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ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第八章 鋼刺の山荒(メタルソーン・ポーキュパイン)
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51 森の向こうへ

 ソフィーは目を細めて、木の枝からびっしりと垂れ下がる蔦のカーテンを見ていた。


「隙間がある」

「隙間?」


 ソフィーの言葉に、リオンも目を細める。ソフィーは地面を指差した。


「蔦と地面の間……身を伏せれば通れそうじゃない?」


 リオンは少し考えてから、首を振った。


「でも……地面に苔がある。少しだけど草の芽も出てきてる。そこを身を伏せていくとなると……傷だってできるし、何より時間がかかりすぎるだろ」

「セティが地面を凍らせたら、うまく滑って通り抜けられないかしら」


 ソフィーとリオンはセティを見る。セティは瞬きをしてから、すぐに胸を張った。


「そういうことか。地面のでこぼこを全部氷で平らにすれば良いんだな。できるぞ」


 顎を持ち上げるセティに、ソフィーも笑みを返す。その表情のままリオンを見る。


「ここまできたら一人ずつなんて悠長なこと言ってないで、みんなで一気に行きましょう」

「防げるか?」

「わたしもできるだけやるけど、セティにも手伝ってもらおうかな。セティ、氷で棘は防げそう?」


 セティは口元に手を当てて少し考えるそぶりを見せた。


「ここまで見た感じだと、防げると思う。かなり全力じゃないと止められなさそうだけど」

「多少勢いを弱めるだけでも良い。避けられる余地ができれば良いから」

「それならきっとできる」


 真っ直ぐに、セティはソフィーを見上げる。ソフィーはその視線を受け止めて、頷いた。


「先頭はリオンお願い。セティはリオンについていって、棘が飛んできたら氷で防いで。わたしは後ろから、水を使ってできるだけ気を引くから」


 ソフィーは蔦のカーテンの向こうを睨む。


「透けて見える感じだと、この向こうに木はほとんどない。きっと本体も近いはず。ここを抜けたら、本体まで一気に駆け抜けましょう」


 リオンは短い金髪を掻き回して少しだけ考えた。けれどもう、心はほとんど決まっていた。


「なんにせよ、ここは抜けないといけない。わかった、やるよ」


 リオンの視線もソフィーは受け止めた。微笑んで頷くと、セティを見下ろす。


「じゃあセティ、お願い」

「地面をできるだけ平らにすれば良いんだな、任せておけ」


 セティはしゃがむと地面に手を触れる。視線は蔦のカーテン、その先へ。


氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴル


 姿を消していた氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴルが現れる。ぴょんとセティの肩に乗る。

 そのセティの指先から、霜柱ができるように、地面に氷が広がってゆく。氷は地面の苔や細かなでこぼこを覆って、滑らかにしてゆく。木の根の大きな出っ張りや高さのある草は覆いきれないが、それでも苔や小さな草の芽が覆われただけでも、随分と平らに見えるようになった。

 地面の氷は蔦のカーテンの向こう、さらにその先まで広がっていった。


「見えないところまでは、責任は持てない。できるだけ広げたつもりだけど」

「ありがとう。上出来!」


 ソフィーの声に、セティは満足そうに顔をあげた。氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴルがその頭に乗っかる。


「じゃあ、リオン、セティ、準備は良い?」


 リオンは大きく息を吐いてから、にやりと笑ってみせた。


「いつでも」


 セティは頭に乗った氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴルを胸に抱えると、ソフィーに向かって頷いた。

 ソフィーは碧水の蛙アクアルーラー・フロッグを手のひらに乗せて、蔦のカーテンの隙間に狙いを定める。


「五、四」


 ソフィーのカウントが始まる。リオンは膝を曲げて動き出す準備をする。


「三、二、一、放て!」


 碧水の蛙アクアルーラー・フロッグが水の塊を生み出し、それを放つ。蔦の隙間を通ってその向こうへ。

 同時にリオンは大きく動き出す。足を突き出して氷の上に着地すると、そのまま体を倒してぶら下がった金属の蔦の下をくぐる。

 セティもリオンに続いた。氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴルを胸に抱えたまま、リオンを真似て蔦の下をくぐる。

 少し遅れて碧水の蛙アクアルーラー・フロッグを抱えたソフィーが続く。

 蔦の向こうには木がまばらだった。代わりに地面には、背の低い草が生えている。当然その草も金属だった。硬く葉を尖らせている。

 そしてその向こう、リオンの頭よりも高いくらいの位置に、小さな金属の塊が浮いていた。小さな金属の塊は、まるで液体のようにその形を変えているところだった。

 細く、長く、それは金属の棘になった。

 慌ててソフィーが水の塊を放つ。棘はそちらを向いて、飛んでゆく。水の塊が弾ける。

 すると、先ほどの場所に次の金属の塊が生み出された。そしてそれはまた棘へと形を変えてゆく。


「あの下に本体がいる!」


 ソフィーの声に、セティは地面の氷を広げる。その場所まで、氷の道を作り出した。

 リオンは氷の道を走った。ソフィーはまた水の塊を放ったけれど、出来上がったばかりの棘は近づいてくるリオンに向かっていた。


氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴル!」


 セティがリオンと棘の間に氷を生み出す。氷の塊はみるみる大きく厚くなっていったけれど、棘に貫かれて砕けた。

 それでも、棘の狙いはそれた。リオンの足があった場所を棘がえぐる。

 そしてまた次の棘が生み出される。

 リオンは手を伸ばして大きく跳んだ。その先には、ヤマアラシがいた。体のトゲが手袋を貫くのも構わず、リオンはヤマアラシを両手で抱える。


「我が呼び声に応えよ! 我リオンは汝の所有者なり!」


 頭上の棘が、リオンを向く。その状態で、止まった。

 ヤマアラシの体が、ぼうっと光を放って、リオンを所有者(オーナー)として受け入れた。

 リオンは大きく息を吐いて、ヤマアラシの体を離した。


閉じろ(クローズ)


 リオンの命令の声とともに、頭上の棘も、周囲の金属の草も木も、苔むした地面も、すべて姿を消した。

 残ったのは、石積みの壁と床の通路だった。

 ソフィーもセティも緊張を解いて脱力する。

 リオンは穴だらけになった手袋で、新しく手に入れた(ブック)を握った。その題名(タイトル)は、鋼刺の山荒メタルソーン・ポーキュパイン




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