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ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第十四章 破壊顎の大百足(ミリパット・モルシュール・ブリズーズ)
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83 深淵の暗狼(ル・ソンブル・ドゥ・ラビーム)

 サンキエムが開いたセティの写し(コピー)

 セティは写し(コピー)を追いかけようとしてサンキエムに止められた。正確にはサンキエムが開いた深淵の暗狼ル・ソンブル・ドゥ・ラビームが生み出した濃い暗闇によって阻まれた。


炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラム!」


 暗闇の中、炎の翅がはらはらと飛び回る。セティは白輝の一角獣リコルヌ・リュミヌーズの槍を構えて、どこから攻撃がくるか警戒して構える。

 とろりと濃い闇から、暗狼(ル・ソンブル)が飛び出してくる。炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラムの明かりに、暗狼(ル・ソンブル)の牙がぎらりと輝いた。

 そこをめがけて、セティは槍を突き出す。空中で、暗狼(ル・ソンブル)は体をひねって穂先をかわした。四つ足が着地する、すぐさまセティに飛びかかってくる。

 セティは突き出した槍を大きく薙いだ。長い柄が暗狼(ル・ソンブル)の体に当たり、その体が闇の中に飛んでいった。


「俺の写し(コピー)を使って何をするつもりだ!」


 セティは闇の向こうにいるはずのサンキエムに叫ぶ。あはは、と笑い声が返ってきた。


「面白いことだよ」


 闇の中、サンキエムの声が響く。

 答えになってない返答に、セティは暗闇を睨んだ。


「面白いことってなんだ!?」

「お前と全く同じ姿の写し(コピー)に、お前の所有者(オーナー)がどんな反応するのか、楽しみだよね」


 サンキエムはまた笑った。セティは奥歯を噛んだ。自分の姿をした写し(コピー)は、ソフィーを狙っているのだ。

 ソフィーはもしかしたら、写し(コピー)の姿を見てセティ本人だと思うかもしれない。そうしたらどうなるだろうか。ソフィーは写し(コピー)にやられてしまうかもしれない。


(とにかく、この暗闇をなんとかするんだ)


 セティは槍を握ったまま考える。


(それでこの暗闇が消えたら、サンキエムを殴ってやる!)


 セティは神経を研ぎ澄ませる。きっとまた、暗闇に紛れた暗狼(ル・ソンブル)がどこからか飛びかかってくるはずだ。

 暗狼(ル・ソンブル)を倒して、サンキエムを殴って、そうしたら──。


(ソフィーを助けに行く!)


 セティは決意を瞳にみなぎらせて、槍を構え直した。炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラムを複数生み出して、自分の周囲の闇を払う。

 そのまま深淵の暗狼ル・ソンブル・ドゥ・ラビームを焼き殺さんばかりの視線で、周囲を伺っていた。

 闇の中は静かだ。わずかな物音も大きく響いて聞こえる。セティは耳をすませて神経を周囲に張り巡らせる。

 深淵の暗狼ル・ソンブル・ドゥ・ラビームは周囲に暗闇を生み出し、それに紛れて静かに動くが、全く音を立てないわけではない。


(そうだ、俺はできる、次で仕留める……!)


 そして、小さな足音が耳に届く。

 セティは反射だけで槍を突き出した。炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラムも集めて、逃げられないように周囲を囲む。

 手応えは、あった。

 がっぐるる、と唸り声がして、闇が晴れてゆく。たくさんの炎の翅に囲まれ、槍に喉を突き刺された黒い狼の姿が、見えた。

 インクのような黒い液体がこぼれ落ちている。セティが槍を振り払うと、暗狼(ル・ソンブル)の姿はぼんやりと光って、(ブック)に戻った。

 ヒビが入ってぼろぼろになった(ブック)が、地面に落ちて転がる。


「あーあ、壊れちゃった」


 サンキエムは晴れた暗闇の向こうで、何がおかしいのか笑っていた。


「次はお前だ!」


 セティは炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラムでサンキエムを囲む。槍を構えてサンキエムに突っ込んでゆく。


開け(オープン)氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴル


 サンキエムは慌てる様子もなく、新たな(ブック)を開いた。(ブック)がぼんやりと光って透き通る氷の兎が姿を見せた。

 その瞬間、サンキエムの周囲に氷の壁が出来上がる。氷の壁は炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラムを取り込んで凍らせようとするかのように厚みを増やす。

 セティはサンキエムを囲んでいた炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラムを退がらせたが、自分はそのまま真っ直ぐに突っ込んでいくのをやめなかった。

 その目の前にも分厚い氷の壁ができる。その壁に、セティは槍を突き立てた。

 がつがつっと氷が削れる音がして、氷の壁に穴が開く。槍の穂先は氷の壁を貫いて、けれどサンキエムの顔の手前で勢いを失って止まってしまった。

 氷の壁にヒビが入って、がらがらと崩れてゆく。その向こうで、サンキエムが目を細めて槍の穂先を眺めていた。


「残念だったね」


 セティはもう一歩踏み込んで、槍を突き出す。けれど一度止まったせいで勢いが足りなかった。

 サンキエムは氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴルの首根っこを掴んで振り回した。サンキエムのすぐ目の前に氷の塊ができる。槍の穂先は氷に突き刺さった。それを横目に見ながら、サンキエムは体をねじって槍を回避した。


「今度はこっちからいくよ! ほら! ほら!」


 サンキエムが掴んでいる氷の兎を乱暴に振り回す。(ラパン)は体を大きく揺らしながらも、的確に氷を生み出していた。

 でこぼことした地面を氷が伝って広がってゆく。セティは氷に捕まらないようにと後ろに跳ねて逃げる。

 サンキエムはまた(ラパン)を乱暴に振り回した。氷はみしみしと音を立てながら広がってゆく。地面から冷気が立ち上る。

 セティは今度は横に跳ねて氷から逃げた。サンキエムとの距離が離れてゆく。炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラムで反撃する隙を伺うが、サンキエムの周りには再び氷の壁が出来上がり、炎を拒んでいた。

 氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴルを振り回しながら楽しそうに笑うサンキエムを、セティは睨みつけた。


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