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ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第十四章 破壊顎の大百足(ミリパット・モルシュール・ブリズーズ)
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80 予想外の再会

「どうして……?」


 ソフィーの混乱をよそに、セティはソフィーに向かって槍を突き出した。ソフィーは地面を転がってそれを避ける。槍の穂先が地面を削る。

 でこぼこの地面が背中に当たって痛い。でもそんな痛みよりも、セティが自分を攻撃しているという混乱の方が、ソフィーには大きなことだった。

 リオンは、すぐにでもソフィーに駆け寄りたいと思ったが、迫ってくる大きな顎をかわすのでいっぱいいっぱいになっていた。同じように地面に転がりながら、上着の袖が顎に引っかかって破ける。

 よそ見はしていられない。リオンは息を整えながら、伸び上がる大ムカデを見上げた。

 セティはまた槍を突き出す。ソフィーは転がって避けると、その勢いで上体を起こす。道具袋(ポーチ)から(ブック)を取り出した。


開け(オープン)鞭閃の舌長蜥蜴ウィップラッシュ・カメレオン! 音迷の跳鳴虫サウンドメイズ・クリケットはリオンを助けて!」


 ソフィーの後ろで、小さな影がぴょんと跳ね、それから翅を震わせた。

 音が、大ムカデを取り囲む。大ムカデは混乱したかのように、伸び上がった体をくねらせた。その隙に、リオンは大ムカデから距離をとる。

 ソフィーが開いた(ブック)は姿を変えて、一匹の舌長蜥蜴(カメレオン)となってソフィーの腕に捕まった。

 セティの槍がまた突き出される。ソフィーが腕をあげると、舌長蜥蜴(カメレオン)が舌を伸ばした。舌は槍に巻きついて、その勢いを殺す。槍はその軌跡をずらして、それでも前に進む。

 槍の穂先がソフィーの耳を掠めて、髪が幾筋か舞い散った。その勢いのまま、槍は後ろの岩壁に刺さった。

 セティが槍を引き抜こうとする。それを舌長蜥蜴(カメレオン)は舌を引っ張って止めた。セティは両手で槍を掴んだまま、ソフィーを見た。どこか不安そうで、悲しそうにも見える目つきだった。


「ちゃんと話して! 一体どういうことなの、セティ!?」


 セティは構えを解かない。岩壁に刺さったままの槍を構えた姿勢のまま、口を開いた。


「俺、話したんだ」

「話した? 誰と?」

「グリモワール……俺の兄姉(きょうだい)と」


 ソフィーは息を呑む。グリモワールの目的は、セティと話すことだったのだろうか。グリモワールは、それで何をしたかったのか。いろんな疑問が渦巻いて、ソフィーは口を開いたり閉じたりしたけれど、言葉は何も出てこなかった。

 セティは眉を寄せて、言葉を続ける。


「とにかく、それでわかったんだ。グリモワールシリーズは、(ブック)のために作られたんだ。人間のためじゃない」


 ソフィーからは、セティの表情はどこか心細いように見えていた。離れていた間に何があったのか。どうしてそれで自分が攻撃されているのか。

 考えても答えは見つからなくて、ただセティの言葉を促すしかできなかった。


「……それで?」


 セティは覚悟を決めたように視線をあげる。真っ直ぐにソフィーを見る。見る者を吸い込むような、漆黒の眼差し。


「グリモワールは、(ブック)を汚す人間を──探索者(ブックワーム)を倒さなくちゃいけない。だから、ソフィー、お前も倒さなくちゃいけないんだ!」


 セティが力を込めて槍を引く。力比べに負けて、ソフィーは舌長蜥蜴(カメレオン)の舌を引っ込めた。

 そのまま体勢を立て直して横に跳ぶ。突き出された槍は、また岩壁を穿つ。


「どうして!? だってセティ! あなたは……わたしを所有者(オーナー)だって認めてくれて……一緒に書架(ライブラリ)を探索」

「うるさいっ!」


 セティは突き出した槍を大きく薙いだ。


開け(オープン)碧水の蛙アクアルーラー・フロッグ!」


 ソフィーは咄嗟に開いた碧水の蛙アクアルーラー・フロッグで、自分と槍の間に水の塊をつくる。ソフィーの頭の上で、(フロッグ)が跳ねた。

 槍の勢いまでは殺しきれなかった。地面の上をソフィーの足が滑る。それでも、槍の柄が直接体に当たっていたら、きっと吹っ飛ばされていただろう。ソフィーはぐ、と足を踏み締めて、舌長蜥蜴(カメレオン)の舌をセティに向かって伸ばした。

 セティを直接攻撃をするのはためらわれた。けれど、動きを止めれば、そうやって落ち着いて話すことができればなんとかなるはずだと、そう思ってのことだった。

 伸びてきた舌を、セティは後ろに跳んでかわした。ソフィーは前に踏み込んで、また舌を伸ばす。セティはその舌を今度は、槍で払う。

 舌は槍に巻きついた。ソフィーはさらに踏み込む。動かない長い槍を持て余したセティは、さらに後ろにさがると、口を開いた。


炎の蝶パピヨン・ドゥ・フラム!」


 燃え盛る炎の翅が、セティとソフィーの間に生まれる。


(焼き切れる!)


 ソフィーは慌てて舌長蜥蜴(カメレオン)の舌を引っ込ませた。自分も後ろに退がる。


碧水の蛙アクアルーラー・フロッグ!」


 そして水をカーテンのように広げて、(パピヨン)の炎を遮った。


「どうして!? どうしてセティと戦わなくちゃいけないの!?」


 ソフィーのその言葉は、セティへの問いかけというよりも心から漏れ出た叫びだった。


「それは、俺がグリモワールで、お前が人間の探索者(ブックワーム)だからだ!」


 水のカーテンを突き破って、槍の穂先が現れる。ソフィーは横に跳んでそれをかわす。セティとソフィーの視線が交わる。

 セティの瞳には決意があった。ソフィーにはそれが、信じられないままだった。


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