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06:ユリ、願望と現実

 女の子が好きだ。


 ヒラヒラした服であったり、手入れを欠かさない髪であったり、オシャレをしているところ。頬を染め、ときに泣きながら恋の話に時間を費やすところ。

 なにより、男と違ってゴツくない。ふわふわして、可愛いいところが何より大好き。

 それなのに、どうしてこんな状況になってしまったのだろう。




 ■□■□■




「篠原、一緒に帰らねぇ?」


 HRが終わり、荷物を纏めていると降ってきた声。顔を上げると、目の前には正統派と名高い、無駄にキラキラしているイケメンがいた。

 予想以上の近さに思わずイスを引きたくなったが、そんなこと、マドンナである私ができるはずもなく。必死で耐えれば、周りの女子から殺気がほとばしった。解せぬ。


「佐藤くん、近い」


 とりあえず、間近に迫りすぎた顔をどうにかしてほしくて、苦笑いを浮かべながら口を開いた。


「え? あ、ごめん」


 一般のクラスメートの距離よりかはまだ近いが、少し女子の殺気が減ったことにほっと息を吐いた。

 だいたい、さっきのあの近さはないわー。鼻がつきそうなくらい近付くってどうなのよ。そんなことが許されるのは少女マンガくらいでしょ。

 なんて、言ってもわからないのがこのイケメンだ。毎日毎日。私は一緒に帰りたくないのよ。

 さて、どうやって断るか。


「佐藤くん、毎日だよ? 私なんかとそんなに一緒にいなくても。友達とかは?」


 お前はそれなりに友達多いだろ。そっちと帰れよ。そんで寄り道とかしろよ。


「気にしなくていいよ。俺が篠原と一緒に帰りたいから」


 キラキラした笑顔で告げてくる、はっきりとした言葉。無駄に直球勝負なのが疎ましい。

 断られることなんて、微塵も考えてないのだろう。これだからイケメンは。少しは私の都合というものも考えてほしい。

 荷物をまとめ終われば、すかさず鞄を持ち上げられた。


「あ」


「ほら、鞄は俺が持つから。行こ?」


 優しく微笑みながら手を差し出す。まるで童話の王子様のようだ。

 いやいや、鞄返せよ。勝手に持っていくとか酷くない? 私まだ行くって言ってないんだけど。

 あーこのイケメン殴りたい。

 今までどれほど湧き上がってきたかわからない衝動を堪えて、私も佐藤に負けない最高の笑顔を返した。




 昔から、色んな人に容姿を褒められた。

「ユリちゃん可愛いね」そう言われるのが当たり前で、自分でも可愛いことを自覚していた。

 何もしなくても、欲しい物が与えられる。可愛いって得だ。

 でも幼稚園のとき、テレビに出ていたモデルを観た。

 顔は可愛いのに、それ以外は最低。料理もできないし、バカ。マンガを見ても、可愛くても性格ブスは沢山いた。


 ――可愛いだけじゃダメなんだ。


 僅か四歳にして、私は悟った。

 そらから、勉強も運動もできるように努力を始めた。そして、何かできるたびに褒められるのが嬉しかった。

 何もしなくても与えられた物より、ずっとずっと嬉しかった。

 親、先生、親戚に近所の人。「ユリちゃんすごいね」って言われるために、もっと努力した。しかし、その姿は見せないように。

 そして小学校にあがるころには、皆に好かれる優等生になっていた。

 元からの可愛さを損なわないよう、可愛く見える笑顔や角度も研究したし、スキンケアも毎日怠らない。体型維持には人一倍気を使ったし、同時に勉強も徹底的にした。

 小学校高学年のころ、調理実習のために前日猛特訓していたら母親に「もう止めて」と懇願された。

 テスト前日の徹夜は当たり前。翌朝、徹夜明けを感じさせず、何食わぬ顔で学校に行く私を見て、両親がドン引きしていたのを覚えている。

 でも、それに見合うだけの対価はもらった。


「篠原さん、また満点よ。すごいわね」


「ユリちゃんと同じ班がいいー」


「えー、私も!」


「あら、篠原さん家のユリちゃんじゃない。おつかい? 偉いわね」


 小学生にして、人気者で完璧な美少女として近所でも有名になったほどだ。

 しかし、それが変化したのは中学に入ってから。思春期か何かは知らないが、男子に囲まれるようになった。


「篠原さん、好きです」


「篠原って可愛いよなー」


「木村君、ユリちゃんのことが好きなんだって。私、ずっと好きだったのに」


「篠原さん、人の彼氏取るとか最低」


 小学校では上手く立ち回っていたけれど、中学では無理だった。思春期って恐ろしい。

 そしていつの間にか、私の周りから女の子はいなくなった。

 何か表立って言われることはない。でも、男子に囲まれた私に女の子は誰も近寄らない。嫉妬の混じった目線を向けられるだけ。

 でも、私への賞賛はなくならない。ただ違和感だけが残る。満たされない気持ち。そう、そこで私は気付いたのだ。


 ――女の子が足りない!!


 自分の可愛い整った顔を見慣れたせいか、むさ苦しい野郎に囲まれるより、いい匂いのする女の子のほうが好きになっていた。

 そのことを自覚した私は、より群がる男子をうっとおしく感じるようになった。表面上は優等生を演じ、頭の中はどうやって女の子との仲を戻すかを考える。

 もしこのとき、素直になって男子を邪険にしていれば今の状態とは違っていたかもしれない。

 でも、私は自分のイメージを守ることを選んだ。誰にでも優しい、完璧な美少女。

 賞賛されることに喜びを感じる私には、これまでの努力を捨てるような真似ができなかった。

 私って相当見栄っ張りな性格だったんだね。しかも、死んでも治らないほどの。




 本当は、高校に入ったらそれも変えて女の子の友達作ろうと思ってたんだけど……。

 何か、やたらイケメンに囲まれだした! どこの乙女ゲーム? フラグなんて立たせるか! 全力でへし折ってやるわ!

 って、イメージを壊さない程度にかわしてたら、女の子の反感買っちゃった。おかげさまで、高校でもぼっちです。

 笑えない。笑えないよ。男なんてむさ苦しいだけじゃない。たとえイケメンだろうが、女の子の可愛さには勝てないのよ。

 柔らかくないし、いい匂いしないし。あーあ、私も女の子と帰りに寄り道したいな。こんなイケメンじゃなくて。

 心の中で泣いていたら、いつの間にか佐藤に手を繋がれていた。引っ張られるまま、教室を出て行く。

 はぁ、俺様何様生徒会長様が卒業して少し落ち着くかと思ったら、新たな刺客まで訪れるし。何? 新学期になったから新メンバー? マジいらない!

 こんなに憂鬱な気分になるのは、絶対五月病のせいじゃないだろう。


 あぁ、女の子に癒されたい。


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