大きな時計塔①
約3話しかありませんがお楽しみいただけたら本望です。
反響がよかったら続編書くかも?
雨の日。大きな時計塔に迷い込んだ小さな男の子。彼は町で友達と鬼ごっこをしていたのだが、急なドシャ降りな雨によってこの大きな時計塔に雨宿りするはめになった。
中をマジマジと見つめているうちに好奇心から探検しようと動いたのである。
結果、迷ったが。
「外はまだ雨が降ってる。」
体は勿論、濡れている。
と、その時、機械の音だらけのその中で人の歌う声が聞こえた。とても悲しく、神秘的で聞き入ってしまった。
気が付くと、彼は時計塔の中心部の奥深くのドアの前に居た。歌声はその中から聞こえてくる。
「何者だ。」
歌っていた声は突然そんな風に話しかけていた。警戒している声である。しかし、所詮は子供。こんな所に人が居る事の喜びでまったく気にしていない明るい声で話しかける。
「僕の名前はイアン。このドア開けてもいい?僕、今一人でさ。」
「...勝手にしたらいい。」
ドアを開けると、ひとつの大きな部屋に出た。その部屋の中心部になにやら変な大きな古時計がある。その真ん中に扉のような物が付いていて普通の時計ではなさそうだ。
「お姉ちゃんはどこにいるの?」
「ここだ」
「この古い大きな時計の中に居るの?」
「そうだ」
「どうして?」
「生まれた時からずっとここに居る。」
「他にだれかいないの?」
「いない。」
「どうしていないの?」
「皆、死んでしまったから。」
「ふーん。」
しばらくたってから、女は扉の向こうにいるイアンに話しかけた。
「一人だといったな?どうしてココへ来た?」
「町で他の友達と遊んでたら雨が降り始めてさ。雨宿りしに来たんだけど、迷っちゃって。」
「そうか。町が出来たのか。」
「え?お姉さん知らなかったの?」
「昔は村だった。そうか、あいつが言っていた事はこう言うことか」
「?あいつって?」
「私を一度ここから出してくれた奴だ。」
「へ~。でもさ、出たかったら出ればいいんじゃない?どうして出ないの?」
「出られない。この扉は鍵が無ければ開けられない。」
「鍵?」
イアンは直ぐさま辺りを見回し、角にポツンと置いてある机を発見した。しかし、そこには誰かの骨の遺体が垂れかかっていて、怖くて近ずけない。
「お前が来るもっと前に、あいつも来ていた。よく外の事を話してくれたものだ。」
「そのあいつって、どうしたの?もう来てないの?」
「ああ。随分前に、話の途中でアイツの声が聞こえなくなっていった。最後に御免と言っていた。何がだと聞いても答えは返ってこなかったな。」
イアンでも解った。きっとその人はあそこに骨になっている人だと。
「...多分、その人「解っているさ。アイツも死んだのだろう?」...うん。」
「私は生まれて、アイツと出会っていろいろな事を知って、アイツによってまたココに閉じ込めてもらった。鍵は捨てろと言っておいた。だからもう、この扉は開かない。」
「え?どうして閉じ込めてもらったの?」
「...」
だが、彼女は答えない。
「ねぇ、お姉さん。」
「...雨が止んだ様だな。早く仲間の元へ行け。」
イアンは彼女との会話に夢中になっていたみたいだ。既に雨は上がり、時計は12時を指している。
「...そして、もう二度とココへは来るな。」
「...え?」
「歌が...歌えなくなるから、もう来るな。」
「え、え?お姉さん、ちょっと」
「誓ったのだ。ここに閉じ込めてもらう際に。あいつと。」
「いつも歌うって言う誓い?」
「ああ。私が死ぬまで。」
イアンは先ほどからずっと思っていた疑問を聞いてみる事にした
「出たくない?そこから」
「...二度と御免だ。」
「そっか。」
イアンは最後に思い切って彼女にこう聞いた
「お姉さんのお名前は?」
「...セレネ。」
「バイバイ。セレネさん。僕また来るね!」
そう言って駆け出していく少年のその言葉にあっけにとられていたセレネは静かに一人呟いた。
「勝手に...しろ。」
時計塔の鐘が鳴る。もう何十年も時を刻み、鐘を鳴らすこの時計塔はこの日から鐘の音が楽しく跳ねるように聞こえ始め皆の心に響き渡るようになったとか。
「いつかまた、ここから出たいと思ってしまう日が来るのかな?シン。」
彼女はひっそりとそこに横たわっている彼、シンに話しかける。
「お前が死んでから、もう50年だ。ここもあと何年建っていられるかな。」
そういいながら彼女は今日も歌を詠う。
でも、今回は嬉しそうな声だった。
終わり(続く)