僕は学校近くで商売を始める
社会人編スタート
僕は本来魔法を使って戦っていい身体ではなかった。
自分の体のことを母親に言われて、僕は完全に落ち込んでしまった。
何事にもやる気が起きない。頼んでしまった以上、竜崎の剣術のみは真剣に取り組んでも、それ以外の何もかもを放棄していた。
言ってみれば、今までの人生はこの体質からの不利を、やり方だけで覆すことのみに邁進していた。
魔力の放出力がないなら時間をかけて、他人に自分の魔力を使ってもらって、そうして、魔法が中心のこの世界で、魔法に圧倒的なハンデを持った自分の存在意義を高めようとしたのだ。
―――だが、それももう疲れた。
意味のない、むしろ害にしかならないことをやって、何が楽しいのか。何も楽しくない。元々僕は平和主義者だ。暴力で解決できるからといって暴力に走るのは嫌いだ。
マゾでもないし自殺志望者でもない僕は、これから何を目的に生きていけばいいのだろう?
そう悩んでいた。
剣術の基礎を習い終え、竜崎からもう大丈夫だという言葉をもらったとき、初めて対価を要求された。
『葉山……いや、夏。
わ、私と付き合ってくれないか?』
最初、何を言っているのかわからなかった。
次の瞬間には怒りと、妬みと、うれしさが湧き上がり、何も出来ずに立ち尽くした。
『夏、妬むのはよくないわ。それにね、加奈ちゃんのこれはもう何年も前からの思いなの。決して夏への嫌がらせでもなんでもないわ。純粋な好意よ』
そう母親に言われて、ようやく気付いた。
―――ああ、僕は才能のあるこいつを妬んでいたのか。
それに気付いたら、もう怒りも妬みもなくなった。
『ああ、わかった。喜んで』
そう自然と答えられたことが、今では信じられない。
―――この後、あれは交換条件のほうではなかったことがわかり、そのままキスを要求されたのだが、今ではいい思い出だ。
それからというもの、僕は一切の外部との魔力の交換を止め、どうしても戦闘の必要な学校を止め、小さな学習塾のようなものを開いた。
最大で入る生徒は8名。中学までの座学を教えている。
それからも独学で勉強を続け、学力認定試験といわれるもので大卒認定を受けると塾の学習範囲を高校にまで広げ、小さいながらに多くの生徒たちに愛された。
今では学校からそう遠くないこの場所では小腹を満たすたこ焼きなどを表で売って、中で勉強を教えている状態だった。
加奈子はエリートコースを順調に進み、今は小隊長まで勤めている。
―――そう、ここまでは順調だ。
「ただいま」
「お帰りなさい。どうする? まず飯にするか? それとも風呂か?」
最後の私というのは省かせてもらう。
「そうだな、とりあえずは風呂に行って来る。それから飯にしよう」
そういって加奈子は風呂場へと向かっていった。
―――僕たちはすでに結婚している。
新婚でこそあるが、そういった行為を未だしていないのはなかなかに珍しいと思われる。
しかし、どうしても躊躇してしまうのだ。もしこれで立場が逆なら、僕も押し倒すだろう。だが、今の家の収入の70パーセントが加奈子の収入だ。まあ、僕の収入でも十分に生活していけるし、加奈子の収入はいざというときのためとたまる一方なので、いいのだが、どうにも気が引けている。
我ながら上手くなったと思う料理を二人で完食して、一緒に皿を洗いつつ、雑談をする。
「最近、魔物の侵攻が妙に落ち着いているからな、夏も気をつけてくれ」
加奈子は心配性だ。だが、自分にもそれはある。
「だからといって無理するなよ。僕が出来ることなら協力してやりたいんだが……」
「夏に協力されたら、今度は精神的に参ってしまうだろうな」
こんな風に、もうすでに僕が魔法を一切使えないことは笑い話である。
一応弁明させていただくと、僕は魔法が一応使える。ただ単に魔力の吸収を一切やっていないだけだ。そうしなければ料理を作ることもできない。
洗い物も片がつき、僕が風呂に入って一緒にベッドに入る。
―――向かい合って眠るのもいつものことだが、まだなれないものだ。まだ緊張してしまう。
そうして一緒に眠ると、夜中に加奈子が抱きついてきた。
それによって目を覚まし、加奈子のやわらかい身体が密着して理性が保てなくなりそうだ。
「―――夏、我慢しちゃダメだよ」
そう加奈子が起きていたのか僕の上にのしかかり、キスをする。
「正直ね、不安なの。私は本当に夏に愛してもらっているのかって」
「加奈子……」
「ねえ、お願い、寂しいの」
そういう加奈子の身体は僅かに震えており、抱きしめた―――
―――翌日に残ったのはよろよろの夫と、つやつやの妻だった。
簡単な理由だ。一度はじめたら抑えていたのが加奈子だと夏にはそのころになってようやくわかり、そのまま搾り取られるように何度も繰り返され、体力のない夏が気絶して終了ということである。
そのときについでといってはあれだが、ちゃんと契りも済ませている。最初に済ませた。というかそれが済んだから絞られた。
元々お店は昼過ぎからの開店だし、珍しく加奈子は休みだったのもあって午前中はかなりゆったりと過ごした。
「データ上、恐らく近いうちに世界的に大きな侵攻が起きるだろう」
唐突に加奈子は言った。
「実は、今回やりすぎてしまったのは事実だが、やるように言ったのはトップ陣の一人だ。そいつが夏の魔力吸収の高さを思い出して私の魔力タンクに使うように仕向けたんだろう」
「残念ながら、それはもうしないって決めてるのにもかかわらずね」
まったく、なかなかに馬鹿なことをするものだ。魔力吸収の能力の高かった僕の経歴を知っていながら、僕の今までの経歴全てを調べていないなんて、手抜きにもほどがあるだろう。
「―――夏、だからといって無理はするなよ。私のことを思っても、魔力譲渡のために魔力吸収をされるほうが心苦しい」
…………。
「―――さすがに見えもしない相手の危機を知る方法は、僕にはないよ。せっかくユーフリック現象は止まっているんだ。わざわざ進行を再開させるつもりはないよ」
ユーフリック現象はまず魔力放出力が上がり始めることから始まる。
次にその放出力が総魔力を超えたとき総魔力量が同時に上がり始める。なお、これを“放出力の総量不超”という。
最後に総魔力が人の限界地を越えたときに精霊化が始まり、徐々に消えていくらしい。
放出力が総魔力に届くまでが重要で、これに届かなければ進行が止めることができる。ただし、届いてしまえばもう止めることは出来ず、個人差はあるもののおよそ一年で精霊になり消えてしまう。
「そうか、それならいいんだ」
そういわれて安心したのか、加奈子は一つ深呼吸をするとそのまま外に出て軽い運動を始めた。
「夕方には戻る」
「了解、出来れば帰りになんかいい酒を買ってきてくれ、久しぶりに二人で飲もう」
いろいろあっても仲のいい夫婦だった。
反省はしている。後悔はしていない。
いろいろと無理があるのはわかっているが、このタイミングで入れないといけないものがいくつかあるため、気にしないでいただきたい。
基本的に、加奈子が襲うような行動をしたのは上司の命令をきっかけにしてはいるけども自分がやりたかったというのが一番です。“不安だ”といっているのにうそはありません。上司も夏の状態は知らないもののやっていないのは知っていたため、どちらかというと“加奈子の性欲発散”が目的だったのが現実です。




