表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第九章 劫火の不死鳥(フェニクス・デュ・フー・ドゥ・アポカリプス)
55/105

55 大鷲(イーグル)が立ち向かう

 疾風の大鷲(ゲール・イーグル)(ブック)を握り締めるリオンを、ソフィーは振り向いた。


「待って! 直接なんてどれだけ危険だと!」

「他に方法を思いつかない。近づいて所有者(オーナー)になる」


 リオンは真っ直ぐにソフィーを見た。それでもソフィーは認めようとしなかった。


「じゃあせめて、わたしも連れて行って。碧水の蛙アクアルーラー・フロッグで援護を」

「それは駄目だ。危なすぎる」

「自分はその危ない中に突っ込むんでしょ!?」


 怒るソフィーを、リオンは冷静になだめた。

 セティは心配そうに振り返ったが、吹き荒ぶ熱風の対応に追われて、すぐに不死鳥(フェニクス)の方を向いた。氷の壁を生み出して、その熱を防ぐ。


「落ち着けって。勝算が全然ないまま突っ込むわけじゃないんだ。ソフィーにもセティにも協力してもらいたい」


 それでもなおソフィーは何か言いかけたけれど、大きく息を吐いて自分を律した。頷いて、話の続きを促す。


「遠くから攻撃するのじゃ埒があかない。だから直接行って所有者(オーナー)になる。とは言っても、あの熱じゃ近づけない。近づくために、氷や水は欲しい」

「じゃあやっぱりわたしが」


 リオンは首を振ってソフィーの言葉を止めた。


「でも、ソフィーにはここから支援して欲しい。不死鳥(フェニックス)がどう動くかわからない。何かあったときには、あの子供たちを守ってくれ」


 ソフィーははっと息を呑んだ。そして、視線を離れたところにいるクレムとジェイバーに向ける。二人をさっき少し冷やした水分はもうすっかり乾いていて、今は涙と汗でその顔を濡らしている。

 変わらず溶岩に囲まれ、熱さの中で顔を真っ赤にして、苦しそうに喘いでいる。


「あの二人にも目を配るために、ソフィーはこの場所にいるべきだ。俺はそう思う」

「俺もそう思う」


 ずっと黙っていたセティが、リオンに同意した。


氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴルはあそこまで届かない。届く前に溶けてしまう。だから、あの二人を助けられるのは、今はソフィーだけだ」


 ソフィーはわずかに逡巡してから、返事の代わりに右手を持ち上げた。ソフィーの肩に乗っていた碧水の蛙アクアルーラー・フロッグがぴょんと飛び乗る。

 碧水の蛙アクアルーラー・フロッグは自分の体から水の塊を生み出して、そしてそれをクレムとジェイバーに向かって飛ばした。その水は、二人の子供の体をまた幾分か冷やした。


「わたしがここに残るべきというのはわかった」

「セティは切り札だからな、連れて行くわけにはいかない。だから俺はひとりで行く」

「本当は俺だって行きたいんだ。俺が行けば、きっと、大丈夫だから」


 それでも、セティを危険に飛び込ませるわけにはいかない。それはソフィーもリオンも同じように考えていた。セティには、それが少し気に入らなかった。

 セティが作った氷の壁は熱気でどんどん蒸発し、痩せ細って、穴があきはじめていた。セティは唇を尖らせて、また新しく氷の壁を用意する。


「きっと状況を打開できる。行かせてくれ」


 リオンの真っ直ぐな視線。そこに込められた意思。ソフィーはリオンの覚悟を受け取って、諦めたように溜息をついた。


「わかった……でも、無茶はしないで」

「ああ、任せておけ」


 リオンはにやりと笑って、(ブック)を握りしめていた手を開いた。


開け(オープン)疾風の大鷲(ゲール・イーグル)


 リオンの手のひらの上の(ブック)がぼうっと光を放つ。その表面に刻まれた文字や文様に光が走って、次には四角い輪郭が曖昧になる。その光が大きく膨らむと、風が吹き荒れた。

 風の中心、光の中から大きな翼が開く。そして、立派な大鷲(イーグル)の姿が現れた。

 リオンはその背中に乗り込むと、ソフィーにウィンクを残して飛び立った。高く──空高く、不死鳥(フェニクス)よりも高く、大鷲(イーグル)は舞い上がった。

 不死鳥(フェニクス)大鷲(イーグル)の姿を追いかけるように首を持ち上げた。

 そこへ、セティが氷の塊を放つ。不死鳥(フェニクス)は飛んできた氷の方に興味を移して、セティの方を見た。

 大鷲(イーグル)が降りてくると、不死鳥(フェニクス)はまたそちらを気にした。燃え盛る羽を大きく広げ、その熱はより一層広がった。

 大鷲(イーグル)は慎重に距離をとりながら、頭上から少しずつ不死鳥(フェニクス)に近づいてゆく。

 もう少しというところで、不死鳥(フェニクス)は急にぐるりと旋回した。その長い炎の尾が、まるで鞭のように大鷲(イーグル)を襲う。大鷲(イーグル)は機敏にそれをかわすが、不死鳥(フェニクス)の動きも早い。

 ソフィーは水の塊を不死鳥(フェニクス)に向けて放つ。不死鳥(フェニクス)は首をわずかにそちらに向けたけれど、すぐに興味を大鷲(イーグル)に戻した。

 長い尾が鋭く大鷲(イーグル)の翼を叩く。その衝撃に大鷲(イーグル)は慌てて翼をばたつかせ、不死鳥(フェニクス)と距離を取った。

 大鷲(イーグル)の風と不死鳥(フェニクス)の熱風がぶつかり、空気が荒れ狂う。

 ソフィーは水の塊をまた、クレムとジェイバーのところへ届ける。風で狙いが少しそれたが、それでも二人の体は水に包まれた。

 不死鳥(フェニクス)大鷲(イーグル)に向けて羽ばたいた。揺れる炎のような長い尾が宙を舞う。大鷲(イーグル)は風を操りながらその尾を避けた。そこへ、不死鳥(フェニクス)が突進する。


「リオン!」


 ソフィーが水の塊を放つ。けれど不死鳥(フェニクス)は向きを変えない。大鷲(イーグル)は長い尾を避けて不安定なところに追突されて、ぐらりとかしいだ。

 大鷲(イーグル)はなんとか持ち直したが、高く飛び立とうにもすぐ頭上に不死鳥(フェニクス)がいた。不死鳥(フェニクス)はその足で何度も、大鷲(イーグル)を襲った。


「くそっ!」


 セティも氷の塊を不死鳥(フェニクス)に向かって放つ。それでも不死鳥(フェニクス)大鷲(イーグル)から離れない。

 大鷲(イーグル)は懸命に翼をばたつかせ、不死鳥(フェニクス)から逃れようとしたが、そのたびに不死鳥(フェニクス)の鉤爪が、長い尾が、大鷲(イーグル)を痛めつけた。

 ソフィーは諦めずに水の塊を不死鳥(フェニクス)に向けて放った。一瞬、ほんのわずかだけ、不死鳥(フェニクス)大鷲(イーグル)から気をそらしてソフィーの方を見た。

 その隙をついて、大鷲(イーグル)が体勢を立て直そうとする。リオンはまだ反撃を諦めていなかった。

 けれど、不死鳥(フェニクス)はすぐに目の前の大鷲(イーグル)に興味を戻し、長い尾でその翼を叩いた。

 熱風に、大鷲(イーグル)の翼が舞う。そのまま大鷲(イーグル)は落ちてゆく。


「リオン! リオン!」


 ソフィーは水の塊を放ちながら叫ぶが、その声が届いているかはわからない。

 大鷲(イーグル)が落ちた先は、噴火口の、今まさに溶岩が吹き出しているその中だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ