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BlueRose  作者: 白縫
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薬を狙う者

 森の中をブルーローズとヌマハタが歩いている。

 ずんずんと迷いのない足取りで歩くブルーローズに対してヌマハタは焦って説得を試みる。


「なぁ、なぁレインさん?もう少し考えた方がよくないでっか?」

「何を?」

「特効薬のことでんがな、国に託す前にもう少し様子を見てもええんやないでっか?」

「様子を見る必要はない」

「そないに急がんでもええやないか」

「現在も魔人病患者は増え続くている、その為早期の増産体制の構築が必要だ」

「せやけど、ちょ、歩くのはや、ちょい待ってーな!」


 ブルーローズはヌマハタの言葉に全く耳を貸す気はないらしく歩みを止める気配はない。

 しかし、続くヌマハタの問いには歩みを一瞬鈍らせた。


「ほら、あんさんも何か研究を続け取った理由とかあるでっしゃろ。

 治したい人がいるとか」


 その言葉にぴくっと反応したのをヌマハタは見逃さなかった。


(チャンスや!)

「なぁ、あんさんは何のために魔人病を研究しとったんや?」


 歩みを止めるブルーローズ、しばらく考え込んだ後に、今までの端的な短い返答とは違い自分のことを語り始める。


「レイン・ブルーローズには妻がいた。

 名をディアナ・ブルーローズと言った。

 ある時、ディアナは魔人病を発病した。

 研究者だったレインはディアナの病を治すために魔人病研究を始めた。

 優秀だったレインは魔人病研究の第一人者として名が知られるようになった。

 しかしレインは特効薬の研究に着手したかったがそれを周囲の人間は良しとしなかった。

 レインには魔人病の原因究明をさせようとした。

 現在の発病者の治療ではなく未来の発病者の削減を求めた」


 ヌマハタはブルーローズの無感情に感じられた言葉の中に、僅かな怒りが混じったように感じた。


「レインは研究者としての地位を捨てた。

 田舎の生まれ故郷に戻り、森の奥にある館を買い取りそこで特効薬研究を始めた。

 そして研究を続ける中で今度はレインの娘、ニーナ・ブルーローズが魔人病を発病した」


 ヌマハタは絶句した。

 妻だけではなく娘までも発病した時のレインの気持ちを考えると同情せざるを得なかった。


「レインの研究の中には魔人病の遺伝性の研究もあった。

 その中では魔人病の遺伝は起こらないものと考えられていた。

 ニーナが発病したことでレインは更に研究に打ち込んだ。

 自身も発病していたことは、むしろ自身を被検体にできるとレインに喜びを与えた」


 ヌマハタはそこまで話した上で、その結末に予想を付けていた。


「二人は死んだ。私が薬を飲ませたかった人はもういなくなった。

 この悲劇を止めるために私はこの研究を国に託す」


 ヌマハタはその話を聞いて考える。


(あかーん!完全に墓穴掘ってもうたやないか!

 てかそないな話聞かされたらわても反対しづらいやんけ!

 どないしよ…)


 ヌマハタは自分のことを汚いこともするクズのような人間だと思ってはいるが、人間としての情はある。

 ブルーローズの話に対して同情や共感をしてしまっては自分の利益の為に特効薬を寄越せとは言いづらくなってしまっていた。


 そんな悩みをヌマハタが抱えている間に、気付けばブルーローズははるか遠方を歩いていた。


「せやから待ってくんなはれやレインさーん!」




 ヌマハタがどうしたものか悩みながらついていくと、すぐに町についてしまった。


「これからどうしはるんでっか?」

「鉄道に乗る」

「行き先は?」

「帝都へ向かう」

「帝都で国に研究結果を預けるってことでんな」


 ヌマハタは特効薬の利権については諦めた方が良い気もしていたが、それでも自分のカンを疑えずにいた。


(今までわてのカンが外れたことはない。

 ならばレインはんには必ず金になるなにかがあるはずなんや。

 帝都までついていけば何かしら利権に絡めるチャンスもあるかもしれへん。

 とりあえずついていくが吉や)


 ヌマハタは揉み手をしながらブルーローズにすり寄った。


「帝都までは鉄道でも相当な距離でっせ。

 それに帝都で研究していたレインさんでも、離れてから相当経ってますやろ。

 帝都周辺もここ数年で相当様変わりしてまっからなぁ。

 わてが帝都までのガイドを務めさせてもらいますわ」

「ありがとう」


 思ったよりもすんなりと同道を許されたことでヌマハタは笑顔になった。


「困った時はお互い様ですわ。

 ほな行きましょ」


 ヌマハタが先を歩こうとする。


 だがその前に数人の軍人が立ちふさがった。


「止まれ!」

「な、なんでっかいきなり」


 軍人の中でも立場が上らしい、大きな槍を持つ男が前に出てくる。


「レイン・ブルーローズだな」


 男はブルーローズを指して何かを要求するように手をくいくいと曲げた。


「特効薬のレシピを渡してもらおうか」

「な、なんやて!?」


 どこから聞きつけたのか、目の前の軍人は特効薬が完成していることを知っているようだ。

 ヌマハタは反射的にブルーローズを庇う様にした。


(あかーん!なんで軍人に逆らおうとしてんねん!)


 予想外の状況にパニックになるヌマハタをよそに、ブルーローズは無表情を貫いていた。


「貴方は?」

「私は帝国陸軍中隊長ギルバート・フレアボルト中尉だ。

 さぁ特効薬を渡せ」

「断る」


 ギルバートの要求に対し即座に拒否の姿勢を示したことに、ギルバートは青筋を立てる。


「お前に拒否権などない」

「これは私が帝都へと持っていきしかるべき人間に預ける」

「私が代わりに持って行ってやる、渡せ」

「他人の家を盗聴する人間を私は信用しない」


 ぴくっ、とギルバートが反応する。


「なぜそれを」

「盗聴は好きにしていい。

 だがそのような人間はこの薬を預けるには値しない」

「そうか、では仕方ないな、やれ」


 ギルバートの後ろに立つ軍人達が銃を構える。


「ちょぉー!」


 発砲の意思を感じたヌマハタがブルーローズを抱えて横に跳ぶ。

 先程まで居た位置を何発もの銃弾が通り抜けていくのを見てヌマハタは冷や汗をかく。


「シャレにならんわ!」

「シャレではない」

「知ってまんがな!ええいくそ!」


 ヌマハタは懐を探ると二丁の拳銃を取り出した。

 軍人の構える銃と違い弾を入れる場所の見当たらないそれは銃と呼ぶには少し変わった見た目をしていた。


「魔界産の魔法銃ですわ。魔石の魔力を吸い上げて弾にするっちゅう珍しい掘り出しもんやで」

「戦うのか?」

「へへっ、乗りかかった船ですわ。

 それにわて、こう見えても射撃の腕は超一流なんや」

「分かった、私も協力しよう」

「狙われてんのはあんさんや!」


 どこか抜けてるようなブルーローズにヌマハタは呆れる。

 どちらにしろ既に同行者と認識された以上今更ヌマハタだけ逃げることも出来ないだろう。

 とはいえ相手は軍人でありヌマハタ一人ではどうしようもない。

 どうしたものか、と考えたところで。


「考えてもしゃーなし!囲まれる前に逃げまっせ!」

「逃がすと思うか」


 頭上から声がしたと同時にヌマハタとブルーローズは左右に避けた。

 ずどんと大きな音を立てて槍が地面を割って突き刺さる。

 ギルバートが垂直降下して攻撃したのだ。


「意外と動けるようだな」

「はんっ、馬鹿にしてもらったら困りまっせ!」


 ヌマハタが魔法銃を放つ。

 セットされた炎の魔石から魔力を吸い上げ作られた炎の弾丸がギルバートの頭を打ちぬかんと迫る。

 だが地面から抜かれた槍がそれを打ち払う。


「いい腕だな、それに変わった獲物だ。

 だがお前の相手をするつもりはない」

「うおっ!?」


 ヌマハタが頭を屈めると背高帽で隠されていた頭頂部の禿げ頭を銃弾がかすめる。


「あっつう!ちょいこげたで今!」


 走りながら追いかけてきた軍人達に牽制の射撃を放つ。

 だが軍人達の相手が手いっぱいでブルーローズをかまう暇がない。


「レインはん逃げなはれ!」


 ギルバートがブルーローズに迫る。


「死ね!」


 突き出された槍にブルーローズは背中のボンベを投げつける。

 槍はボンベを貫き、中の圧縮された瘴気が爆発的に噴出した。


「ぐっ!?」


 慌ててギルバートは口を押さえる。

 だがボンベを失ったブルーローズも苦しそうな表情になる。

 ギルバートが槍を回転させて瘴気を吹き散らすと、後に残されたのは苦しそうなブルーローズと槍を構えるギルバートという構図だった。


「悪手だったようだな、終わりだ」


 ギルバートの槍が、ブルーローズの頭を貫いた。

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