13:アヤ、成績なんてどうでもいい
「いやー凄いね、アヤ。また一位じゃん」
「ああ、別に普通」
あたしは目の前の無駄にハイテンションな幼馴染に、適当に相槌をうった。
「テンション低いよ! どうしたの?」
「そういうナナはハイテンションじゃん。どうしたの、普段の無気力さは」
まぁ、聞かなくも理由はわかってるんだけどね。
「だって、このパンケーキめちゃくちゃ美味しい!」
うん、安定のナナだわ。瞳をキラキラさせてて、可愛いだなんて思ってないんだからね!
まったく。普段はローテンションで素っ気ないくせに、食べ物が絡むとやる気出すんだから。
ちなみに、あたしらがいるのは駅前のパンケーキ屋。ナナが前から気になっていたココで寄り道をしていた。苺とクリームがたっぷり乗ったパンケーキを、ナナは休むことなく口に入れていく。
「アヤ、食べないの?」
「食ーべーまーす」
「なんでそんなに元気ないの?」
いやいや、だってさ。
今日はテストの結果が返ってきた。あたしははチラリと右に視線を向ける。そこには、パンケーキが来るまでの暇潰しに見せ合った、成績表があった。
「なんで、こんなに点数低いわけ? ナナ」
全教科の並んだ点数は、どれも赤点ギリギリの数字を示していた。一緒に勉強してるのに。何で、全部赤点ギリギリになるの? これ、後一つ二つ間違えたら絶対赤点だよ。
あたしが頭を抱える理由に気付いたのか、ナナは普段からは想像もできない良い笑顔でサムズアップした。
「大丈夫だよ、アヤ。赤点取らなきゃ進級できるから」
そういう問題じゃないよ、ナナ。あと、ほっぺにクリームついてるから。
「はぁ」
思わずため息がでるのは許してほしい。
てかさ、本人が気にしてないのに、なんで他人のあたしが気にしてるの? ほっとけばいいってのはわかってる。赤点取って補習になっても自業自得。ナナが悪い。わかってるけど……。
「あーやー、早く食べなよ。今日はアヤの一位のお祝いなんだから」
「という名目で、ナナがパンケーキ食べたかっただけじゃん」
人がアンタのことで悩んでるっているのに、食べ物のことばっかか己は。
「違うし! ちゃんとお祝いだし!」
「次はナナの成績アップのお祝いがしたいなー」
嫌みと笑顔たっぷりでそう言えば、ナナは黙り込む。あ、ちょっとすっきりしたか……。
「えい」
「ちょっ、なに人のパンケーキ取ってんの!」
「アヤが素直に祝われないからだし」
このやろー。しかも、チョコバナナのチョコたっぷりな部分取ったな。
ナナは物を詰め込んでいるからか拗ねているからかわからない、膨れた頬でそっぽ向いている。あたしはナナに聞こえないように、二度目のため息をついた。
本当はわかってる。毎回テストの度に、ナナはお祝いと言ってどこかに誘ってくれる。そのお店が、美味しくなかったことなんてない。
それに、今回はテスト前のこともあったんだろう。保健室で少し様子がおかしかった自覚はあった。そのことを、ナナなりに気にしていたのだろう。
でも、仕方ないじゃないか。ナナが竜胆先生と、あまりにも仲が良かったから。
初めて保健室にナナと訪れたとき、二人の仲の良さに驚いた。あたしより仲が良いとは思ってないけど、それにしても気安すぎる。
ナナはあんなだから、調理部の子にも餌付け感覚で食べ物を貰っている。でも、あそこまで懐くことはない。この前は食べ物を分けてたし、あたしでさえめったに貰えないのに!
くそ、風紀のヤツらが邪魔さえしなければ、ずっとナナといれてたのに。ナナが保健室に通うこともなかったのに。
……あーはいはい。認めます。認めますよ。ようするに、あたしはヤキモチを焼いていたのだ。あの、大人の色気漂う、でもちょっとだらしない、竜胆先生に!
恥ずかしい。馬鹿みたいだ。絶対ナナには言えない。まぁ、伝えたところでナナにはわからないんだろうけど。うん。でも、そこがナナらしさだからなぁ。
頭を乱暴にかいて、あたしは手を伸ばした。柔らかな頬を指でつつく。
「ナーナ」
呼ばれて、目線だけがこちらに向けられた。なに。と目が語っている。まだ拗ねているようだ。さて、こういうときは……。
「ごめんね」
素直に謝るにかぎる。目を丸くしたナナがようやくこちらを向いた。
「ごめんね、もう大丈夫だよ。今日は祝ってくれてありがとう」
「べ、別に。美味しい物は楽しく食べたいだけだし」
知ってる。ナナの持論だもんね。
「だったらさ、チョコバナナ食べたんだから、そっちのも一口ちょーだい」
パンケーキに伸びていたナナの手が止まった。
うっと詰まった顔で、あたしを見上げる。自然な上目遣い、ごちそうさまです。
しばらく悩んだ結果、ナナは自分の皿から切り分けたパンケーキをフォークに刺して差し出した。
「はい」
じっとこちらを睨んで、フォークをあたしの口元へと近付ける可愛さに、悶えたい気持ちを押し殺して口を開く。あーんと食べさせてもらったパンケーキは甘く、苺の酸っぱさがそれをくどくないものにしていた。自然と口元が緩む。
「美味しい」




