蛇足 2
これで完全に終了にしたい。
―――あるときは、世界樹と呼ばれる巨木として。
―――あるときは、奴隷の子として。
―――あるときは、一羽の小鳥として。
―――あるときは、家畜として。
―――あるときは、英雄の子として。
なんど転生を果たしてきただろう。もはや、自分の中に確りと残っていることは少ない。
初めの生では名をハジメといったこと。実に覚えやすい。
二度目の生で、明鏡止水、干戈騒乱、無限舞踏……天衣無縫、そのうち初めの三つにたどり着き、最後の一つに届いてしまったこと。あのときの感覚は今でもはっきり覚えている。
そして、愛したはずの妻を犠牲にして生き延び、その命を無駄に散らしたことも……。
―――最後に、どの世界でも英知を誇った生物は見苦しく、あまりにもどす黒い何かであるということだ。
一度、この転生の地獄に絶望し、自殺を繰り返したことがある。無限というものは無い。何度も繰り返し死ねば、いつかは消え去ることもできるのではないかと。
―――だが、結果としては無駄だったということだけである。
何度死のうと、どれだけ望もうと、すべての生き物が死ぬように、この魂は転生し、よみがえる。
―――今の僕に、自殺願望はもはや無い。あるとするならば自らが傷つかないことだけだ。
言うならば、僕に残っている感情もそれともう一つしかないのかもしれない。
意識が遠ざかる。
死というわずかな空白は、こうして終わりを告げる。
「また死ぬときまでさよなら」
僕は、この何も無い空間に別れを告げた。
僕は、生き方を決めている。
死ぬのは苦しいし、ただただ思考の中に沈みこめるあの空間はうれしいが、どうしても寂しさというものはある。
だから、僕は苦しまないように、辛くないようにして、自由気ままに生きる。そう決めている。
「―――ナンナ様はより善行を積んだものに来世のよい人生を、悪行をつんだものには来世に苦しい生を与えると語りました……」
はっきり言おう、前世の行動で来世が変わったことは一度たりとも無い。その世界で決められている善行を積み続けて死んだ後に待っていたのは家畜の生だった。もし仮にこれが良い生だというのなら変わってほしかったものだ。しかもあの時は日照りが続いたりして食うものも無く、まだ幼いころに食われた。
―――まあ、内心でいろいろ思ったし、自分らしくないとは思ったが……。
「―――故に、なんとしても悪の手先たる魔族は根絶やしにして、幸福な未来を築きあげることこそわれらに下された使命なのです!!」
宗教は、基本的に“道を示すもの”だ。それが真実であるかどうかは問題ではないと僕は考えている。その話の中で“神”を崇めるため、認識するために神話が作られ、上層部の者たちの利益となるように“神敵”を作り、悪であると示すのだ。宗教を完全否定まではしないし、それによって救われるものがいることも事実であるが、それによって失われるものがあることもまた事実であり、それによって失われるものの方が多い気がするのは仕方ないのかもしれない。
事実、今まで見てきた世界でも歴史としてだったり、実際に参加したりしている。その宗教唯一神を善しとしているものが多いが、それだけではないことも忘れてはならないだろう。しかし、“すべてに神がいる”というあの考えもなかなかにあそこまでいった宗教も珍しい。名前は思い出せないが、基本的な考え方として染み付いている。
「―――さあ、勇敢な勇者たちよ!! 今こそ立ち上がり、魔族を根絶やしにするのです!!!」
長いだけの演説を聞き流し、周囲で雄たけびを上げる人々に合わせて雄たけびを上げる。
歳は15になって少し、成人してすぐに“聖戦”というものが始まって、先発隊が全滅し、それを民衆には伝えずに次の部隊を投入しようとしている。
―――当然魔族も黙っていはいない。
今も前線でこんな演説して人を集めているこの周囲に集まり、巨大な殲滅魔法の準備を進めている。
―――後、五分といったところだろう。
僕は自分が死なず、苦しまなければいいのだ。自分を含めて、人というものに、その“時代で英知を持つもの”を一切信用してなどいない。
信用どころか、一切愛することすらできない。
体が求めても、僕の魂はもはや“人”といった“英知を持つもの”に絶望し、期待し、それもまた打ち砕かれた。
僕はまだ、二度目の生でおきた“自分の所為で愛するものを死なせる”ということをはっきりと覚えている。後悔し、償おうとして自己満足だと気がつき、最後にはそれが唯一の人らしさを失わない楔として、“天衣無縫を使わない”という誓いとして残っているのだ。これがおそらく最後の自分の人間性だろうと思う。
「―――さあ、今日は皆で楽しもうではないか!!」
戦の前に盛大な宴を開き、士気を高めようとしているのだろう。だが、それと魔族がすぐにここまで来るわけがないという過信から周囲の警戒がおろそかになっているのはすべてを無意味にすることである。
つまり、宴なんてものに参加していては死ぬ。先に失礼させてもらおう。
「どこへ行くんだ? 宴は始まったばかりだぞ?」
呼び止める騎士、目に浮かんでいる選民意識。
「緊張しすぎてしまいまして……ちょっと厠に……」
少しもじもじさせてもれそうであることをアピールする。
「ったく、仕方ないやつだな……さっさと行って来い」
「ありがとうございます」
さっさと砦から離れて森の中…魔族の気配を避けるように、探知の結界に触れぬように走る。
「―――なんであんなところに人の気配が……しかも一つじゃない」
少しはなれた殲滅魔法の範囲外に少し多くの気配がある。
しかも、その一つは先ほどまで演説していた司教。
「―――見に行ってみるか……」
明鏡止水、干戈騒乱、無限舞踏。それらの能力をすべて隠密に使えば、察知することは目視ですら難しい。
つまり、危険性無く自分の好奇心を満たすことができるのだ。やらない手は無い。
「しかし、馬鹿な連中ですな陛下。魔族への供物だというのに滅ぼすのだと意気込みおる。
あれほど使いやすい連中はいませんぞ? 何百年と前から魔族に攻め入って、敗北を繰り返しながらもなぜ滅んでいないと思うのか!? しかもこうやって一度“出兵”という形を残しさえすればそれを聞いた子供たちが正義感にあふれてまた犠牲となる。いやぁ、魔王も良く考えている」
笑う司教、笑みを浮かべる国王らしい男、眉をひそめる姫らしき女。
「おお、コーネリア様。お悲しみなさる必要はございませぬ。よき国には高貴で、優秀なものだけがいればよいのです。それ以外の下賤で愚かなものたちは高貴な者たちがよりよき暮らしをするための礎でしかないのです。
―――むしろ、死ぬことで我々の役に立つということこそが、彼らの死により良い意味を与えることであるのです!!」
それでもなお、まだ幼さの抜けきらない姫はうつむき、わずかに涙があふれる。
木々の上から眺めていたが、なかなかに面白いことを言うやつだ。それに対する反応もまた然り。
―――ちょっと、かき乱すか……。
そう思ったらすぐに行動。もはや完成目前の魔法を妨害する。
―――簡単なことだ。この場すべての魔力は、僕の味方なのだから……。
場所を少し移し、手っ取り早く魔法陣をその辺の枝で書き、呼吸に合わせて魔力を吸う。
殲滅魔法は発動と同時に周囲の魔力を使う。ならば先にその魔力をこの周囲に集め、その魔法の発動をできなくする。さらに発動に失敗させた後に根絶やしにするための魔法を準備する。
―――今回の体はいい“性能”だ。思い描いた魔法が半分“も”使える。
天上に輝く魔方陣、周囲の魔力を集めようとしているのだが、無いものは集められず、その輝きが消えていく。
―――今だ!!
無効化した瞬間に集めた魔力を使って空気の弾丸を飛ばし、半分を殺す。
消えていく命、魔族にとっては損害ですらない微々たる被害なのだが、これで十分。
―――おそらくこれで“人”が滅ぶだろうが、別にいい。僕は困らない。
「なんだ!? 何が起きている!!」
発動するはずの魔法が発動しない。終わるはずの宴が終わらない。
「どうしたのだ、グリゴールよ。あの魔方陣は消えていくではないか」
「へ、陛下。私にはさっぱり……」
「そりゃそうだ。あれは不発だ。このあたりの魔力が足りなかった」
影のように現れる魔族。だが、問題はそこではない。
「―――しかし、それはどうでもいいことだが、同胞を闇討ちするとは契約違反だなグレゴールよ。覚悟はできているんだろうな?」
「ち、ちがう! 私ではない。私はそんな命令を出していない!!」
当たり前である。これの原因は彼である。
「対価は……お前と、この姫君の命でいいだろう」
「ゆ、許してくれ。私ではないんだ。きっとこの姫が一人で……」
責任を擦り付ける。まあ、元々グリゴールに責任があるわけではないのだが、見た目にはそう見えただろう。
「知らぬ。これは決定だ。さあ、早く貴様の信じる神の元へと帰るがいい」
振り上げられる腕、上がる悲鳴、飛び散る血飛沫。
「次は、お前だ。恨むならこの男を恨め」
始めてみる死が目の前でいきなり現れたコーネリアに、それに反応するすべは無い。
国王は目を閉ざし、その結末を容認した。
―――だが、彼がそれ以上の結果を望まない。
「―――悪いが、訂正してもらおう。恨むなら僕だろうからな」
振り上げられた魔族の腕を拳でそらし、姫を守る騎士の如く立ちはだかったのは、この現状を作り出した極悪人であった。
「―――悪いが、訂正してもらおう。恨むなら僕だろうからな」
拳で攻撃をいなし、横たわる司教に言う。
「まだ生きているなら聞こえているだろう。“下賤で愚かなものたちは高貴な者たちがよりよき暮らしをするための礎でしかない”だったな。で、どういう気分だ? お前の言う下賤で愚かなものの所為で死ぬ悔しさは……よく味わえよ。それがお前が糧にしてきたものたちの苦しみだ」
司教から死を直前にした者が見せる一瞬の強い意志を感じた。
そして、司教は死んだ。それだけだ。これであの男は僕を呪っただろう。だが、それでも何かがあるわけではない。“本当の死”による安楽を僕に与えてくれるかもしれないなら、むしろ喜んでやってやろうじゃないか。
「―――おぬしは、いったい何者なんじゃ」
背後からもはや存在感のなくなっていた王が声をかける。
「一兵卒ですよ。国王陛下」
恭しく一礼しながらも一瞬たりとも気は抜かず、背後の敵をしっかりと捕捉し続ける。
「で、準備は終わったか?」
背後で魔法を行使し、体を鉄の鎧で覆う魔族に問う。
「―――気づいていながら止めなかったか。なんと愚かな。“鋼鉄のジャック”行くぞ」
「わざわざ名乗りを上げてもらえるって事は、それなりに認めてるってことかな? まあいいけど。さっさとはじめよう」
言い終わったと同時に地面を蹴り、距離をつめる。
繰り出された攻撃を回避し、頭を踏み台に一気に木の上に上り、そのまま魔法陣を描く。
―――およそ魔法としては機能しないであろうぐちゃぐちゃな魔方陣。
「下手糞が」
そんな意味の無い魔方陣なんて無視してこちらに迫る敵。
―――それが狙い。
魔方陣は、周囲の魔力を吸い取り、魔法を発動させる。中空に残っているということはあれは魔方陣と認識されているという証拠であり、未だにそのままであるということは“なかに魔力がたまっていないということ”だ。つまり、周囲の魔力を吸い取ろうとして必死なのである。だから、魔法を使っているジャックが近くを通れば強い力で吸い込み……魔方陣が起動し、爆発する。
魔方陣のもっとも危険な失敗であり、魔法陣を教えたことがあるものなら見逃さないものだ。
このトラップは彼が何度目かの生を得たときに自然界の魔力が枯渇していた世界でよく使われていたものである。
このトラップに引っかかると体が魔法陣の中に吸い込まれ、中から爆発し、跡形も無く消し飛ぶというあまりにも残酷なものであった。
そういう意味で完全に油断しきっていることはみればわかる。周囲の魔力を取り除いた時点でおかしな点に気づくべきなのだ。しかもあの魔方陣をみたらすぐに距離をとるべきだったのだ。それが理由で、この変な二つ名を持った男は内側から爆発した。
「―――いつみても気持ち悪いな……」
単に知識が無かったにしても不用意だ。こんなのばかりなのだろうか?
「きゃあああぁぁぁ!!!」
叫ぶ女の声。
うるさいとしか言いようが無い。
それに原型が見えないぐらいに木っ端微塵なのだ。いうなれば“人間版♪超低空花火(赤色)”だ。うん、普通の感性を持っているやつなら叫びかねないな。
特に処理とかせずにそのまま背を向けて立ち去る。
後ろから声が聞こえるが、特に関係ないだろう。どうせ滅ぶ運命になったんだ。
―――三ヶ月がたち、予想以上に善戦した“人”は最終決戦に挑もうとしていた。
初めの数日は滑稽とすら言えた。
本来英雄であるはずの魔族殺しの青年を全世界で指名手配にし、莫大な懸賞金をかけてらしき人物は片っ端から処刑。自分たちがやっていたことを棚に上げてその青年に無いこと無いこと罪を付け加えて、自分から戦力を削りに行く。
数日後、魔族が今までのことを全世界に明らかにした瞬間指名手配にしていたということを無かったこととして扱い、逆に英雄として元指名手配犯を祭り上げて探そうとして失敗し、多くの国で民衆の反乱が勃発。わずか一日にしてほとんどの国で無政府状態という混沌ぶり。
―――だが、“人”と言う種はそれを許さなかったのか、勇者といわれる青年が現れる。
その勇者は溢れんばかりの魔力とその卓越した剣技で多くの魔族を打ち滅ぼす。
―――それでハッピーエンドにならないのが世の常であろう。
おそらく他の転生者と思わしきその勇者は、最後にあほらしくも淫魔に誑かされて干物になって晒されるという結末。本人の表情は満ち足りたものであったため、“本人は”幸せに死んだのだろう。
一度わからないようにあってみたことがあるが、言動は軽く、隙だらけで生まれ持った才能に胡坐をかき、力と精神が全くつりあっておらず、技能といえるような技術も無い。時折『ナンナ様に力をもらったから……』といい、『俺様最強』と叫ばないだけましな声を上げる。さらには、形のよい顔を気持ち悪くゆがめて美女といわれるものたちに見境無く声をかけているのだ。すぐ死ぬとは思ったが、干物か……ある意味一番ありそうな結末だ。
なんというか、ゴミくずだった。
また勇者といわれるやつが現れたことがある。
そいつは最初の勇者(干)と違い、自分の行動をちゃんと考えるやつだった。
そいつが前線を一度押し返し、内側に目が行くようになるとあろうことか無駄な兵力をこの戦争の原因である僕を探すのに割き始め、面白そうだったから出て行ってみたら幼稚な平和論を持ち出して魔族との和睦について語り始め、それで僕を処刑しようというのならまだ話はわからないでもないが、それすらも許すといった瞬間に遠方からの魔族による殲滅魔法で焼け死んだ。馬鹿である。
最後に、勇者は召喚された。
油たっぷりの丸い豚君で本人曰く『地球から来たんだ。この世界の名前はなんていうんだ?』である。世界に名前があると思っている点でどうかと思う。また、何かあるごとにすぐに怒り、どう考えても“勇者”召喚には失敗していると思うのだがそれでも人々は諦めずに豚君の機嫌をとり、魔法を教え、すばらしい剣を授け、時には美しい“幼女”や“少女”を捧げ、豚君の気持ちの悪い笑みを維持し続けた。これだけで彼らには賞賛されるだろう。少なくとも僕なら最初に切り殺している。
一度堂々と会ったことがあるが、僕が戦争の原因だと知るまではその辺の使えるやつ程度の認識だったくせに、知った瞬間に諸悪の根源扱いに変わり、『最初のボス戦』とか、『この俺様の究極の魔法(剣技)』とか喚き散らし、最終的にすばらしい剣が足元に刺さってしまい、力を入れて抜いたときに頭が真っ二つ。そのまま死亡というあまりにも滑稽な結末だった。
偵察に来ていた魔族すら笑う珍事件。なんともいえないような空気がその場を覆っていたのは忘れられない。
―――そうして今や人の存続をかけた最終決戦。喜劇とか喜劇とか喜劇とか起きたが、今の人をまとめる人はどっかの第三皇女らしい。豚君の手つきになっていない珍しい人だ。
「ちょっと、最後に見ておくか」
人の滅亡への最後の一歩なのだ。諸悪の根源である僕も見ておくのが礼儀というものだろう。そんなもの元々無いが。
―――だが、大きく予定は変わった。
「―――加奈子……?」
第三皇女の見た目は、あまりにも加奈子に似ていた。その仕草一つとっても似すぎていた。
―――僕には、加奈子と同じ姿の彼女を見殺しにすることはできなかった。
「ああ、もう!!
本当に僕って何やってんだよっ!!」
剣を拾って振るい、使えなくなったら次を拾う。
そうやって切った敵の数はもはや二桁ではすまない。後ろを振り返れば魔族の死体の山が見えるだろうが、知っている結果を確認するほど暇ではない。
「放て!!」
号令が響き、無数の魔法が僕を目掛けて迫る。
そんなものはわかっている。それでも足は止まらない。僕の足はまっすぐに彼女を守るために進む。
迫り来る炎の矢を避け、時に相殺し、一歩一歩確実にそこに迫る。
「―――うわあぁぁぁ」
「ぎゃあ」
「くぺ」
人の断絶魔がひっきりなしに耳朶を叩く。
それを無視して歩みを進める。
―――目的の彼女の元へとたどり着くとき、彼女が五体満足で生きていると認識したとき、僕は思わず涙を流した。
たどり着いた。
周囲の護衛たちはすでに壊滅状態。周囲には魔法を準備した魔族。
さすがの“無限舞踏”といえど、ここまでたどり着かせてくれた“無限舞踏”であっても、この魔法たちから彼女を守ることはできないのだ。
「―――ここまで……か」
加奈子と同じ声が、加奈子らしくない台詞を口にする。
「駆けつけてくれたこと感謝する。だが、もういいんだ。私たちの負けだ。潔く……」
「良かった。君が加奈子じゃなくて……だけど、これは僕の意地だ。執念の一種とすらいえる。
―――このまま終わりになんてしない。たとえ何を犠牲にしようとも……」
決心した。
人であり続けるために使わなかった奥の手。
あの人でなくなっていく感覚は忘れていない。あの気持ち悪さは忘れられない。
「さあ、これをやったらどうなるんだろうな?」
自然と口元には笑みが浮かぶ。
後の人々は僕のことをなんと言い伝えるだろうか?
英雄か、それとも悪人か、道化というのもありえる。まあ、そのどれも間違ってはいまい。
―――号令とともに放たれる魔法の数々。そのどれかが彼女に当たれば死は免れまい。
「―――この先にあるのは人でなければ何なのか、その答えを見るとしようか」
―――最後の一線を越える。
―――僕の意識に残ったのは、彼女を守ったという結末だけだった。
僕は誰だ。
僕は知っている。
僕という存在は―――。
人を転生させるのは、何なのか。
彼はもう転生しなかった。
それは、彼が一線を越えたが故なのか、それとも未練を断ち切ったからなのか、はたまた別の理由か、それを判断するすべは無い。
―――だが、彼の最初の転機をここに記そう。
―――日が傾き、影が伸び、夕闇が迫り寄る校舎。
一人の少年が一人の少女を相手に話をしていた。
「____さん。えっと、なんていうか」
「どうしたのよ、ハジメ君。改まったりして?」
少年は夕焼けの所為なのか、真っ赤になっていた。
数秒の間の逡巡の後に一つ深呼吸して少年は言った。
「好きです! 付き合ってください」
精一杯の勇気、彼自身もこの気持ちを伝えるつもりは元々無かった。
「―――――――」
ただただ流れる時間。この沈黙が重く少年を押しつぶす。
「―――ごめんなさい。私にはその資格が無い……」
「資格なんて!!」
そんなものは必要ない。そう続けようとした少年を少女が制する。
「ううん。君には言っとく。私、実はものすごいおばあちゃんなの……」
少年は少女の話を、あまりにもばかばかしいその話を最後まで聞いた。
おそらく正常な大人が聞けばそれを子供の戯言と受け止めただろう。だが、少年は少年であったが故に信じ、その少女の言葉が少年に楔を打った。
「―――だからね。君もそうなったら、私たちは同じだから。そうなったら、ね」
少年は青年になり、その少女とも離れ離れになった。告白し、振られるという苦い思いでは、少年のうちに心の奥底へとしまわれ、それを否定しようと青年の心が出来上がった。
「異世界最強ものってどう思う? ハジメ」
「―――異世界最強とか、どう考えたっておかしいよ、セイジ……」
はい、ハジメ君の行動に賛否両論あると思いますが、基本的に否定してください。おそらくそれが正常な人の判断です。
ハジメ君の奇行の理由は基本的に“死にすぎ”です。彼は自分がいくら死んでも死ねないから基本的に命に対して考えが軽いです。具体的には死と痛みなら死を選ぶぐらいに軽いです。
完全に最後のところは蛇足ですが、この件についてハジメ君は覚えてません。むしろ、最後に加奈子という名前を覚えていたことがどれだけあのことが彼の印象に強く残っているかが伺えますねー。
さて、完全に話してますが、とにかくこれでこの話は完結。もう足さない。きっと、たぶん。
新しい話が出るのは半年後ぐらいになると思っておいてください。場合によっては三月ぐらいに出るかもしれませんが……まあ、この辺でさようなら。




