Ep1-1 風情のかけらもありませんわね!
見覚えのない空。どこまでも続く世界。
何もないところにボクは立っていた。
「...え?」
いや、全然身に覚えがなさすぎる。マジでここどこ。
最後の記憶は、時計を確認してそろそろ日付が変わりそうなのを確認したところ。
ということは...これは夢だろうか。にしては突拍子もなさすぎると思うが。
「ここはどこだ...ボクはボクだ...誰が呼んでくれと頼んだ...」
「急に人工生命体も生まれておりますけれども...確かに誰に呼ばれたかは知りたいですわね」
とりあえずお決まりのアレをやってみたらなぜか反応があった。
横に目を向けると、仮面をつけた少女が立っていた。
「お、お前は妖怪仮面女!?」
「誰が妖怪仮面女ですの!?初対面でそれはなかなかな言いぐさですわね...」
いきなりなんですの...と黒い仮面をつけた雰囲気からでもわかるお嬢様。
妖怪と呼んだのは失礼だったかもしれないが、何もないっぽいところでいきなり沸いて出たらそれはもう怪異と同義だ。
「自分の格好見てないの?」
「あなたもつけてるでしょうに...同じようなものでしてよ?」
全然気づいてなかった。自分の顔に触れると、確かに仮面がついている。
あまりにも身の回りに興味がなさすぎる...若干ショックだ。
と、右ポケットに違和感を感じ、取り出すとそれは手鏡だった。
確かに寝る前に手鏡に触れていた記憶がある。
手鏡で覗くと、だいぶシンプルな口から上を覆うタイプの仮面だった。
ちょっとかっこいいな...持って帰れるかな。
というか、夢なのに他の人がいて会話できるのっておかしくないか。
これがいわゆる「明晰夢」というやつなのだろうか。
「うわ、なんか取ったら背後に偉人出てきそうじゃない?」
「言わんとすることは分かりますわ。ちなみに推しは5の女豹ですわ」
「ボクは4の番長かな」
この仮面お嬢様、さてはだいぶコッチ寄りだな?
と、わかる人にはわかる会話をしたところで一度周囲を確認する。
周りを見渡すと、何もない空間だと考えていたがテーブルが2つと1組の椅子がある。
片方は何の変哲もない木のテーブルにクッション付きの椅子。若干くつろげそうだ。
しかしもう片方は普通とは違っていた。
「これは、ファイトテーブル...?」
ファイトテーブルと言ってもなかなか伝わらないだろう。
簡単に言うと、カードゲームのアニメでよくあるそのカードゲームのフィールドが直接書かれているタイプの光ったりするアレである。
これ自宅に欲しいんだよな...ファンメイドでもだいぶ値段がするから手が出ないのが現実だ。
「よくアニメで見るやつですわね。椅子がないところを見るに、アニメっぽく立ってやれということでしょうか」
「これ、現実のカードショップでもあるとテンション上がるやつだよね」
「確かに。でもこの空間にこれだけがあるのは不思議ですわ...」
意味不明すぎるが、テンションが上がることに変わりはない。
二人で近づいてみるとテーブルの上にはA4用紙と、カードがまとめられた束...デッキが2つ置いてあった。
A4用紙には『これのテストプレイをするまで出られない空間』と書いてある。
「これ...?」
「その下にありますわよ。名前は...」
「「...『U-knight』」」
▼
二人でA4用紙の表裏を読みながらデッキを確認する。
ゲーム名は『U-knight』。
ファイトフィールドはテーブルにある通りで、5枠のバトルエリアと10枠のエナジーエリア、1枠のプレイヤーエリアがあることが特徴だろうか。
バトルエリアの中心は黄色に塗られており、センターと呼ぶらしい。
「強調されているからには何かあるんだろうね」
「恐らくこれではないでしょうか。このプレイヤーカードの説明にある...」
「【ユナイト!】...?そのまんますぎない?」
【ユナイト!】はエナジーエリアの有色カードを裏返すコスト、RB①を支払うことでセンターのカードの下にプレイヤーカードを置く行為らしい。置くことでATKを+2000、HITを+1するようで、これは相手ターン終了時まで持続するとのこと。
「じゃあ毎ターンこれすれば強いじゃん。先に殴れる先攻が有利すぎない?」
「有色カードと明記されているでしょう。ちゃんと『裏返したカードは色と名称と種族を失う』と書いてありますわ」
「あー...生き物とか魔法カードに色ついてる丸と灰色の丸があるのは、対応した枚数のコストを払えってことなのか。納得」
そう簡単にはいかないようだ。まあ、それじゃあゲームにならないか。
このカードゲームでは生き物を「ユニット」、魔法を「スペル」と呼ぶらしく、それらを使用する行動を「プレイする」と明記している。
つまり「プレイ」以外にもカードを使用する手段がある、ということだろうか。とりあえず現状それに関しての記載はなかった。
「山札は40枚から60枚の間で自由。同名カードは4枚までだって」
「まあ普通のTCGとあまり変わりませんわね。分かりやすくていいのではないでしょうか」
確かにデッキの中にはスライムやら動物がいたりするが、構築は同名4枚が10セットの恐らくオーソドックスな形。
変に1、2枚採用などで混乱しなくていいのでこれは非常に助かる。
「まあある程度で実際触ってみましょうか」
「お嬢様、TCG慣れしてない?」
「別に趣味で触らないわけではないですわ。たしなむ程度ですが」
「このタイプのたしなむ程度って、ろくなことになった試し無いんだけど」
直近、ギターがたしなむ程度で引けるというハイスぺ幼馴染の技術がとんでもなくて、部活のボーカルが心折られたところを目撃している。
この手の人種の「たしなむ程度」は「プロに及ばない程度」と認識したほうがズレがない。ソースはボク。
どっちのデッキでも変わらんだろう、と適当にお互いデッキを手に取りシャッフルを始める。
テストプレイだがスリーブにはしっかりと入っていて好印象。
ただレギュラーサイズはカードが大きくて、手の小さいボクは若干苦手意識が強い。まあそうも言ってられないので念入りに混ぜるが。
デッキを右上に置き、初期手札の4枚をデッキの上から引いておく。
先にじゃんけんで先手後手を決めるようなので適当にじゃんけんをしてボクが先攻をもらうことに。
それからマリガン(手札の引き直し)を1度だけ行う。
「んーと..多分序盤は小型が必要だから、大型はデッキに戻したほうがいいかな」
「何とも言えませんわね。デッキの切り札のコストによっては持っておいても問題ないのでは?そちらは緑ですし」
今回ボクが使うのは緑のデッキ。お嬢様が使うのが赤のデッキ。
ざっと見た感じ、こっちはエナジーの枚数を伸ばして切り札の「ストームドラゴン」の早期着地を狙うデッキ。
対してお嬢様のデッキは序盤から相手の盤面を除去して、相手プレイヤーに打点を押し付けるデッキのようだ。
あ、ちなみに勝敗決着は相手のライフ20を先に削りきるか、カードに書かれた特殊勝利条件を満たすこと。
またターンの開始時にカードを1枚引くのだが、その時点で山札が無くカードが引けないと敗北するようだ。
いわゆるLOという敗北条件だ。今回はテストプレイらしいので今後はそっちを狙うデッキも出て来るのだろうか。
ボクは2枚、お嬢様は3枚チェンジ。
マリガン方法は
戻すカードをゲームから取り除く
→上から同じ枚数引く
→取り除いたカードをデッキに加えてシャッフルする
という3つの手順を踏む。間違えても先に戻してシャッフルしないように気を付けよう。
「では準備はできましたわね」
「ゲーム開始時にプレイヤーカードを公開するんだって。OtFかな」
「また版権に引っかかりそうなことを...」
「似たようなもんでしょ」
「否定はしませんわ」
改めて、裏向きのプレイヤーカードに手をかける。
ゲーム開始の合言葉は確認済みだ。
「せーのっ」
「「ユナイト・オン!!」」
「ところで、コミュニケーションの円滑化の為にお嬢って呼んでいい?あと仮面邪魔」
「今更ですし風情のかけらもありませんわね!...ではあなたはなんとお呼びすれば?」
「んー...じゃあ...権三郎」
「失礼ですけれど貴女絶対命名センスありませんわよ!?」