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03:ナナ、砂糖じゃなくてだしが好き

 教室の一角が光り輝いて見えるというのに、わたしの隣は暗く陰っている。


 どうもナナです。新学期が始まって二週間。アヤのイライラは日に日に増している。

 なんというか、見ないように意識はしてるんだけど、やっぱり見ちゃう。という感じ。目の前でそんなふうにイライラされるとこんなにも不快なんだね、卵焼きうまー。甘いのもおいしいけどやっぱり一番はだし巻きだよ。焼き加減もばっちりだし、今日の出来は完璧だなぁ。とか弁当の味に浸らせろ。

 食事は楽しくしないとダメなんだから。そう思って親友を睨むけど、こっちに気付きもしない。仕方なく、わたしも不機嫌の原因であるほうを向くことにした。

 机三列分隣。そこには、光り輝く原因というか、むしろ発光源というか。どちらにせよ、これだけは確か。


 誰もがうなずく美男美女が、仲良くランチタイムなう。


「篠原の弁当ってうまそうだよな。一口もらってもいいか?」


 明るめの茶髪にピアスが光るイケメンが、小首を傾げて篠原さんに問いかけた。一つの机を挟んで向かい合わせに座っているので、二人の距離は近い。


「近すぎんだろ。何だその距離。バカップルか!」


 アヤのツッコミに、あー確かにそうかもと内心頷く。

 でも、わたしとアヤも同じじゃない? 一つの机で食べてるし。あの距離で話すときあるから、別にいいんじゃないかな。それに篠原さんも気にならないのか、「どうぞ」と言ってお弁当箱を差し出している。にっこり笑顔付きで。

 すごいなぁ、篠原さん。わたしなら誰かにお弁当を分けてあげるなんてできないよ。

 この卵焼きも唐揚げも、米の一粒たりとも誰にも渡しはしない!

 あ、佐藤君の顔が赤くなった。イケメンはどんな顔をしてもイケメンのようだ。関係のない女子たちが、その表情を見て歓声をあげている。そしたらアヤがさらに舌打ちした。

 そんな状況に気付かないイケメンの名前は、同じクラスの佐藤君。親しみやすい性格と、ころころ変わる表情が人気の正統派の美形だ。きっと、イケメンと言われて思い浮かぶ最初の顔がこの顔なんだろう。

 そんな彼は去年、篠原さんに一目惚れしたらしい。でもって、先輩たちの押しが強すぎて目立てなかったらしい。同じクラスになったのをチャンスとばかりに、何かと篠原さんの側にいようとしているらしい。アヤが言ってた。

 なので昼休みはもちろん、休み時間は毎回だし帰りにも声をかけている。それがアヤにはうっとおしく映るようだ。


「じゃ、じゃあ、このタコさんウインナーもらうな」


 伸ばした箸が掴んだのは、可愛らしいタコさんウインナー。随分可愛らしいチョイスである。わたしなら迷わずメインを選ぶのに。

 仲睦まじい二人の様子にギリギリしているアヤのお弁当箱から、こっそりからあげを奪ってそんなことを考える。タコさんを口に入れた佐藤君は、カッと目を見開いた。


「何これ、すっげぇうめえ!」


「大げさだよ。ただ切って焼いただけなんだから」


「え? もしかして篠原、自分で弁当作ってんの?」


「そうだけど」


「うっわーすっげぇ、超すげー」


 途端に佐藤君は瞳を輝かせた。「すげー」を連呼している。


「うわ、バカっぽい」


 アヤ、それは言っちゃダメだよ。

 呆れた顔をしている親友の冷めた目線に気付かない佐藤君は、ひたすら篠原さんを褒めまくった。ただし、同じ言葉を繰り返しながら。

 キラキラした顔のせいで無邪気さしか感じない。これだけ褒められれば、悪い気はしないだろう。げんに、あそこだけ空気が変わってきた。


「すっげぇうまかったよ、サンキュ」


「ありがとう」


 にかっと笑う佐藤君と優しく微笑む篠原さん。雰囲気はすっかり少女マンガ。二人だけの空間ができあがっている。春の温かな日差しにのも負けない状況。なのに、こちらは極寒冬模様だ。


「けっ、何がすごいだ。弁当ならナナだって自分で作ってるっつーの!」


 アヤの言葉遣いが悪くなってきた。これはめんどくさくなるな。長年の経験からわかる。これはヤバい。


「何が一番気にくわないかというと、満更でもなさそうなあの逆ハー女の態度だよ」


 なんかアヤが語り出したよ。


「去年の内に、誰かと付き合ったなら良かったんだ。でも実際は誰も選んでないし、今でも男共を侍らせてる」


 そうだよね。篠原さん去年からモテてたけど、結局誰とも付き合わなかったもんね。


「何がしたいの? 知ってる。ただ男共にちやほやされたいだけだろ、このピー女が!」


 あ、この鮭フレークおいしい。もっと買い置きしておこう。煮物は甘過ぎたかな。調味料の分量間違えたか……。

 アヤはまだグダグダ言ってるし、佐藤君は篠原さんしか見ていない。後ろの席の眼鏡の佐藤君は、二人の空気に居心地悪そうにしているし、ギャルな佐藤さんは二人を恨めしそうに見ている。あれ? なんか佐藤多くない?

 そりゃ日本一多い名字だし、仕方ないか。でもややこしいな。だいたい、あんなに派手なキラキラ顔のくせになんで名前が「佐藤」なのさ。逆に覚えにくいよ。

 いや、それじゃ全国の佐藤さんに失礼だ。何かあだ名でも考えよう。佐藤だから……。


「ちょっと、ナナも食べてばっかいないで何か言ってよ!」


 失礼な。わたしはちゃんとアヤの話も聞いていたし、二人の様子も見てたよ。わたしのことシカトしてたのはアヤのほうじゃんか。

 話せなかったのは、口いっぱいに食べ物が入ってたからだもん。リスみたいに頬袋をいっぱいにしているものを、少しずつ飲み込む。お茶で喉を潤して、よし。


「んじゃま、さとぅーに決定で」


「は?」


 状況がわからず目を点にしているアヤの口に、自信作である卵焼きを突っ込んだ。


 はは、マヌケ面。


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