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第4話 対の存在

がらりと変えたつもりです。

今回は前話までに更新はありません。



 ユヨリ即位暦一年の時――


 央土に生を授かった人々は、空を自由に駆る二つの生命体へ顔を向けた。たとえ(つぶ)さに見えずとも、無関心ではいられなった。


 空を自由に渡る生物は、空気を掴むことのできた翼をもつ魔族か、鳥から進化した魔物か、鳥にしか存在しないというのに、その『巨躯なる異形の生物』は翼を備えずに空に浮き、その眼窩より小さな女性を見上げていた。

「……魔王」


 誰ともなく呟かれた『魔王』の言葉は、瞬く間に拡がりを見せ、彼の生物は赤黒く濁った眼光を『勇者』の女性に向けていた。

「どうか、どうか我々を、……どうか世界を救って下さい」


 誰の呟きか、そんな一言を待っていたのか、間もなく魔王は醜く歪に()じ曲がった左腕を勇者の方へ薙いだ。


 竜巻のような上昇気流が幾筋も生まれ、暴風が勇者を襲うが、勇者は刃を失った大剣の柄だけのものを差し出しただけでその暴風の勢いを殺した。そればかりか、空気を足で掴んだかのような加速をもって魔王の懐に入り、その巨躯を『く』の字に曲げてみせた。

「がぁっ――」体躯に見合った大音量の声が央土に響き渡る。


 そんな次元の桁の違う闘いが始まってから数十という激突を経て、双方から魔出(まいず)に似た波動が生じる。ほぼ同時に放たれ、交わった波は数倍に膨れ上がり、周囲へ被害をもたらそうと弾けかけた。

「――がいいっ」魔王が、握り拳を固めた一撃を今にも弾けんとしていた核にぶつけ、雲の中に撃ち込む。


 核は弾けた、光りを空一面に広がる霞みの中に閃光が貫いた。一瞬遅れて霞みは晴れ、央土を吹き降ろす暴風が頭上から震わせる力と共に襲った。


 ――


 耳が捉えたのは、圧倒的な密度をもった空気の波だった。一波また一波と繰り返し襲い、一向にその波は引くことを知らなかった。


 聴覚機能の不全に陥り、次いで平衡感覚を狂わせ、人々は立っていることも覚束なくなり、誰しも次第に白む視界に、この世界の終わりを思わずにはいられなかった。




 ツトニ即位暦四十年の時――


 魔王カデュバクが神の使いミルカネルに敗れた時より、世界は新しい時代を迎えたと言って過言ではない。


 いつか魔王を生んだ女神が穿った暗い大地に、新たに明るい奇跡が生まれた。


 奇跡の中心、ミルカネルによって神性の拳骨が降ろされた先に、『魔王』という存在を忘れまいとする石碑がある。碑には、魔王が言ったとされる言葉が刻み込まれている。


 カデュバクにとっては、人間など道を這う虫けらでしかないのだと奮われた暴力と共に、『昔世』を冠する魔王として伝わっていた。


 ある王国を救う為に、シクレ神の召喚に応じたワタルは、かつて魔王が口にした言葉を小さく告げる。

「人間が死んで、死んで、死んで、死んでも困ることはない――か。確かに言ったんだな。記憶にはないが、不思議と感覚を知っている」


 ワタルの「勇者が渡河して許しを請う」という提案に、王は英断でもって応えた。その成果は麻袋に詰められている。


 数時間前、王女は侮蔑の眼差しを向けて、ワタルを「裏切り者」と罵った。嘆息交じりに、ワタルも返したが、自身納得させられるものではないことを分かっての言葉だった。

「国を救う為に、王が決めたことだよ」


 ゆえに、王女に背を向けたワタルは、それとは別に一つの決めごとを自らに課すのだった。「もしも、王の御首で許されず、なおも国を追い詰める様ならば、身体を投げ打って、俺を迎えてくれた王に応えてくれよう。シグレとの契約の履行ともなるだろう」と。


 勇者という存在は、どの国でも、王の間まで特別な伝手は必要なかった。


 石碑を置いた国であるセイガンの城門で用向きを伝えると、ワタルの荷物を(あら)めた衛兵は目を剥いて、ワタルのことを二度見した後、より上位の者へ報告する為に駆けて行った。


 戻って来た衛兵の他に二人――恐らく縦長が隊長、横長が宰相か大臣クラス――の者がいた。

「貴様は何者か?」


 横柄な態度を見せる横長な人物の問いに、ワタルは黙って視界を下げて首を振る。

「き、貴様……」

「宰相に向かって何と無礼な態度か!」

「宰相か。俺は勇者だ。隊長クラスの方とお見受けするが、名を訊ねる時は、自分から名乗った方が心象が良いな」


 ワタルは二人の背後ではらはらと様子を窺って、青褪める衛兵とは対照的に、堂々と正論を、怒気を孕んだ二人にぶつけた。


 横長が眉間に皺を作って睨み返し、縦長は鞘から剣を抜くも全く動じないワタルに、縦長は剣を下ろして話し掛けた。

「衛兵が報告を上げてきたが、麻袋の内容……中身は確かか?」

「こんなふざけたガキがわし等の宿敵の首を持って来れるものか! どうせ、変異種の鬼か大鬼の首であろう!」

「首の主より嘆願を預かっています。お聞き届け願いませんか?」


 縦長と違い、反発心だけで口を挟む横長を、ワタルばかりか縦長も倣い無視をした。

「遺言と。取り合わなかった時は如何する?」

「俺の提案を採用してくれた王に応える為、行動します」

「力づくと。いや、その願いとは?」

「残念ながら、貴方にだけ告げることはできない。貴国の代表の前でなければ」

「そうか……。ならば、行こうか?」

「ならぬ。首実験も行えないような下劣な首で、王に会わせる訳にはいかぬ」

「宰相殿。では、貴方の首であれば、王に会わせてもらえますか?」


 言うや、ワタルは手刀を薙いで横長の横一線の前髪を斜めに斬り落とした。


 特別な伝手以上に、存在に見合った力を見せれば、王に会うことは可能だった。




 アウオ即位暦七十九年の時――


 スミレという少女は、父親が役目を終える日を心待ちにしていた。待ち望んでいたのは、継承者という地位。八十年という人によっては生きる時間よりも長い時を歳を取らなくなるのだから、出来るだけ早く継ぎたいと思うのは、女性であれば当然のことだったかもしれない。


 しかし、彼女は別に若いままに時間を止めたいと思っていたのではなかった。

「エトラ様。あたしは娘の為に、継承者になりたいのです。あの子を守れるだけの権威を継ぎたいのです。かつて、父に宣言した『勇者』の名乗りくらいでは、何も変わらなかった。……だから、あたしはイエ様の意に沿う、間違った父を蹴落としたいのです」

(――神子。気持ちを鎮め、待ちなさい。決して、(さと)られないように。)


 彼女は、今よりもっと若い時分に母親となることを決めた。その場で、娘の為に、実父にすら逆らうことを身に刻むようにして、『勇者』となった。紫に輝く瞳の奥に、かつて人々に晒した青みと同等の色を湛えて。

「イトコ。あなたを、母は狂ったイエ様には渡しはしません。出会った時、あなたは声を嗄らしても、涙を涸らしても、訴えていた――その見開き、赤く血走った眼で」

「ははさま……」

「大丈夫ですよ。あなたに付けられた檻や澱を思わせる名前『オリ』も変えたのですから。イトコが心配することは何もないのです。母が『イエカ』となる日も遠くないのですよ」


 彼女は、布団にイトコと呼ぶ自分の娘の背を(さす)り、あやしながら、その晩もいつかの日を夢見た。




 女神エトラに仕える一族として、また次期当主の継承者として、籠の鳥の生活を強いられてきたスミレは、その後の人生を大きく変える出会いを待つ身にあった。


 その時は唐突で、それを視界の端に捉えた途端、彼女は女神の言葉を聴く神子としての役目を果たしている最中であることを忘れ、相手が絶対的な存在として、一族の長にあるアウオである事にも気が付かないまま駆け寄り、無我夢中に箱を取ろうとした。


 それまで言い付けには逆らってこなかった愛娘からの行動に、アウオも冷静さを欠いた。力の加減も忘れて振り払った際に、箱は彼女の手元に残り、こじ開けられてしまった。

(………)


 中には奇妙な生き物の姿があった。まるで人のようでありながら、歪。最たるはその小さな体に合わぬ長い髪。統一性のない色が複雑に絡み合い、体を覆っていた。

(……と、呼び掛けなさい)


 彼女は優しい自分の声を聴いたが、その呼び掛けを飲み込んだ。

(……さあ、)

「セリム。言結う、セリム花芽(かが)有唯(うい)


 彼女は意識の奥底から届く声に反発していた。姿形を見れば、誰もがその異形にまさにそれを示す「セガル」と口にしてしまうところを。それは何故か。優しい声の裏側に、あまりにも予断を赦さない厳しい感情のうねりを感じたからだった。


 アウオが、セリムと名付けられたものを指差す。

「馬鹿を言うのも程々になさい」


 良くて毛むくじゃら、悪い言い方であれば幾らでも思い浮かべられるような物体に、最上級の名前を付けた娘を説く。

「先代のイエ様が危険と判断されて檻の中に押し込めていたものを!」


 だが、彼女は動じなかった。

「お父様。あたし達の言葉は残酷である。口にする時は感情に任せてはならない――そう、かつてお父様より教わりました」

「何もおかしくないではないか? 名前など、こいつには無用。檻から出す必要もなかったはず」


 アウオはもはや使い物にならなくなった檻を見下ろして、苦々しく吐き捨てた。

「そうではありません! どうしてこの子を、このように怯え苦しむ愛しい子を危険などと口軽に」

「魔王だ。こいつは我等を滅ぼす魔王となるのだ。危険でないはずがないだろうが!」


 アウオは娘に一喝した。


 しかし、どれだけ危険性を説明されようとも彼女は反対に違和感を覚えているだけだった。

「イトコが我等を滅ぼす……」


 そこでハッとする。アウオの言葉を呟き、その違和感に気が付いた。

「誰が魔王になるなどと?」


 女神の言葉を授かる神子ならば、その旨が一緒に語られるのが普通。それが今回、果たして言葉の所在は誰であるのか。

「イエ様だ」

「イエ様は神子ではありません」


 イエ――彼女の祖母のことだ。継承者ではあったが、神子ではなかった。

「代わりに炯眼(けいがん)であられたのだ」


 ものの本質を見極めるという眼力を意味する炯眼は、言葉使い内では、それを持つ存在は外に知られる前に暗殺され、言葉は口に出すこともはばかれる――禁句だった。


 しかし、いつの間にか傾倒しきった父親を前にして、悟った。

「お父様。では、あたしは『勇者』になりましょう。この子の処遇は任せて下さいませ」

「むぅ……」

「あたし達に徒なす存在にはいたしません故」


 それは決別の言葉。


 アウオは父親、家主の顔を辞め、継承者でもなく、壮年の言葉使いとして力を振るう。

「言結う、スミレ掛牙(かが)得意(うい)! そちの言葉と行動は矛盾する。その――『()の瞳』、貴様は勇者にはなれん。神子とはさすがは言葉通り。魔王を生み落した悪女の加護を与えられた者よ、似合っておるわ。魔王の母となる、その選択にその身をして後悔するがよいわ!」


 アウオは一方的に言葉をぶつけると、着衣を調え、しずしずと立ち去った。


さぁってと、次話以降どう展開させていこうかな。

というか、読みにくかったでしょうか?


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