち、ぼろぼろだ。これは掃除が大変だろう。

 台所を、神奈子たちに気取られぬよう戻す算段を立て、台無しになったお昼ご飯を見て、諏訪子は憂鬱な気分を止めることができなかった。

「……はぁ」

 掃除は、いつしようか。

 どうせ、今日一日は誰もいない。やろうと思えばいつでもできる。

 だから、今すぐはやらない。ささくれ立った今の諏訪子は、アリが前を横切っただけでも激怒しそうなほど。掃除なんぞ始めたら、この家を壊しかねない。

「まずは、ごはん」

 どこかで外食でもしよう。そうして、心を落ち着かせよう。

 そう決めた諏訪子は、散らかりに散らかった台所を保留にして、重い足取りで人里へと向かうのであった。




 適当な飯屋を見つけた諏訪子は、メニューの適当なものを頼んだ。

 やがて注文の品が届く。ほぼ無意識に頼んだものなので、諏訪子はそれがなんなのか、その時まで知らなかった。

「っふう。よかった」

 ししゃもではなかった。親子丼の定食だった。もしここでししゃもが出たのなら、諏訪子は己を止めることができず、人里のど真ん中で暴れ出しただろう。

 諏訪子は一緒に来た箸を手に取り、手を合わせる。

 いただきます、と言おうとしたところで、ふと何かを感じた。

 何か、とても不愉快な気配を感じた。

 そう、例えば。

 ここに電波を受信する装置が一つでもあったなら、それが異常なふるまいを見せるだろう。そんな感じの、気配が。

「…………」

 目を、そっと下に向ける。

 今まさに食べようとした親子丼。何の変哲もない、あるはずのないそれ。

 そこから、声が、した。

 して、しまった。


「諏訪子様、鶏肉さんをお食べになるのなら、どうかこの白米を忘れないでください」

「何よ米の分際で。お母さんはこの卵のもの。誰にも渡さないわ」

 ああ、奇々怪々なる声がする。

 諏訪子は天井を仰ぎ、閻魔ですら知らぬ絶望の表情を浮かべ、重く重く、呻いた。


「食事を、させて」


リハビリを兼ねて螽斯さんの無茶ぶりに挑んでみました。お題はタイトルそのままです。頭おかしいんじゃないかって感じのお題です。しかもこれで初心者向けという……


あ、ランデブーどこ行ったってツッコミはなしで。

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