ビート5
後ろから首に剣を突きつけられているものの、ハルフォードは落ち着いていた。
幼い頃、ルルカとともに森を駆け回っていて何度も何度も危険な目にあった。
彼女はなんでもかんでも口につっこんでしまい、久遠の彼方に旅立ってしまいそうになるため
危機的状況に陥った時、まずは自分が冷静になって対応する必要があった。
その時の経験が、何度も生かされていた。
だからこそ、こんな危機的状況でも冷静に周りの状況観察ができていた。
ー見るところ、ノールというのは男であり、何らかの高貴な出身のようだ。
着ている服の布地が市井の民のそれよりも上等だからだ。
剣を突きつけているのは、おそらく彼の護衛だろう。
さっきの剣の音は、追っ手か何かに対して応戦していたのだろう。
とすると、かなり剣の腕が立つやつなのだろう…
それに
「ぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ」
ハルフォードの間抜けなところは、心の中での思考をしているつもりが、
ちゃんと口に出して言っていることに本人が全く気がついていないということだ。
「························おい、お前!何をぶつぶつ言っている!
ちょー気持ち悪いんだが」
奇っ怪なハルフォードの言動に我慢しきれなくなり、
剣を突きつけたまま護衛らしき男はつい言葉を発した。
「んあ?俺、何か言ってたか?」
剣の切っ先を小枝ではじき、くるんと男の方に向き直ったハルフォードに
男は驚きを隠せずにいた。