エリオットは皇女殿下にわからせられない!?
ヴァルキリア帝国公爵エリオットは皇帝から謹慎を言い渡された皇女を自身の領地で預かっていた。
レオナール姫(皇女)「公爵殿、……どうか妾の考えに協賛していただけませんか?」
皇女はおそる、おそるエリオットの目を見つめた。
エリオット「はぁ……?しかしね、いったい農奴に読み書きを覚えさせて何になるのですか?その時間に草の1本でも刈った方が彼等にとっても大いに得ではありませんか。彼等のためにその学校ってのをつくってやるのが私になんの利益をもたらすんですかね?まぁ、自尊心の満足は得られるかもしれませんが。失礼ですが、殿下は他にもっとやるべきことがあるのではありませんか?あちらの国の王太子との婚礼も迫っていますしね。」
姫「その話は今しないでください!!私だってわかっています!!」
エリオット「いいえ、大切なことです。……まだ、ゼフェルスの文字も書けていないのでしょう?殿下こそ、勉学に励むべきでは?私はそういったことを身につけさせていただく含めて陛下から殿下を託されていますからね!」
姫「はい……そうですね……」
しょんぼりと項垂れる。
エリオット「……」
その日の夜。
エドモンド「きっと殿下は何か婚礼から気を逸らすものが必要なんだろうね……」
エリオット「ええ、誰も味方のいない地に行くなんてさぞや心細いでしょうね……」
エドモンド「ここにいる間はなんとか慰めて差し上げられないかな……」
エリオット「それでしたら、明日村のひとつを見たいとのご要望なのでお連れしますよ。この時期の景色は素晴らしいし、草の香りは爽やかだからね。」
エリオットとエドモンドの二人は、
姫の状況について深く同情したが、学校を作りたいという考えは全くもって理解できなかったので深く話し合うこともなかった。
次の日、
エドモンド「殿下が!!いない!!」真っ青
エリオット「はぁあ!?どうして!?」
エドモンド「わかんないよ!!今あちこちみんなで馬出して探してんだよ!!」
エリオット「何しろ自分の婚礼準備金を勝手に施療院に寄付するようなアホぉだからな!!」
唾を飛ばしながら喚き散らす。
エドモンド「不敬罪だよ……!それは言い過ぎだ!撤回しなさい!!」
エリオット「嫌だね!相手が敬うようなところがないアホぅだからな!!!」
エリオット「ああぁ!!もうぅぅ!!」
エドモンド「声が大きい!喚かないで!!」
エリオット「ねぇ、殿下に何か会ったら私どうなっちゃうの……!!?」
エドモンド「しっ、死刑とか……?」
エリオット「うわあああ!??」地団駄を踏む。
エドモンド「落ち着いてって!!」
エリオット「お願いだから……なんとかしてよ……!!……まだ死にたくない……!死にたくない…!」
エドモンドに縋りつく。
エドモンド「泣くんじゃない!!みっともないだろ……!ほら、鼻水つけないで……ちゃんと鼻かんで……!」
ハンカチを渡す。
エリオット「ブー!!」
盛大に鼻をかむ。
セオドリック「あの、」
エリオット「ゔあっ!?」
エリオット「……なんだいたのか。」
スン
セオドリック「殿下が発見されました。」
エリオット「……発見だって!?」
目をみひらき、顔から血の気が引く。
エリオット「死体を燃やせっ!!今宵永久に行方不明だ!私は悪くないぞ!」
セオドリック「それでも結局は貴方の監督責任で変わらないのでは?」
エリオット「黙れ!!」
エリオット「………お前も一緒に燃やしてやる。」
呼吸をさっと整え睨みつける。
セオドリック「ご安心ください。生きておられます。村の農奴に混じって畑を耕されていました。」
にこやかに微笑む。
エリオット「もうキチガイ娘のお守りなんてたくさんだ!!」
エリオット一行現場へ、
エリオット「殿下、何をなさっているのですか!!」
姫「ご覧の通りですよ。畑を耕しております。」
エリオット「困ります!守衛もつけずに抜け出されたら!とにかく早くお戻りください!!」
突然、馬に乗った伯爵一行がくる
伯爵「クラリウス公、これはいったい……?」
侯爵「あれはもしや殿下……?」
エリオット「!?」
エリオット(陛下お付きの侍従武官じゃないか!?もしや陛下がすぐ側まで!?不味い……)
エリオット「……」
エリオット「……おい、そこのお前、鍬をひとつ貸してくれないか?私もやろう。」
スン。
農夫「あん?ほらよ。」
エリオット「……」
鍬を受け取る。
姫「あら、なかなかお上手ですわね」
エリオット「ええ…まあ…」
姫「貴方も、たまにはこうして民と直接接してみるのも良いものでしょう?」
エリオット「さぁ、何しろ忙しい身ですからね。……今日とかは"特に"。」ボソッ
姫「……私も直接関わったのは初めてです。学校を作ろうと思いたったのも、目の前の婚姻から目を逸らすために躍起になっていたのかもしれませんね。……私は自分の役目から逃げていたのです。」
姫「貴方の領地はとても良いところですね、数年前来た時に思ったのですが、パンの匂いが立ち込めて、黄金色の麦畑を子供達が歌いながら駆け回っているのです。」
エリオット「…いえ、そうも言っていられませんよ。この村は豊かな方です。川を越えた方にいけば痩せた土地ばかりです。去年は餓死者が過去一番多くて…」
姫「でも、やはり最初の考えは代わりません……民が知恵を得ることで、もし効率的な農作業の方法を学べれば飢える者も少なくなるしそれは貴方にとっても特にはなりませんか?」
エリオット「………」顎に手を置く。
エリオット「……しかし、戦乱や病の影響でただでさえ農作業に携わる人口が減少しているのに現状そのような余裕はありませんよ。」姫を見つめる。
姫「……そうですよね。」
エリオット「……でも、確かにその通りかもしれません。私はそのようなことは考えてもみなかった。学び舎を作って長期的に指導することはできなくても村に一度指導員を招いてみることくらいはしてもよいかもしれませんね。」
農夫「もっと腰を据えて!あと、動き止まってる!」
エリオット「……!?」
エリオット(……畜生……)
涙ぐむ。
セオドリック(あっ……!)
セオドリックは皇帝一行が至近距離に迫っていることに気づく。
セオドリック「……」
横目でチラッとエリオットをみる。
セオドリック(まぁ、伝えなくてもいいか……ふふふっ…)
皇帝一同、
皇帝「何をしているんだお前達は……?」
エリオット&姫「あっ……!」
エリオット「ご覧の通り汗を流していたのですよ!!殿下がどうしても民の気持ちに深々から寄り添いたいとおっしゃりましてね!!私も説得したのですが、決意が固く!殿下の人民への深い愛に私は感動してしまいまして、恥ずかしながら私もご一緒させていただきました!!しかし、殿下の柔いお身体を土で汚すようなことをしでかしてしまったのも事実!!もし、今回のできごとで殿下の体面に傷がつくようになれば、さる東の蛮国のようにこの腹を掻切って、陛下に臓物を捧げるしだいであります!」
皇帝「見たくないわそんなもん。」
姫「……そんなに必死にならなくて大丈夫ですよ。」こそっ
エリオット「…えっ……?」
姫「陛下−−いや、お兄様」
皇帝「なんだ?」
姫「妾、決意が決まりました。もう逃げたりしません。」
姫「この身で隣国に渡ります。」
エリオット「……!」
エリオット「……」
皇帝の顔色を伺う。
皇帝「そうか、よく言ってくれた。」
無表情。
エリオット「………」
眉を下げ不安そうに姫の目を見る。
姫「………」にっこりと微笑む。
一年後、
姫「貴方もついてきてくださるの?」
エリオット「えぇ、国境までですが……」
姫「……そう!良かったわ!」
エリオット「……」
エリオット「……これを。」
小箱を渡す。
姫「まぁ、何かしら?」
姫「あら!ペンダントね!柘榴の形だわ!」
エリオット「…豊穣と旅路の守護を司る女神リベアの加護を受けたものです。……殿下の仰った通りでした。あの日以降領地に招いた指導員のおかげで、今年の冬は一人も餓死者を出さずに済みそうです。……ですから、これは、そのお礼と言ったところで……隣国は寒さが厳しいと聞きます……どうかお身体に気をつけて……健やかに……」
姫「つけてくださる?」微笑む。
エリオット「……」
震える手でペンダントを姫に付ける。
姫「ありがとう……!大切にするわね……!」
エリオット「……はい。」
姫を見て微笑もうとしたが、すぐに顔をそらし、目を瞬かせて顔を上に向けてから後ろを向く。
姫「……どうしたの?」
エリオット「……いえ、何でも。」
赤くなった目で、姫の目を見つめて微笑む。
後日、
揺れる馬車の中、
エリオット「……」
窓から穂をかる農民を見る。
エドモンド「もうすぐ秋だね〜」
エリオット「……元気にしてるでしょうか…」
エドモンド「ん?……誰が?」
エリオット「……なんでもない。」
完
次回予告 「レンタルおばあちゃん(完全版)~ママになった殉教者~」




