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僕は異世界で  作者: ray
13/20

僕は自宅前で招待(拉致)される

 侵攻によってできた傷跡も少しは癒えて、注意しなければ侵攻があったことがわからないほどにまでに町が回復したころ、ようやく夏は塾を再開できた。

 ほかの場所がすぐに再開している中、なぜこれほどに遅れたかというと単純に夏の時間がなかったのだ。

 魔力吸収をやらなかったとはいえ、無限舞踏自体が夏には大きすぎる負荷をかけるし、ユーフリック現象の状態を確かめる必要もあった。

 それらすべてを終えて、再開の準備をしたら時間がかかったということだ。


「さーて、久しぶりに看板出せるよ」

 看板を出入り口に立てかけて、伸びをすると遠方から何かが飛んできている。

 黒色、翼がある、大きさは人より大きいが倍ほどにもない……なにあれ?

「葉山夏様でよろしいでしょうか?」

 目の前に降り立つそれ、近くで見てみるとガーゴイルのようである。

 魔物なのだが、いきなり話しかけられてしかも手元に武器がない今、話し合いですむならそれに越したことはない。

「はあ、僕が葉山夏ですが……何か御用ですか?」

 それはまったく敵意がなく、なんだか調子が狂う。

「申し送れました、私はヴィヴィアン様に仕える執事のケインズと申します」

 しっかりと頭を下げるその執事、悪魔像が人に頭を下げている場面は傍から見たら滑稽であろう。正直言って、僕が恥ずかしい。

「単刀直入に申しまして、ヴィヴィアン様にあなたを連れて来いと命じられたため、参りました。一緒に来ていただけますか?」

 ―――さて、どうするのが正解なのか。

「すみませんが僕には妻がいるので、一度妻と相談してから返事をするということでよろしいでしょうか?」

 というか、ヴィヴィアンってあのオークが言ってた名前だ。明らかに怪しすぎる。とりあえず話が通じるのだから帰ってもらおう。

「ヴィヴィアン様は生かして連れて来いと申しました」

 ―――前言撤回、魔物は言葉が通じても話は通じない。

「あまり手荒なことはしたくないのです。おとなしくついて来い」

「わかりました、ちょっと準備するのでそこで待っててください」

 そういうと返事を聞かずにそのまま看板を裏返して立てかけ、中に入って動きやすい服装に着替えて小太刀を二本持つ。

 簡単に書置きを残して正面から出る。

「で、どっちに行けばいいんだ?」

 あまりにも入り口に似合わない悪魔像をみて言う。

「私の足につかまってください。後は私が飛んで運ぶので」

 いやな予感がする。

「―――一応聞こう、片道どれぐらいかかる?」

「大体三日といったところでしょうか?」

「無理だ、体力的に」

 ちゃんと考えればわかりそうな気もするが……。

「―――それもそうですね。仕方ありません、これを使いましょう」

 どこからか出した水晶のような何か。

 だが、問題はそこではない。僕にはわかる。これは、あのペンダントとほとんど同じものだ。

「これには帰還用にとヴィヴィアン様に魔力をこめていただいたものです。できれば使いたくなかったのですが」

 貴重なものなのだろうか?

「せっかくヴィヴィアン様の魔力のこもった品を懐に入れておけるチャンスだったのに、まあ、良いですよ……」

 ―――もはや何も言うまい。



 水晶のようなものが地面にたたきつけられて砕け散ると円のように光が広がり、すぐそばにいた夏とケインズと名乗ったガーゴイルを飲み込んだ。

 ―――次の瞬間にはそこには砕けた水晶だけが残っていた。



 光に飲まれて、気がつけば荘厳な城だった。

 僕の装備に異常はなし、つながりから考えて、結構離れてしまったようである。三日というのはうそではなさそうだ。

「―――ようこそ、私がこの城の主のヴィヴィアンです。以後、お見知りおきを」

 シンデレラ階段を下りてくる真っ白な少女、見た瞬間にその異常性に気が付けた。

「葉山夏さん、ですよね。本当によく似ている。背格好はほとんどそのまま、わずかに顔立ちが違いますが、そちらは母親譲りでしょう」

 感じ取れるすべてがあまりにも自然すぎる。

 自然の異物を察知する無限舞踏でも場を読む明鏡止水の探知力でも声をかけられるまで一切気づかなかった。

「ケインズ、戻りなさい。私は彼と二人で話したいの」

「かしこまりまして」

 悪魔像はこちらをにらみつけるとそのままいずこかへと消える。

 この場から気配すら完全になくなったとき、少女は話しかけてきた。

「あれでも優秀なんですよ。あまり私に近づくものに殺気を振りまく以外は」

「―――それが一番の問題でしょうけどもね」

 まあ、手を出さないならまだ良いかもしれない。

「こちらへ、私の部屋で話しましょう。ここではあなたが誰に何をされるかわかりませんから」

 こちらが最も心配していたことを懸念してか、場所を移すというが……。

「―――ああ、私の部屋では絶対に無限舞踏を続けてくださいね。そうしなければ死にますよ」

 ちょっと段差があるから気をつけろといった調子で死ぬから気をつけろと言われたが、逆に納得した。

 ―――無限舞踏を続けなければ死ぬということは、そうしなければ無差別に殺されるということ。すなわち普通の生物は絶対に近づけないということだ。

 この女が攻撃しなければ、無限舞踏を続ける限りあの場では死ぬことはない。

 まあ、言い方を変えれば無限舞踏が途切れたら死ぬし、この女に殺される可能性も高いのだが……今はそんなことを気にするのはやめるとしよう。

「ついてきて」

 そういった少女についていき、あまりにも神々しすぎる気配の部屋に連れて行かれる。

 確かに、この気配の中に“異物”が入ったら、一瞬で浄化されて消えてしまいそうだ。無限舞踏によって自らを自然の一部としなければすぐさま消えてしまうだろう。

「早く入って、見つかっちゃう」

 言われるままに入って、少し後悔した。

 ―――見た目以上にきつい。

「よかった、ちゃんとできてるみたいね。

 ―――じゃあ、きちんと挨拶しましょう。私はヴィヴィアン、この城の主で人が侵攻と呼ぶものを指示しているものよ。

 この部屋がこんなにも神気あふれているのは私が天使で神の指示を聞くため。

 ―――そう、“あなたたちが崇めているものがあなたたちの生活をめちゃくちゃにしてるの”、面白いでしょう?」

 無邪気な笑顔に表も裏もない。この少女は、本気でそれを面白いといっているのだ。

「知ってた? 天使って言うのは、確かに人の言うとおり神の手足で下界に神が干渉するときに使うものだけど、“決して人のためだけになるように使われるわけではないの”。

 でも、それはそうでしょう? 人だけを優遇してたら、不公平じゃない。それに人って言うのは悪、あなたはものすごい犯罪者に崇め奉られて、その願いを聞きたいと思う?

 人は“間引き”をしなければ際限なく増えて、その強欲のために同じ種族ですら殺しつくす。当然、ほかの生物への配慮なんて一切なし。私たちからすれば生態系を荒らす“害虫”そのものね」

 くすくすと笑いながら残酷なことも言い続ける少女。

「でも、恥じることはないわ。そんな人も神々の作り出した作品のひとつ。しっかりと管理はしても、殺しつくすことはないわ。あなたたちがおとなしくしていれば」

 これは警告だ。下手なことをするなという警告。

「いいことを教えてあげる。

 ―――もともと、無限舞踏って言うのは天使の技、周囲に漂う自然の力を集めて、害虫を排除するためのね。

 でも、その害虫もなかなかにやるものでたまーにそれができてしまう異常者がいるのよ。

 で、そこで考えられたのが精霊化、ユーフリック現象というシステム。これは天使以外のものが無限舞踏にまで至るとかけられるリミッター。あまりやりすぎると勝手に文字通り自然の一部になってくれる優れもの。あなたの父親も、私との賭けに負けて、精霊になっちゃったけど、まだ自我を持っているんだから、まだ賭けも負けたわけじゃないのかな?」

「本題は? そんな説明は正直要らない。知ってても何の得もしないし、知らなくても何の損もしない情報だ。むしろ知ってたら損する類のものだろう」

 話をきって、本題に入らせる。

「―――久しぶりの人との会話なんだから、もっと楽しませてよね。

 まあ良いわ、本題は『このままおとなしくここで暮らさないか?』っていうものよ」

 ―――こいつ何を言っているんだ?

「理由は簡単、無限舞踏はそもそもが天使のもの、人が使えてしまっているという事実はあるけども、ほとんどは使えない。

 それに、無限舞踏を使えば、理論上は人でも万の魔物を打ち倒せるし、天使にも攻撃を当てることができる。

 ―――それは困るのよ。言ってしまえばこの世界の守護者である私たちに対抗できる力が存在するって言うことが。正直、今すぐにきってしまいたいところだけど、それは神々の不完全を証明することになる。それは私にはできない。だから、あなたにおとなしくしてもらうことで、神の面子を守ろうというわけよ。理解できた?」

「理解も何も、僕は妻帯者だ。ここに留まれと言われて『はいわかりました』なんていえるわけもないだろう」

 ばかばかしいという風に断る。

「別に、色欲の問題なら、私を使ってもいいのよ。それぐらい問題ないし、私もあなたみたいな不遜な男は嫌いじゃないわ」

「―――馬鹿か? そんな理由で結婚なんてするか」

「似たようなものじゃない。あなたの場合は傷心につけ込まれたみたいなものだし、何よりも私はあなたが彼女に憧れと近しいものとしての親愛以上のものを感じないけど?」

「―――――――」

 だめだ、よくわからないけども、否定できない。

 否定しなくてはいけない、否定しなくてはいけない、否定しなくてはいけない。

 ―――だけど、僕にはそれを笑って否定することはできなかった。

「ほら、あなたは否定できない。それが葉山明彦とあなたが同じ理由。よく似ている。あなたたち親子は、あまりにも自然に近づきすぎたから、人からもどんどん離れてしまっている。あなたたちに今あるのは固まりきった常識や価値観による優先順位。だから、理屈抜きの感情から来る愛情をあなたたちは持っていない。―――いいえ、持てない」

 否定できない。

 ―――いつからだろうか、本気で感情をさらけ出すことができなくなったのは。

「精霊化は魔力吸収をやめれば確かにとまる。けども、体が自然になじむのは止められない。

 人の定義はいろいろあると思うけど、私は生きるため意外に欲求を持つものを人だと思っている。名誉欲然り、知識欲然り。強欲こそが人を人にする。そこに面倒な道徳なんていらない。むしろ聖人だといわれている人こそ人ではない。よっぽど鬼の名を与えられる殺人鬼の方が人らしい」

 何もいえない。僕には否定ができない。確かにそうだ。そういわれたらそれを否定することはできない。してもすぐに切り返されるだろう。

「―――ね、どれだけあなたに先がなく、人がどれだけ愚かかわかったでしょう?

 さあ、この手をとりなさい。そしたら私が精霊化も多少は止めてみせる」

 最後に、この少女は、あまりにも魅力的な提案をした。


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