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僕は異世界で  作者: ray
12/20

僕は再び戦場に舞い戻る

 ―――巨大な侵攻だった。

 前線はほぼ壊滅、そしてその波は夏と加奈子の住む場所にまで到達していた。



「―――裕也、奈美、ここは先生に任せて走りなさい。

 大丈夫、これでも元は防衛校出身だ。君たちよりはまだ戦えるよ」

 そういってほとんど魔法も使えないにもかかわらず、嘘をついて教え子を逃がした。

 明鏡止水の心は、高い探知能力も兼ね備える。ここを抑えたらあの子達に危険はほとんどないだろう。

 目の前にはオークが三体。正直加奈子の予備で置いてある武器はサブウェポンしか使えない。メインの太刀は僕には筋力的に使えないのだ。故に、僕が使えるのは小太刀が二本のみ……オークの分厚い皮膚を切り裂くには難しい。

 心を落ち着け、明鏡止水に至り、両手に小太刀を逆手に持ち、オークの気を引きつつ攻撃を華麗に避け続ける。

 ―――十分がたったころ、そのイレギュラーは起こった。

「先生っ!!」

 突如として飛び出してきた教え子の姿、その手には家の中にあった加奈子の太刀が握られており、ふらふらしながらも勢いよくその太刀を振り下ろした。

 太刀はオークの右肩口を深々と切り裂くが、そこで止まり、悲しいことに持つので精一杯の少年にはそれを引き抜くことができなかった。

 怒り狂うオークはその右手の斧をその少年に振りかざし、たたき割ろうとする。

「裕也っ!」

 教え子を守るために右手の小太刀で斧を受け止め、受け流そうとして右手首を痛める。抱える左手の小太刀はどこかに投げ捨てた。

「―――っ!」

 激痛が走り、思わず右手の小太刀も落としてしまう。

 ほかのオークもただ見ているだけではなく、こちらに迫る。

「裕也、もう出てくるな。邪魔でしかない」

 そういって突き飛ばすようにして逃がすと無事な左手で落としてしまった小太刀を握る。

 ―――大丈夫だ、刀は左手で振るうもの。左手一本ならまだ戦える。

 心を落ち着けろ、こいつに怒ったところで何も状況は変わらない。むしろ悪くなる一方だ。怒りをこのままにしてでも心を落ち着けなければならない。そうしなければ明鏡止水には至れない。

 オークの一撃を避けてそのままの動きで力いっぱい切り裂く。

 怒りをこめて、このやり場のないどうしようもない八つ当たりのような怒りをそのままオークにぶつける。

 怒りのままその力をそのままに、獰猛に切り裂く。

 ―――これこそが干戈騒乱。ただただ切り裂くだけだが、その単純さゆえに強力な技。

 気がつけば、オークは目の前の残り一体になっていた。

 左手には小太刀ではなく太刀がいつのまにか握られており、しっかりと振り上げられた太刀はこのまま特に何も考えずに振り下ろすだけでオークを殺せる状態だった。

 そのまま太刀を振り下ろし、その命を刈り取り、軽く血を払って鞘を捜して鞘にしまう。

「先生……」

 鞘のすぐそばに裕也がいた。

「その、ごめんなさい」

「気にしろ、そしてもうやるな」

 気にするなとは言ってやれない。僕は生きると決めたのだ。それを壊そうとするのを許すほどやさしくない。

 右手首の状態は悪いが、最悪ではないし、むしろ良いほうといえる。

 ―――加奈子が帰ってきたら治療してもらおう。

 そう決めるとそのまま周囲の気配を探り、魔物の存在がないことを確認すると、そのまま裕也を連れて避難場所に急ぐ。

 道を歩く途中、裕也はうつむいて何も話さなかった。


「夏!」

 避難場所に着いた途端に加奈子がとんできた。

「加奈子、これが言ってた“来るだろう大侵攻”か?」

 そう、右手首を見せないようにたずねる。

「そう、たぶんこれがその大侵攻で間違いないんだけど……とりあえず話はしてあげるから右手首見せなさい」

 隠していることはバレバレだったのか、指摘されたので素直に手を差し出し、治癒術をかけてもらう。

 徐々に腫れが引いていき、動かしても痛くないレベルにまで回復する。恐ろしいほどの治癒術のかかりやすさである。普通ここまですぐに完治しない。

「その左手に持った太刀と腰の小太刀を見るに、何かに襲われて、そこの子をかばうときに右手首を負傷といったところかな? 明鏡止水の回避能力を考えるとそれしかないと思うけど」

 明鏡止水でなら加奈子の太刀ですら回避できる。ほとんどの攻撃は回避できるだけの能力はあるのだ。

 裕也はうつむいたままで、ひどく落ち込んでいるように見える。

「あまり言ってやるな。一応これでも僕を救おうと思っての行動らしい」

 あまりフォローになっていない気もするが、考えないようにして話を聞く。

「で、これが言ってた大侵攻というのはわかったんだが、ほかに何かあるのか?」

 そう聞くとわずかに間が空いて加奈子は口を開いた。

「―――魔物側にも人のように言葉を扱うやつがいるのは知ってる?」

「初耳だな」

「今回のはそういった“魔族”って言われているのが起こした侵攻だから、こんなに被害が大きいの。指揮系統がしっかりしているから各個撃破が難しいのが問題」

 なるほど、今までは強いやつについていた魔物たちが群れという形でこちら側に攻めてきたものだ。だから連携も何もないが、今回は言ってしまえば軍隊だから被害も大きいと。

「敵のトップは?」

「まだわからない。どこかにいるとは思うんだけど、そこまでこちら側の人が奥にまで進めてないから」

 ―――だったら、簡単な方法がひとつある。

「僕が行こう。回避能力なら誰よりも高い自信があるし、連絡も加奈子相手なら念話が使える」

「それだったら私が! というわけにも行かないか……」

 敵に見つかればおそらく加奈子でも生きて帰ってくるのは難しい。

 僕も見つかればただではすまないが、最悪援護が来るまで回避し続けることができる可能性が高い。端的に行って僕は生存率が馬鹿みたいに高いのだ。

「ということだ、行ってくる。 ―――大丈夫だよ。無理はしない」

 それに、最悪の場合は魔力吸収などの手段を使えば簡単には死なない。

 動きを大きく制限する太刀を加奈子に手渡し、もっと戦闘向きの服に着替えてから小太刀をもう一本もらって両方の腰に差し、何かと使い勝手のいいロープなどを持ってすばやく慎重に侵攻の激しい方面に進む。

 ―――その姿は見る人が見れば葉山明彦のように見えたであろう。



 魔物たちの意識の外を通るのは思いのほか簡単だった。

 ―――明鏡止水はその場を読む技術。その場に向けられている意識も読み取ることは可能である。

 影から影を渡り、ようやくそれを見つけ、見つけられた。

「まさか、お前のほうから来てくれるとはなぁ……葉山明彦!!!」

 オークのようではあるが、オークとは違って筋肉は引き締まっており、手に持つ斧もほかに比べて圧倒的にでかい。

「―――一応行っておくが、僕は葉山夏で、葉山明彦は父の名前なんだが……」

 言っても無駄だろう。

「そうかよ、あの野郎をだせ、そしたら見逃してやる」

「あー、本当にやりたいのだが、いないやつを連れてくるのは無理だ。あきらめてくれ」

「だったらあきらめろ」

 そういってこちらに飛び出してくる。

 ―――早い、ほかのオークとは比べ物にならない。

「何だよ、お前も明鏡止水とかって言うのできんじゃねぇか。だったらおめぇでいいか。明鏡止水の使い手を殺したら俺もヴィヴィアン様に認めてもらえるんでな」

 そういうと先ほどよりも早く、鋭い一撃が目の前の空間をえぐる。

 やばいな、一応援護を頼んだが……来る前にこっちが殺されるかもしれない。

 攻撃を数回回避してから大きく距離をとる。

「っち、闇雲にやってもあたらなねぇか……」

 ということは、次からは何かしら考えられた攻撃が来るということだ。

「くらえっ! 旋風空裂!!!」

 斧の通った後から真空の刃がこちらに……ってこれはやばい!!

 反射的に周囲の魔力を集めて小太刀に風をまとわせて迎撃する。

 同じ属性同士相殺して消えた。が、思わずやってしまった。

「やるじゃねぇか、だったら、これでどうだ!!」

 闇雲に打ち出される真空の刃。これを小太刀だけで防ぎきるのは難しい。

 ―――だが、干戈騒乱を得た今、あれができないはずがない。

「―――無限舞踏か……」

 自然と真空の刃を避けていく身体。そのままの勢いで小太刀を振るい、斬る。

 二度目だからか、自然とわかる。

 己と他の総括。すべてをこの動きにこめること。全は一、一は全なり。

「ッハ! 無限舞踏の使い手を殺したとなれば、俺も大出世間違いなし!!!」

 そういって奮い立つその異物をその場すべての力を借りて切り裂く。

 小太刀は滑らかに、鋭く、すばやくそれをバラバラにし、その刀身についた汚れを遠心力で払われると、その輝きを示した。



 ――Side ヴィヴィアン――



「報告いたします。無断で侵攻を行ったカズが葉山明彦の息子、葉山夏によって戦死。葉山夏が無限舞踏を使ったという報告もあります」

 葉山明彦、久しぶりのその名前を聞いた。前に魂レベルでなら生きているかも知れないといわれてからもうどれだけたつだろう。

「ご苦労様、戻ってクリス」

 そういうと私の騎士は再び部屋の外に戻る。

 しかし、葉山夏か……一度招いてみても面白そうだ。気に入ればあの時と同じ質問をする。気に入らなければ斬って捨てる。

「―――あーあ、つまんなーい」

 何も面白いことがない。いい加減にわがままを言ってもいいころだろう。

「ケインズ! 例の葉山夏を招待して頂戴。絶対に生かしてつれてきてね」

 そういうと窓の外で何かが飛び立つような音がした。

 ―――これで後一週間もすればつれてくるだろう。

「面白い人だと良いけど」

 そういって窓の外を眺めた。



 ――Side out――




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