僕はテストで満点を狙う
待ちに待った夏季の長期休暇前の学力テスト。
教科は国語、数学、魔法学、地理、歴史で国語と数学と魔法学は200点、地理と歴史は100点満点だ。
今回狙うのは合計点800点。つまりは満点である。
この世界に転生したと思ったときから本を読み漁り(ちゃんと簡単なものから順に難しいものに行きました)、授業も分からないところはしっかりと先生に聞いて覚えている。やったことは無いが、今からテスト範囲の重要なことを書きなさいといわれたらある程度かける自信がある。
「なんか、だんだん諦めている気がしてきたよ」
生前あそこまで否定していた最強ものだが、今となってはそうだったらいいのにと思っている。そこまででなくとも普通程度の才能がほしかった。定期テストレベルの勉強は才能ではなく努力だ。
始まる用意をしっかりとして席に着き、ふと視線を感じてみてみるとあの天敵がいた。明らかに敵意のあるまなざしで、反射的に目をそらした。
ちょっと悪いことをしたと思ったが、チャイムがなったため『まあ、いいか』と諦めた。
―――大人になるということは、諦めること……か。
無事テストも終了、全テスト半分以上の時間を余らせての終了だ。どこにも問題は無い。
思いつく限り間違えたところは無いはずだ。奇問の類も無かった。大丈夫だろう。魔法学では最後に一問危なかったが、ちゃんと書き直したはずだ。
「――――――」
しかし、テスト中に終わって見直しを終えたころに感じていた視線は今も続いている。
その主はあの竜崎…関わりたくねぇ。
「皆さん、テスト返しは明日なので、今日はもう寮に戻ってゆっくり休んでください」
先生からのお話も終わり、もうすぐにでも帰ろうと思ったところであのサイレンが前回よりも圧倒的に大きく、耳障りに響き渡った。
―――このサイレン、危険度が高いほど耳障りに大きく聞こえる。それを考えると前回とは比べ物にならない侵攻があることを意味している。
「――――――」
生徒たちはよく統制された軍隊のように前回と同じように武器を持って持ち場に着き始めた。否、それ以外に自分たちの恐怖を紛らわせる方法が無かったのだろう。
「―――――!!」
「―――――!!」
先生たちは連絡を取り合ってなにやら応援を頼んでいるようだ。それほどにすごい侵攻なのだろう。
そうやって思案しつつもきちんと武器を持って持ち場に着く。
今度は攻撃よりも援護のほうに回ったほうが圧倒的に役に立つのだろう。それに中学ではまだ習わない結界とトラップ系統の魔法も使える僕が恐らくこの屋上にいてもそこまで高い効果は出ないだろう。
だからといって勝手に好き勝手行動するわけにも行かない。与えられた仕事をこなしてこその自由な行動。それすらしないで好き勝手するのは子供のわがままだ。まあ、子供だけど。
矢に可能な限り早く魔力を注ぎ込み、周囲から漏れ出ている魔力をかき集める。
放出量と吸収量だと圧倒的に吸収量のほうが多いが、ほとんど関係は無い。単純に吸収できなくて周囲に漏れ出るだけだ。
サイレンが鳴ってから15分、矢に魔力を注ぎ込み始めて10分、大きな侵攻ほど到達までが長いらしいが、まだあるのだろうか?
弓兵として目はいいが、敵影は見えない。むしろどんどん先生が呼んだ応援が増えていくだけだ。
見たところ高校生と思われる。恐らく近くの高校からの応援だろう。治癒魔法の準備をする人、遠距離から魔法で焼き払おうと準備する人、いろいろといるが……一人だけ異常に存在感のある女がいた。
こちらをなんだか興味深そうに見ているので周囲からの魔力収集をやめる。そんなことをしなくてもここまで濃密な魔力があれば矢には魔力が多少は溜まっていく。
「その矢を撃ち終わったら私に魔力をまわしてくれる?」
「ええ、僕がやるよりも圧倒的に効率がよさそうですしね」
一切悩むことなく了承して片手間にやっていた矢に魔力が溜まりきる。これ以上やったら矢が壊れて自爆する。
通常の魔力譲渡の速さは術者の放出力と受ける側の吸収力の合計だ。この人の吸収力を知らないが、まあ、やらないよりはまし程度だろう。
「―――見えたぞ!!」
遠見役の生徒が叫ぶと同時に緊張感が増す。二本目に少しだけ魔力をこめた状態だったので敵影が見えるまではそのまま込め続ける。
「多い……」
誰かがポツリとつぶやいた台詞だったが、それは屋上で敵がよく見えるものたち全員の心情だった。
およそ千の魔物、一番奥には超級のものもいるようだ。本格的な侵攻である。
―――これは、多少の危険を冒してでも威力を高めるべきだろうな。
そういったことを考えると、飽和状態にまで魔力の込められた矢をつかみ、中には注がず、周囲にまとわせるようにして魔力を籠める。
さらに十分後、ようやく前線が射程に入り始めた。
ここからが長い、最もよいと思われるタイミングで先生が合図し、それに合わせて総攻撃するのだ。僕も弓矢はすでに引き絞っているが、魔力を籠める作業は続ける。
「葉山、撃て!」
その合図とともに、魔力によって発行しているその矢はようやくその力を解き放ち、敵に向かって放物線を描きながら到達し―――大きな爆発を起こした。
あの矢に籠められていた魔力はおおよそ十万、成人男性二人分の総魔力に匹敵するほどの超級の魔法である。
かかった時間一時間少々、事実上消費魔力ゼロ。使えるのか使えないのかいまいち分からない。
そのまま次々と矢にちょっと魔法をかけて飛距離を上乗せして撃つ。計15撃ったところで魔力を集めながら補充を頼んでいた人のところへ行って少しびっくりした。
―――同時に二つ以上の魔法を発動し、絶え間ない魔法の連続使用とすばやい吸収だが、それなりのペースで魔力が減っていっている。
すぐにそばまで行って魔力譲渡を使い、魔力を渡し続ける。
―――やはり、この人魔力吸収が高い。
そういった感想を抱いてすぐに消す。今はそんなことはどうでもいいんだ。
「来てくれたんだ。ありがとう、君のおかげで予想以上に倒せそうだよ」
「いいから集中してください。僕は吸収が強すぎて譲渡のペースよりも早いから魔力が溜まるんです。ここは狙われやすくなりますから気をつけてください」
「大丈夫、わかってたから」
そういって魔法に集中し始める。僕も可能な限り近くにいたほうが譲渡の量が多くなるため近くでよく戦場を見ておく。いざというときに何とでもできるように。
―――約十分後、異変が起き始めた。
明らかに押されていく前線、次々と減っていく攻撃魔法、後方に運び込まれていく人は徐々に多くなっていく。
「―――このままじゃやばいな」
「ぎりぎりアウトのペースね。私もけっこう魔力がやばいし……」
仕方ない、けっこう高かったし、あまり使いたくない方法だったんだが……。
「すいません、十秒自力で魔力を回復しててください」
「いいけど何するの?」
その問いには答えず、弓を取り出して最後の一本の矢を取り出し、一つ息を吸い込んで思いっきり足に刺した。
鮮血が舞い、その血を矢に塗りたくって矢をつがえる。
―――血は、その人の魔力を簡単に放出させる方法の一つである。
さらに三秒で周囲の魔力を可能な限り矢に押し込んで敵陣のど真ん中に放つ。
単純な魔力と術者の鮮血という最高の媒体によって発動したその魔法は敵地中心を穿ち、この戦闘の流れを少し変えた。
「ちょっと、その足!」
「そんなことより、早く魔法を撃ってください。また前線が押されてます」
「そんなことするぐらいだったら……ああもう!!」
そういっても魔法をやめないこの人に深い感謝と謝罪を心の中でしておいてすぐに魔力を譲渡する。
足の傷は簡単に止血しているだけなのでまだ多少痛みがある。それほど深く刺していないのでしっかりと立つことはできるが、踏み込んだりしたら痛みが出るだろう。
もう屋上には人が少ない。ほとんどの人が今までに経験したことのないほど大きな侵攻でペース配分を間違えて魔力が枯渇している。
そうやって現状把握で自分の近くがおろそかになっていたからか、それとも信頼しきっていたからか、それに気付いたのは為された後だった。
「―――んっ」
「――――――? !?!?」
気がつけばあの女の左腕に抱かれて唇を奪われている。
―――確かに遠くにいるより近く。近くより手を握る。手を握るより抱きしめる。抱きしめるより接吻していたほうが圧倒的に送られる魔力量は上がる。比べ物にならないほどに。
だからといって普通好きでもなんでもないやつしかも今日始めてあったやつにするか!?
落ち着け、落ち着け、こういうときには素数を数えるんだ。2,3,5,7,11,……よし落ち着いた。
抑え気味だった魔力吸収をもう一度再開し、送るほうにも意識を集中する。いままで放出と補充だと放出のほうが多かった女の魔力が補充のほうが多くなり、徐々に増え始まる。
何か今まで抑えていたのかは分からないが、先ほどまでよりも高位の魔法ばかりを使い始める女を見上げながら、もうどうとでもなれと魔力コントロールに身を任せた。
戦場で爆発音が鳴り響き、巨大な火球が落とされたときに口の中に舌まで入ってきて、持っていかれる魔力量が増えたときには自棄が理由で魔力コントロールに行くのではなく、本気で魔力コントロールに専念しなければならなくなったのはいい思い出である。
基本的に努力の人なので、HIBET(魔法)関連でもコントロールなどの努力で何とかなる部分は優秀です。