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勇者しかいない世界で、俺は魔王だった

掲載日:2026/07/06

本作は一話完結の物語です。


『あなたは魔王です』


女神が言った。


俺は……そうだ。


魔王アルベルト。


史上最強の魔王。


……のはずだ。


「なぜだ」


俺は頭を押さえた。


「記憶がところどころ欠けている。俺はなぜ、こんな場所にいる?」


『記憶欠損です』


「なに?」


『魔王様の場合、だいぶ重めですね』


「ふはは!」


俺は笑った。


「その程度、魔王城の万能薬を飲めばすぐ治る」


俺は女神を睨みつけた。


「おい、女神とやら」


『はい?』


「貴様が勇者どもを始まりの町に送り出し続けたせいで、

 我が魔王軍は滅び、俺はとうとう死んでしまった!」


『おめでとうございます』


女神は両手を合わせた。


『大変喜ばしいことです!』


「喜ぶな! 祝辞はいらぬ!」


俺は吠えた。


「俺を始まりの町へ送れ」


『えぇ〜。嫌ですよ。ここにいればいいじゃないですか』


「送れ」


『嫌です』


「送れぇ!」


女神は小さくため息を吐いた。


『でも……本当にいいのですか?』


「決まっている。冒険者どもを血祭りにあげてくれるわ!」


『それは……楽しみですね』


女神は笑った。


『では、お送りします』


「何だ。妙に聞き分けが良いではないか」


『テレポート』


視界が白く弾けた。



目の前に、街が広がっていた。


始まりの町。


どれほど攻め込もうとしても辿り着けなかった、勇者誕生の地。


そこに今、俺は立っていた。


「ふはは……!」


広場の真ん中に、いかにも勇者らしい若者がいた。


腰には剣。背には盾。


「我は魔王アルベルト!」


名乗ると同時に、魔法弾を放つ。


魔法弾が勇者に直撃した。


「ガハッ!」


勇者は吹き飛ぶ。


だが、立ち上がった。


「生きているのか?」


恐ろしく頑丈な勇者だ。


いや、よく見ると隣にも勇者がいた。


さらに隣にも。奥にも。路地にも。店先にも。


「……なんだ、この町は」


勇者が次々とこちらを見る。


「ふはは! 束になったところで、貴様らに勝ち目はない!」


一人の勇者が、空を埋め尽くすほどの雷撃を放った。


「効かん!」


俺は重力魔法で軌道をねじ曲げ、地面を岩塊として撃ち返す。


勇者たちが吹き飛んだ。


「ふはは! 弱い!」


その直後、背筋に寒気が走った。


「なにぃ!? 背後に回ったか!」


小刀を握った勇者が、俺の背後を狙っていた。


「ならば毒霧を喰らうがいい!」


黒い霧が広場に広がる。


勇者たちは次々と膝をついた。


「ふはははは! 弱すぎる!」


その時、ぽん、と肩を叩かれた。


振り返る。


僧侶が立っていた。


いや、違う。


僧侶っぽい勇者だった。


「ヒーリング」


街全体が治癒魔法に包まれ、倒れていた勇者たちが一斉に起き上がった。


「くっ……ただの僧侶が、これほどの範囲を回復できるはずがない!」


僧侶は穏やかに微笑んだ。


「もう争いはやめましょう、魔王」


その腰にある剣が目に入った。


あの形。あの光。


「お前は、俺を倒した勇者か!」


最後の戦い。


聖剣。


眩い光。


俺を貫いた、勇者の姿。


だが、顔だけが思い出せない。


僧侶は首を横に振った。


「私は、その勇者ではありません」


「では、なぜ同じ剣を持っている!」


「孫ですので、これは借り物です」


「孫!?」


俺は周囲を見渡した。


農具を持つ老人。


買い物袋を下げた主婦。


宿屋の親父。


パン屋の娘。


犬を連れた少年。


……いや、違う。


少年を散歩させている犬。


全員が、異常な覇気をまとっている。


「まさか……こいつら全員が……勇者か?」


どこからともなく女神の声が響く。


『ピンポーン! 大正解です!』


「数は……八十といったところか」


『いえ、町内だけでも三千人くらいいます』


「多すぎるだろうが!」


『今は空前の勇者ブームなんです』


「ブームで勇者になるな!」


『伝説の勇者に憧れて、勇者はもう生活の一部扱いですね』


「では、エルフ族とドワーフ族は!? ただの弓好きの森の民と鍛冶工だったはずだろう!?」


『今では立派な勇者です』


「なん……だと……!?」


『毎日、魔王様を模した銅像を試し撃ち、試し斬りしていますよ』


「俺を練習台にするな!」


俺は歯を食いしばった。


だが、たかが勇者。


何人集まろうと、魔王である俺を殺すことなどできない。


「いいだろう。本気の我を見せてやる」


空が暗くなる。


魔力が渦を巻き、はるか上空から巨大な隕石を呼び寄せる。


「この街を存在ごと消す!」


俺は叫んだ。


「グラビティユニバース滅茶苦茶メテオストライク!!」


名前は今考えた。


だが強そうなので問題ない。


空に巨大な隕石が現れる。


「ふはははは! 灰になるがいい!」


その時、光が飛んできた。


水の魔法。


炎の魔法。


風の魔法。


光の矢。


聖剣の斬撃。


それらが一瞬で千、二千、三千と増えていく。


隕石が削られていく。


「……おい、女神」


俺は震える声で言った。


「まさか、この世界には」


『勇者を送りすぎてしまいまして……』


女神の声は気まずそうだった。


『Y世代しか残ってないんですよねー(笑)』


「何だ、その世代は!?」


『勇者世代です』


「笑いごとではない!」


巨大な隕石は砕かれた。


最終的に、俺の真上に拳大の隕石だけが残る。


俺は指を鳴らした。


魔王らしく、格好よく消滅させるためだ。


ぱちん。


消えない。


「……ん?」


ぱちん。


消えない。


「なぜだ!?」


町中の勇者たちが、俺を中心にバリアを張っていた。


半透明の壁が四方から押し寄せ、逃げ道を塞ぐ。


「待て。これは、ただの防御魔法ではない……檻か!?」


拳大まで削られた隕石は、なおも赤熱し、重力をまとって落ちてきた。


避けようとした瞬間、足元が氷に縫い止められる。


「待て待て待て待て!」


だが、内側からなら破壊できるはずだ。


「ウルトラ究極ライトニングビーム!」


天を貫く一撃の光。


全てのバリアが砕ける。


「魔王の力を見たか!」


勇者たちが一斉に手をかざした。


直後、ファイアーボールが雨のように降る。


俺は掌の魔法陣で必死にさばいた。


「うぉおおおお! あつっ!」


さらに氷、雷撃、光の矢、風の刃が飛んでくる。


「なぜ全員、無詠唱で魔法を撃ってくる!?

 最近の勇者は作法も知らんのか!」


「勇者なら詠唱くらいしろぉお!」


叫んだ直後、隕石が俺の心臓を貫通した。


直後、ファイアーボールの業火が俺を包み込む。



たかが燃やされ、心臓を潰された程度で死ぬ俺ではない。


……ないはずなのだが。


ものすごい勢いで死に近づいている。


倒れ込んだ俺を、勇者たちが氷で縛り上げた。


「女神……この世界には、まさかだが……勇者しかいない、なんてことは」


女神の声が優しく響く。


『魔王はあなた一人です』


「……」


『もはやこの世界に、勇者以外の人類は存在しません』


街中の勇者たちが、剣を掲げた。


終わった。


また殺される。


そう思った、その時。


俺を縛っていた氷が砕かれた。


「……お前は」


目の前にいたのは、僧侶の勇者だった。


「まさか、助けてくれるのか?」


僧侶は静かに首を横に振った。


「これは母の分」


腹を刺された。


「ぐはぁ!?」


「これは父の分」


頭を斬られた。


「かはっ!」


「これは弟の分」


胸を刺された。


「待て! お前の親族に何をしたか覚えておらん!」


「これは昨日、銅像で転んだ膝の分」


「最後のは関係ないだろぉおおお!」


俺は天に向かって叫んだ。


「女神! 助けてくれ! 勇者に殺される!」


『わかりましたぁ。では、こちらに連れ戻しますね!』


『テレポート』


視界が白く染まった。



気づけば、俺は女神のいる白い空間に戻っていた。


「はぁ……死ぬかと思った」


俺はその場に座り込んだ。


「いや、何度も死んだ経験はあるが……」


『あれ? 魔王様。もう戻らないんですかぁ?』


「あんなところに戻ってたまるか!」


『では、ここで暮らすんですね』


「当たり前だ。勇者しかいない世界など地獄だ」


女神は笑った。


まるで、最初からそうなると分かっていたかのように。


『そうですか……ふふ』


女神はゆっくりと近づき、俺の肘を掴んだ。


「なにをする? あの地獄に、また送る気か!?」


『そんなわけないじゃないですか』


その声は、ひどく甘かった。


『魔王様が自分からここにいてくれるなんて、初めてです』


「……何?」


女神の指が、俺の腕に絡む。


『ずっと送り続けました』


女神は微笑んだ。


『勇者が世界に満ちるまで』


背筋が凍った。


「まさか……」


『だって、魔王様はいつも魔王城に帰ろうとするんですもの』


『だから、居場所を奪えば……』


「お前……」


『勇者しかいない世界なら、もう戻りたくないでしょう?』


女神は俺の腕を抱きしめた。


『ようやく……』


その笑顔は、あまりにも満ち足りていた。


『これからは、ずっと一緒ですよ。アルベルト様』


ようやく思い出した。


俺が本当に恐れていたものは。


この女だ。


『ふふふ』


女神の手に、一本の剣が現れた。


僧侶が持っていたのと同じ形。


「お前……の名は」


声が震えた。


「勇者アルス」


女神はうっとりと微笑んだ。


『やっと思い出してくれましたね。アルベルト様』


聖剣が淡い光を帯びる。


『ヒーリング』






勇者と魔王しかいない世界


― 完 ―

作者です。ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

一部にAIを使用しておりますが、物語の構成・構想・セリフは私が手がけています。


普段は長編小説を書いていますが、

今回は気分転換に短編を書きたくなり、2時間ほどで一気に書き上げました。

ノリがすべての作品です。


もし気に入っていただけましたら、

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― 新着の感想 ―
女神(勇者アルス)はいったいアルベルトさんをどうしたかったのか・・・ ホラーにも喜劇にも、ラブコメにもいきうる。ラブコメに行ってほしい(個人的には。)
短編らしい勢いとテンポの良さが最後まで心地よく、一気に読ませていただきました。 「勇者しかいない世界」という発想だけでも面白いのですが、それを魔王視点で描くことで、終始ツッコミどころ満載のコメディに…
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