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ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第十一章 本(ブック)の少年と友達
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70 本(ブック)の少年と友達

 セティは修理してもらった道具袋(ポーチ)をまた腰につけて、中身を詰め直した。満足して頷くと、クレムの父親に修理代を支払う。

 それからクレムと二人でパン屋に向かった。途中でジェイバーに出会った。

 ジェイバーはどうやらクレムのところに行くつもりだったらしく、入れ違いにならなくて済んだことを、ほっとしたような困っているような複雑な顔をしていた。


「なんか用か?」


 クレムの言葉は警戒を隠さずに尖っていた。ジェイバーは少し傷ついた顔をして、それから頭を下げた。


「悪かった、いろいろと……その、ごめん」

「正直さ」


 クレムの声は冷たかった。笑顔はなく、冷ややかな視線をジェイバーに向けている。


「ジェイバーのこと、許してないよ。書架(ライブラリ)のことだけじゃなくって、それまでも、いろいろとやられてたし」


 クレムの声にジェイバーは顔をあげて、悲しそうに眉を寄せた。


「そう……だよな」

「ただ、仲良くするつもりはないけど、喧嘩ふっかけたいとも思ってない。もうちょっかい出してこないなら、それで良いよ」

「そっか……わかった。本当にごめん」


 どう納得したのか、ジェイバーは大人しく頷いた。それからジェイバーはセティの方も向いた。


「セティって言ったよな。あの、助けてくれてありがとう」


 自分にまで声をかけられると思ってなくて、セティは何度か瞬きをした。それからゆっくりと首を振る。


「どっちかと言えば、俺の事情に二人を巻き込んだんだ。だから、気にしなくて良い。無事で良かったな」


 セティの言葉に、ジェイバーは大きく首を振った。


「それでも、助けてもらったことには代わりないから。元はと言えば、書架(ライブラリ)に入った俺のせいだし」

「本当だよ」


 ジェイバーの言葉をクレムがまぜっ返す。その言葉にも、ジェイバーは怒ったりしなかった。クレムはちょっと拍子抜けたような顔になった。

 用事はそれだけだったのか、ジェイバーは「それじゃあ」と立ち去ろうとした。その後ろ姿にクレムは呼びかける。


「俺、お前のことまだ許してないけどさ、もし探索者(ブックワーム)になったらうちの店に来いよ。お客さんとしてなら、ちゃんと対応するからさ」


 ジェイバーは振り向いて、ちょっと泣きそうな顔をした。


探索者(ブックワーム)になりたいって思ってたけど……どうするかわからない。よく、考えてみる」

「……そっか」


 クレムは気が抜けたような顔をした。ジェイバーはまた前を向いて遠ざかってゆく。

 少しの間その背中を見送ってから、クレムはセティに笑いかけた。


「行こうぜ」


 歩き出したクレムを追いかけて、セティは一度だけ振り返ってジェイバーの背中を探した。人混みに紛れて、ジェイバーはもう見つからなかった。


   ◆


 パン屋では大きなミートパイと、ドライフルーツのパンを買った。その紙袋を抱えて、セティは歩く。

 デイジーの店では、はしゃいだデイジーに迎えられた。心配で泣いていたと信じられないくらいに、デイジーは明るく元気になっていた。


「本当にありがとう! セティたちがクレムとジェイバーを見つけてくれたんでしょう? 本当に良かった!」


 店で牛乳とチョコレートを買って、チョコレートをいくつかおまけしてもらった。三人でチョコレートを一粒ずつ食べて、その甘さに笑い合う。

 それから、前回と同じように、当たり前にクレムが牛乳瓶を抱えてデイジーがチョコレートの袋を持った。


「家まで持っていってやるよ」

「そう、アフターサービスってやつ!」


 それで三人で、書架街(しょかがい)を上に登ってゆく。途中で足を止めて、すり鉢の形の街を見下ろした。


「セティ、またうちに買い物に来てね。それで、今度は書架(ライブラリ)の話を聞かせて」


 デイジーが好奇心に輝く青い瞳をセティに向ける。


書架(ライブラリ)の話なんて、聞いて面白いのか?」

「だって気になるんだもの。わたしはきっと一生書架(ライブラリ)には潜らないし、危ないから潜りたいとも思わないけど。でも、話だけなら聞けるし」

「そんな面白い場所じゃなかったぞ」


 クレムがうんざりした顔をする。デイジーは頬を膨らませた。


「クレムには聞いてないもん。どんな(ブック)があるのかとか、それだけでも良いから。話してよ、ね?」


 セティはそれを嫌だと思わなかった。だから頷いた。デイジーが「やった」と喜ぶ。


「その代わり」


 セティの言葉に、デイジーは振り向いて瞬きをした。クレムも何事かと振り向いた。


「その代わりに、また美味しい店を教えてくれ。今度、ソフィーと一緒に来るから」


 デイジーは笑って頷いた。クレムもほっとしたように笑った。

 三人で、あれこれとおしゃべりしながら歩くのは楽しくて、セティはソフィーに言われた「友達」という言葉を思い出していた。

 実のところ、これを「友達」と呼んで良いのか、セティにはよくわからなかったのだけれど。




   第二部 ブックの少年と友達 おわり


 ここまで読んでくださってありがとうございます。第二部終了とキリの良いところで、更新しばらくお休みします。

 第三部を早めにお届けできるように頑張ります。セティはついに「アンブロワーズはなぜ死んだのか」を考え始める……予定です。

 更新再開時には、またお付き合いいただけたら嬉しいです。

 ブックマーク、評価(★)、とても励みになっています!ありがとうございます!

 もしまだの方がいらしたら、ブックマークと評価をいただけたらめちゃくちゃ嬉しいです。よろしくお願いします。


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