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雪花火奇譚【プロトタイプ版】  作者: 冬野ゆな
雪女――または出会い(全20話+α予定)
8/28

第1話 少し前

 ――雪女と約束をしてはいけない。

 ――何故ならその約束は、文字通り命を賭けるものだからである。


 屋敷の一室には、二人の少女がいた。ひとりは青ざめた顔でベッドに横たわっていた。腕から針を通して繋がれた管は横の機械へと繋がっている。そのうちの何本かは生命維持のためのものだ。外された呼吸器からは、酸素の音だけが虚しく響いている。しかしその表情に悲壮感はなかった。むしろ現状に似合わず、どこか勝ち誇った顔でベッドの横へと視線をやった。


「……あは。すっごい顔してるじゃん」


 いまにも死んでしまいそうなほどの声で、ベッドの隣に話しかける。

  そこにいたもうひとりの少女は、ベッド脇の椅子に座っていた。眉間に皺を寄せ、いかにも今から病人を看取るべき表情をしていた。彼女の青い瞳には悔しさと怒りとがない交ぜになり、なんとも言いがたい色がある。


「そんなに悔しい?」

 彼女は何度か咳き込み、肩で上下させながら、なんとか息を整えようとする。

「結局、あたしの一人勝ちだもんね。あんたの正体を暴いたのも、あたしひとり。あんたはもうすぐ捕まる――退魔師によって」

「……」


 ぐ、とその拳が握られる。

 いかにこの状況を打破するか、青色の瞳の奥で彼女の頭はぐるぐると回る。退魔師が『捕まえる』などあるものか。消滅させられるか、良くて服従させられるかのどちらかだ。そんなものはどちらも御免だった。いかにこの状況から逃げおおせるか。彼女はその青い瞳で睨め付ける。


「どうせ放っておいてもあたしは死ぬ。これで、詰み、でしょ」


 彼女は少しおかしげに笑ってから、また咳き込んだ。

 青い瞳の少女は死にゆく彼女を見ながら、これからのことを考える。

 まだだ。まだなんとかなる。――どうやって?

 どうにかして詰みを回避しなくてはいけない。廊下にはどれほどの人間がいるだろう。外にはどれほどの人間がいるのだろう。いったいどれほどの退魔師を呼んだのだろう?

 考えれば考えるほどに、自分が追い詰められているという現実がのしかかってくる。もはや怒りなどとっくに通り越している。

 病床の彼女は、その様子を見ながら勝ち誇ったように笑う。


「だからね――、あんたに、最後のチャンスをあげる」


 青い瞳の少女が思わず顔をあげた。


「……なんですって?」

「あたしと()()()()


 ぞわりと背中に冷たいものが走った。


「……あなた、最初からそれが目的で……!」

「どうするの?」


 冷たい風が吹き荒れ、この部屋にだけ一足早い冬が訪れた。

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