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ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第十章 毒霧の海月(メデューズ・ドゥ・トキシック)
59/105

59 偽物の中の本物

碧水の蛙アクアルーラー・フロッグ!」

鋼刺の山荒メタルソーン・ポーキュパイン!」


 たくさんのクラゲに囲まれて、ソフィーもリオンもそれぞれに応戦していたが、それも限界があった。数に圧倒され、追い詰められてゆく。


「リオン、セティと合流しましょう!」

「ああ。向こうまで行くのが大変だけどな」


 リオンは近づいてきたクラゲを針を飛ばして仕留めた。けれど、鋼刺の山荒メタルソーン・ポーキュパインは一回針を飛ばすと、次の針を準備するまでに時間がかかる。連射できないせいで、数の多いクラゲ相手には苦戦していた。

 次のクラゲが伸ばしてくる口腕を避けられず、絡みつかれてその痛みに思わず声を漏らす。

 リオンは顔をしかめながら、腕に絡みついてきたクラゲを引き剥がす。そのクラゲは光になって消えていった。腕は少し痛かったが、跡も何も残らない。偽物なのだと思えば、どうってことない。

 ソフィーはクレムとジェイバーの悲鳴が聞こえた方──セティが駆けていった方を見た。濃い霧と、その中に浮かぶクラゲの集団。


「行きましょう。はぐれないようにだけ気をつけて」

「できるだけ声出しながら行く」


 ソフィーは水で作った針で、進行方向にいるクラゲを何体か消した。元の数を考えるとあまり意味のない数ではあったけど、覚悟を決めるための儀式のようなものだった。

 そして、二人で霧の中を駆け出す。

 当然たくさんのクラゲをしのぎきることはできない。二人の腕に、足に、クラゲは口腕を伸ばして絡みつく。

 本物ではない。痛いような気がしているだけ。そうわかっていても、その刺激に反射的に声を漏らしてしまう。

 けれど、二人が濃い霧の中ではぐれずに済んだのは、その声のおかげもあった。お互いの呻く声を頼りに、二人は痛みをこらえて進む。

 やがて、霧の向こうに明かりが見えた。それは暖かく揺らめいて、ソフィーとリオンを招いているようだった。

 それはきっとセティの炎の蝶(フレイム・バタフライ)だ、とソフィーは直感した。


「セティ! そこにいるの!?」


 ソフィーの問いかけに、明かりはより一層大きく揺らめいた。そして、一呼吸の後に応えが返ってくる。


「ソフィー! リオンも一緒か!?」

「俺も一緒だ!」


 ソフィーとリオンは足を早める。濃い霧の中、そこだけぽっかりと空間が空いていた。

 空間の中心にはクレムとジェイバーがいる。そして、たくさんの炎の蝶(フレイム・バタフライ)が周囲を飛び回っている。

 クラゲは、炎の蝶(フレイム・バタフライ)に近づかないようだった。それで、炎の蝶(フレイム・バタフライ)が飛んでいるその周囲には、クラゲも霧もない。

 セティは自分の身長よりも長い白銀の槍を持って、それを振り回していた。たくさんのクラゲがそれで消えたけれど、それでもクラゲの数は減っているように見えない。

 もしかしたら、こうやっている間にもトワジエムの虚構(フィクション)の知識で増えているのかもしれなかった。

 ソフィーは首筋に絡んでいたクラゲを剥ぎ取ると、ほっと息をつく。


「良かった、無事で。セティ、勝手に行っちゃうから心配したんだ……か、ら……」


 ソフィーの声が途切れる。ソフィー自身にも意味がわからなかった。急にめまいがして、立っていられなくなった。くらりとして、その場にしゃがみ込む。

 それでもまだめまいは収まらずに、床に体を投げ出してしまった。


「ソフィー!?」


 自分の体に絡みついていたクラゲを引き剥がし終えたリオンが、慌ててソフィーに駆け寄る。

 セティは目を見開いて、その場に立ったままソフィーの姿を見ていた。


「あ、あ……何、これ……苦し……」


 息苦しさに、ソフィーは背中をのけぞらせた。顎をあげて、空気を求めて喘ぐ。

 そのとき、ソフィーの足に絡んでいたクラゲが、その口腕を解いてふわりと浮き上がり逃げ出した。

 リオンがはっとして鋼刺の山荒メタルソーン・ポーキュパインで狙ったときには、もうそのクラゲは霧の中に紛れてしまった後だった。


「今のが、本物だったんだ!」

「きっと……毒……」


 ソフィーの額には、嫌な汗が滲んでいた。それでも必死に、動こうと、喋ろうとする。


「何もしなくて良い!」


 ようやく、セティは動き出した。ソフィーに駆け寄ると、恐る恐るその額に触れる。汗でじっとりと濡れて、冷たかった。


「少し場所を移すぞ」


 リオンの指示で、セティは二人でソフィーの体を運んだ。クレムとジェイバーの前に。


「クレム、ソフィーのことを見ててくれ」


 セティの言葉に、クレムは不安そうな顔をした。


「俺、見てるしかできない……」

「それで良いから……俺は、一緒にいられないから」


 苦しげに浅い呼吸を繰り返すソフィー。セティはソフィーから視線をあげると、立ち上がって部屋の中に向けて振り返った。

 リオンも立ち上がって、霧の中を見る。


「さっきの本体。あれを見つけて壊せば、ソフィーの毒も消えると思う」


 セティの言葉に、リオンは頷いた。


「なんとかしてやろうぜ。ソフィーを助ける。あの子たちも。そしてみんなで書架(ライブラリ)を出るんだ」

「当たり前だ!」


 セティは一角獣(リコルヌ)の槍を構え、リオンも腕に山荒(ポーキュパイン)を乗せて棘を準備する。

 どこからか、トワジエムの笑い声が響いた。




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