ハロウィン、そしてTrick and Treat
ハロウィンに書いたものです。
本編の方から移動させてきたものと変わりません。
南瓜を発見した。正確には朝食に出されたスープが南瓜のスープだったのだ。
この世界は異世界ではあるが食材も基本的な呼び方も日本と変わらない。米や日本の代表調味料である味噌、醤油はなかったが・・・。
しかし、見慣れた食材は他にもある。なので日本食が恋しくなったときは、自分のカンと味覚で適当に作る。いまだこれといった失敗はない。さすが私だ!
何度か借りたことで厨房のおじさんと仲良くなり、今ではお菓子をくれるほどの仲だ。アドルフさんもそうだがこの城で働く男性・・・お菓子作るの上手すぎませんか?
だから、南瓜を見つけた時は両手をあげて喜んだ。
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厨房の扉をでたすぐ先の廊下。角を曲がろうとしたら、遠くの方からこちらに向かって歩くアドルフさんの姿が見えた。
―――よし!最初の獲物はあの人だ!
壁に身を寄せて体を隠す。足音が近づいてくる。感覚的にあと5秒、・・・3、2、1!
「Trick or Treat!お菓子をくれなきゃイタズラします!!」
「きゃあ!」
・・・ん?
勢いよく飛び出すと、目の前にいたのは私の可愛い花、もといローズだった。
あれ?アドルフさんは?
「気配が隠しきれておりませんでしたよ。」
振り向くのと同時にしゃがみこんで下段の回し蹴り。前回は頭を狙って止められた。ならば、次に狙うのは脚だ!
ひょいと跳ねて躱される。しかし、
「それは予測済みです!!」
回した右足を着き、体をひねらせて左の踵で二連続目の回し蹴り。今度は体を狙う。アドルフさんが目を見張った。
余裕の笑みで高くジャンプしたのが仇となりましたね!そのおかげで私は次の攻撃に入りましたよ!
「これは想定外でしたでしょう?」
思わず笑みがこぼれる。くらってください!
勢いに乗り一気に回すと―――足が空を切った。
「は?」
足を振り切るのと同時に、いま正に蹴ろうとした人物をみる。そう・・・その人は・・・、
「碧姫様の身体能力には驚かされてばかりですなぁ。ほっほっほ、年寄りも負けてられません。」
「・・・私が住んでいた世界では、アドルフさんのことを『年寄り』ではなく『忍者』と呼ぶんですよ。」
この広くて高い廊下の天井に張り付いていた・・・。
「私の方が驚いてばっかりですよ。」
くるくると空中を回転しながら降りてきたアドルフさん。回転の切れ、着地、見た目、どれを取っても満点ですよ。はいはい、10点10点。
「しかし、女性の前ではもう少し抑えた方がよろしいのではないですか?後ろの方が怯えてますよ。」
後ろをみると俯いて肩を震わせるローズの姿が目に映った。
しまったぁぁぁぁぁっ!!
「大丈夫ですかローズ!」
「碧姫様・・・。」
手を握り締めて話しかけるとビクリと肩を揺らす。
「ごめん・・・君を怖がらせるなんて僕はなんてことを・・っ!」
「ち、違いますわ!!」
え?
否定の言葉が耳に届いたと思ったら、急にローズの顔が上がった。その顔は怯えているものではなく、むしろ高揚しているように感じる。
「だって!碧姫様もアドルフ様も素敵過ぎますわ!!碧姫様の素早くて勇ましい蹴りに、アドルフ様の軽やかな身のこなし!応戦の中で交わされるお二人の頬笑みがまた輝かしくて・・・!!ああ!もう瞬きするのも惜しかったですわぁ!!この素晴らしき舞台に立ち会えた感動をマリーにも伝えないと!」
一息で称賛の言葉を伝える笑顔のマリー。あの交戦をみえた動体視力・・・なかなか侮れない。
と、その前に。
「君に褒めてもらえるなら戦うのも悪くないね。でも・・・」
握り締めていた手を緩めて、彼女の綺麗な手の甲にキスをする。そして、一言。
「どうせ見るのなら僕だけにしないかい?君の視線を独り占めしたいんだ。ね、可愛い僕のお花さん。」
「一生碧姫様だけを見つめますわぁぁぁっ!!」
顔を真っ赤にして感極まるローズ。かわいいなぁ。
「怯えてないのでしたら話を戻しましょうか。碧姫様、そちらに投げられた籠の中身はなんでしょうか。あと、先ほどきこえた『とりっく おあ とりーと』とは?」
あ、忘れてた。
みると蹴りを出す際に床に置いておいた(投げた)籠が目にはいった。拾って中身を確認する。
割れてないかなー、あ、大丈夫大丈夫。ふっふっふ!
「ハロウィンです!」
「「はろうぃん?」」
「私が住んでた世界にあったお祭りのようなものです。お化けや魔女などの仮装をして『Trick or Treat』・・意味は『お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ』と言います。これを言われた人はお菓子をあげるか、無ければイタズラをされないといけません。」
ってなわけで!
「Trick or Treatですよアドルフさん!大人しくイタズラをされて、」
「はいどうぞ。キャンディーしかございませんがこれでよろしいでしょう?」
ですよね。なんとなく分かってました。
渋々受け取って籠の中にしまい、代わりに一つ袋を取り出す。
「では、これはお返しです。」
「・・・クッキーですか?」
「かぼちゃクッキーとチョコチップクッキーです!厨房のおじさんに教わって作りました!」
時間があまりなかったので種類が少なく地味だが、かわりに可愛くラッピングしたし味も満点だ。
「ローズもどうぞ。」
「え、よろしいのですか?私何もお菓子をご用意しておりませんわ。」
「さっき驚かしてしまいましたから。受け取ってください。」
手に持たせると、花が咲いたように笑った。可愛いなぁ!もう!!
「さてと。じゃあ、私は次の人を狙いに行きますのでここでお別れです。では!」
獲物を狙いに廊下を駆け出す。どこかに女の子はいないかなー。
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軽快な足取りで離れていく背中を見送る。きっと女性のことでも考えておられるのでしょう。
仕事に戻ろうと思い歩き始めると、ぽつりと呟く声が聞こえた。
「どうしましたか?」
声をかけると、先ほど以上に高揚した様子で叫び始めた。
「碧姫様の手作りですよ!?それに、今ならお菓子が無くてもイタズラを頂けてしまいます!『トリック オア トリート』・・・なんて素敵な言葉なんでしょう!はっ!もしかして先手を打ってこの言葉を述べれば碧姫様にイタズラが・・・!!こうしてはおられません!!マリーに、みんなに知らせないとですわ!!」
はしたなくない程度に駆け出すローズ。本来なら侍女が走り出した時点で叱らないといけないが・・・。
「それは、なかなか良いお考えですな。」
では私もおひとりだけお伝えしに参りましょうか。
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「碧姫さまにイタズラしたかったです。」
「私もー。」
少し不満そうに頬を膨らませる女の子たち。
「ごめんねみんな。でも、僕のお菓子はそんなにいらなかったかな?」
「違います!ほらあなたたち!碧姫様が悲しんでますわよ!!」
「そうよ!謝りなさい!」
「あ、いや。謝らなくていいんだ。ただそのかわり、」
クッキーを取り出して一人の女の子の口元に差し出す。そして、一言。
「その可愛い口を開けて、僕に食べさせてよ。甘いお菓子と言葉でイタズラよりも嬉しくしてあげるからさ。」
にこっ
「「「「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」」
黄色い歓声があがり我さきにと集まる。
並んで並んでー。ははは!みんな可愛いなぁ!!ハロウィン最高!!
アドルフさん達と別れて数分後、『トリック オア トリート』と叫びながら女の子たちが迫ってきた。はじめはビックリしたけど私のお菓子が欲しくて集まったのだと聞いて愛しさが倍増した。
一人ひとりに渡していく。たくさん作っておいたのだが、ついに限界がきた。
「あ、なくなった。」
みんなの目の色が変わる。
「誰かもらってない人いないの!?」
「今がチャンスよ!日頃、碧姫様に言ってもらいたいことやしてもらいたいことを!!」
「他の人を呼んできなさい!」
「侍女じゃなくてもいいわ!まだ『トリック オア トリート』言える権限が残ってる人ならこの際誰でもっ!!」
「じゃあ、俺が持っていく。」
聞きなれた声。腕を引かれたと思ったら、バランスを崩したのと同時に担ぎあげられた。
・・・あれだ。俵担ぎだ。
「ディー、お腹が圧迫されて苦しいです。」
「ちょっと我慢してろ。ってことで、異論はないな。」
女の子たちに目を配らせる。誰も王子には文句を言えないので頭を垂れたままだ。
「ごめんね。またあとでお菓子持ってくるから。」
碧姫さまぁ~、と呟く声が聞こえたがディーが歩き出したので結局そこでお別れした。
グッバイ 私のかわいこちゃん・・・。
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ディーに担がれた状態で移動する。そして到着した所は慣れた仕事場、ディーの部屋だった。
ポイッと大きな二人掛けソファーに投げられる。クッションが柔らかい私のお気に入りのソファーだ。
「どうしたんです?今日は仕事が少ないから私はいなくてもいいって言ってくれましたよね?」
「・・・お前が面白いことをしてるとアドに聞いてな。それで俺も参加しようと思ったんだ。」
「面白いこと?・・・ハロウィンのことですか?」
「それ以外ないだろ。」
そう言って、いまだ投げられた時の姿勢のままで転がった私に近寄るディー。なんだろう・・いつもと雰囲気が違う気がする。
思わず後ずさるが、大きいといっても所詮はソファー。すぐに縁にぶつかる。
「菓子を持ってないんだったな碧姫。」
ソファーに足を掛けて私の身体のそばで手をつく。距離が詰まる。
ブラウスのタイに手を掛けられ、そして・・・
「―――Trick or Treat・・・菓子をよこせないなら悪戯するぞ。」
「ああ、はい、どうぞ。」
お菓子を目の前に取り出す。
「・・・・・・・・。」
「お菓子が欲しかったのならさっさと言ってくださいよ。」
「・・・お前、さっき無くなったって言ってなかったか?」
「ちゃんとディーの分はとっておいてありますよ!安心してください!」
手にも持たせるとディーが項垂れた。距離が近いせいで髪が顔にかかってくすぐったい。どかそうと思って髪をかき上げたらいつもの眉間のしわがよく見えた。
・・・・ちゅっ
「っ!!?」
リップ音を鳴らして眉間にキスをするとディーが転がり落ちた。うわぉ、痛そう。
「ばっ、お前、なにを!?」
「ディーのしわが可愛かったせいですよー。もう用事はないですね?」
ソファーから降りて扉に向かう。女の子たちの元に帰らないと。
ぽかーんと顔を赤くしてるディーの脇を通る。
「『Trick and Treat』ですよディー。お菓子も悪戯も受け取っておいてください。」
ぱたんと扉を閉じてみんなの元を目指す。
―――HAPPY HALLOWEEN!楽しい今日をお過ごしください!!
書きたくなっただけのお話でしたー!!
ディーどんまい!ハロウィンは来年もあるよ!!
昨日考え付いて書きたくなっただけです。本当は12時までに終わらせたかったんですけど、帰ってくるのが遅すぎたので無理でした。
そんなですが、皆さんも今日を楽しんでくださいね!
お付き合いありがとうございましたーー!!
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11月8日
この度はこの『ハロウィン(略)』で皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫び申しあげます。
まさか更新したものが、新着に表示されなくなるとは・・・・!
先日知って、やっと行動しました。
大変申し訳ございません。
ってことで、こちらにほいほいと載せていこうと思います!
本編に関係はございませんので、お気軽に読んで忘れてください!
では。