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僕は異世界で  作者: ray
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僕らは教室で結果を知る

 今日はテストの返却日、教室内もわずかにそわそわとしている。

 筆記テストで800点、実技で200点。計1000点満点であり、500点以上取らないと補修の日々が待っているのだ。

 そもそも僕が筆記テストで頑張るのは補修がいやだからである。実技では50点程度しか取れないのだ。

「―――葉山、惜しかったな」

 魔法学で一問落としている。それはテスト終了5分前に直した問題の上の解答欄で、回答を消すときに一緒に消したまま気付かずに提出してしまったのだった。ものすごく悔しい。

 総計点797、当然学年一位だが、それでも十分なのだが、やっぱり満点ほしかった。しかも消しゴムで間違って消してしまったって……釈然としない。

「夏、どうだった?」

 とりあえず無遠慮に得点を見ようとした不届きものを軽く殴って鬱憤を晴らす。

「―――な、殴ることはないだろう。それにしても惜しかったな。間違って消しちまったか……まあでも、さすがというかなんと言うか、ここまで取れたのか……」

 その続きも何か言っていたが、聞き取れなかった。まあ、どうでもいいのだろう。小さな声だったし。

「―――そういうお前は何点だよ」

 そう問いかけるとぶつぶつつぶやくのをやめて、

「658点」

 間髪いれずに、

「低いな」

「お前と比べるな! 十分いい点だ!!」

 まあ、さすがにそれぐらいは知ってて言っている。

「悪い、日ごろの恨みだ」

「―――そんなものはないといえない自分の日ごろの行動が恨めしい」

 ―――だったら、止めればいいのに……。


 ―――そうしている僕らの近くで、一人の天才が席を立ったのに、僕は気付くことがなかった。




 ――Side 直輝――


 この鈍感のテストの点を知ってなんともいえない気持ちになった。

 俺らが二人で馬鹿騒ぎしている後ろで竜崎が席を立ったので、あいつの結果を大まかに知った。

 ―――恐らくは、負けたんだろうな……。

 俺は竜崎が夏のことが好きだと知っている。というよりもこのクラス、学年、学校のやつらはみんな知っている。こいつを除いて。

 理由までは知らない。俺が知っているのは今回のテストで夏に勝ったら竜崎がこいつに告白するつもりだったということだけだ。

 そもそも夏は自分の感情にすら気付いていない。あいつは竜崎が嫌いなのではなく、単純な憧れなどが入り混じった結果、反転して嫌いだと思い込んだのだ。ゆっくりとしっかりと向き合えばそれに気付けるぐらいにはあいつも鈍くないだろう。

 まあ、竜崎も竜崎だ。自分の気持ちを夏に悟られないように精一杯の虚勢を張り続けている。その所為で前線でもこいつは何度も振り返って屋上の夏の姿を確認しているのだ。

 恐らく、前回の侵攻の途中で夏の姿が見えなくなり、心配になって駆けつけたのだろう。夏の聞いた出入り口付近での驚く声は恐らくこいつだ。それに加えて今回の失敗……落ち込んでいるだろう。だが、これで夏を慰めに行かせるわけにもいかないし、俺が行くのもへんだ。

 ―――まったく、それが原因で戦線が崩れたらどうなるのか……あいつはわかっているのだろうか?



 ――Side out――



 下校時刻になると生徒たちはみんなでアリーナに向かう。

 僕と直輝はその流れに逆らって屋上に向かう。

 ―――あんなに人が集まったアリーナでやっても意味が無い。それに僕の放出力ならいまさら何をやっても無駄だ。放出力いっぱいの魔法なら十分使える。

「お前もだんだん魔法面においては諦観してるな」

「仕方ないだろう。高校に上がるまでは設置系統はやらないから、放出力の低い僕は何やってもほとんど意味ないんだよ」

 設置系統なら魔力を注ぎ込み続けることで威力や効果を増す。つまり、放出力は設置にかかる時間にしか関係なく、さらに精密に注がなければならないため、放出力があっても全開で放出してたら失敗するから重要なのは総魔力と魔力コントロール。それなら今までの人生でやり続けているため、それなり以上だと思う。

「設置系はもう使えるんだろう?」

「まあ、正直に言っちゃうと……」

 ほぼ唯一使える魔法があったらそっちに走るのも仕方ないだろう。あの弓も設置系統の魔法に近いものがある。というかほとんどそのままだ。

「それよりも直輝は練習しなくてもいいのか? 筆記があの点なんだから」

「本気で言ってるのか?」

「まさか」

 ふざけて言ったら心配された。そこまで常識知らずではない。

「そうだ、五分待つからそこに防御の結界張ってくれないか? 突破できるか試してみたい」

「怒られても知らないよ」

 そういいつつも乗り気な僕はCDを使って今使える最高の防御結界を張る。


 ―――五分という時間は僕にとって短いようで長い。まず正六角形の頂点となる部分に魔力をこめた矢を撃ち込み、それを基点にして結界を張り、固定のために中心にも矢を撃ち込む。

 結界の外に出て魔力を注ぎ込む作業を始める。ここまでかかった時間は30秒。残りの4分30秒がこの魔方陣に注ぎ込まれる魔力量を左右する。

 僕の秒間放出魔力が約600、だが、操作の問題で約135000がこの魔方陣に注ぎ込まれる魔力だ。

 なお、放出魔力は先天性に決まっており、修行等で増やすことは出来ない。逆に減ることもない。

 平均は約1500で直輝は約2000だ。低級魔法を使うのに必要な放出力が300、中級で1000、上級で1750といわれているため、中級すら使えないということがわかるだろう。

 まあ、放出力が高くても操作が下手なら放出力の半分程度しか魔法に注ぎ込めないため、上級を使える人が少ないのもわかるだろう。100パーセント使える人は一握りだ。90パーセント使えれば上手いといえばどれだけ難しいかわかるだろう。

 僕はその点では大体83パーセントぐらいなので年のわりには上手い。直輝が76パーセントなので一撃の魔法攻撃の威力は約1500だ。


 五分という時間がたち、周囲の魔力を集めれるだけ集めたので自分の周りが魔力で覆われている感じがする。

「本気で出来るだけ注ぎ込んだな……六角形を基にして中心に基点を入れることで三角形を六つつくり、さらに構造上の強度を増す、矢という物理的な基点と魔力という魔法的基点、物魔双方において陣とすることによって“存在自体”の強度も高い、魔力だけで周囲の魔力を集めて利用する回路も書き込んでるから持続時間は長そうだな。薄い部分も見つけられないほどに丁寧だし、ぶち抜くなら面の中心か……」

 実に正確な分析だ。だが、当然トラップも仕掛けてある。

「―――っと、あぶねえ。

 中心に向けた攻撃は跳ね返されるようにやわらかさと強度がある。下手に攻撃してたら自爆するな」

 その通り、五分ではこの程度しか出来なかったが、それなりにいい出来だ。致命的な欠陥があるが……。

「―――で、弱点が上と下。そこから進入して矢を引き抜けば簡単に崩せると」

「その通り。だけどどうやって入るの? 飛行魔法や跳躍力強化なんて使ったら先生に見つかるよ?」

 致命的な欠陥があるにもかかわらず、これがいい出来なのは単にその致命的な欠陥をつけないからだ。

「やり方が姑息だな。止めとこう」

「ギブアップでいいんだな?」

「ああ、先生に見つかって怒られたくない」

 そういって両手を挙げる直輝。

 ちょっとうれしい気分になってそのまま矢を引き抜き、直輝に振り返って、

「直しておいてね」

「っち」

 やれといったのもギブアップしたのも直輝なので文句も言わずに修復の魔法を使っている。

 さすがに上手だ。なんだかんだ言ってもこいつは優秀なんだと思う。

「さて、飯でも食いに行こうぜ」

「そうだね」

 そういって二人で混む前に食堂で夕食を食べた。


 ―――屋上に一人少女を残して……。



 ――Side 加奈子――



 ショックだった。

 今までにないほどに勉強した。

 それでも私は夏に勝てなかった。

 782点、十分にいい点、学年二位、恐らく夏が満点を狙わなければ私のほうが高い点だっただろう。だが、今回は夏が満点を取りに行った。しかも落としたのは一緒になって消しゴムで消してしまったというケアレスミス。完敗だ。

 ―――今回のテストで、筆記、実技ともに一位を取ったら告白すると決めていた。だけど出来なかった。

 前の侵攻で高校生が応援に来たとき、夏は葵さんにキスされたという。悔しい。

 やっぱり私は告白もしないまま夏と離れ離れになるのだろうか?

 ―――今の時代は実力主義、いくら学業でいい点を取っても実技が出来なければ同じ高校に行くことはできない。夏の実技が低い理由が努力によるものなら、私が教えてあげるのだが、あれは誰にもどうにも出来ない。

 特異的魔力親和率特化症候群。生まれてきてからすぐに魔力不足などで死ぬ。例外はただ一人、葉山夏のみ……。

 逆にその症状がひどすぎたがために周囲の魔力を吸い込み、開発されていた魔力補充の機会によってその命を取り留めた唯一の例。

 その症状の所為で実技のテストは絶望的だ。今まであいつが五十点以上を取っているところを見たことがない。

 でも私は知っている。あいつはその症状のハンデをメリットを見て、頑張った。

 持っていた才能を可能な限り伸ばして、デメリットのなるべく出ない戦闘方法を選び、メリットが生きるような選択をした。

 小学校から見てきた。ずっとその頑張りを私は見てきた。辛そうに、苦しそうにしているその姿をみて、心引かれたのだ。尊いと、美しいと、力強いと、守りたいと、そう感じたのだ。

 憧れたのだろう。幸いにも私には彼よりも魔法という点で才能があった。だからこそ彼の場で、彼に正面から“彼の戦場”で勝って、告白しようと思っていたのだ……。



 ――Side out――


 これでひと段落

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