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ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第二部 本(ブック)の少年と友達 第七章 はじめてのおつかい
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44 探索者(ブックワーム)の噂話

 部屋に戻ってすぐに、ソフィーはリオンと連絡を取った。

 ソフィーとセティは書架(ライブラリ)に潜る準備を済ませた状態で、書架(ライブラリ)の近くでリオンと落ち合った。


書架(ライブラリ)で行方不明の子供が、セティの知り合い?」


 リオンの言葉に、セティは頷く。


「クレムの家でこの道具袋(ポーチ)を買ったんだ。案内してもらって、荷物も持ってもらった」

「そっか、友達ってやつか?」

「友達……はわからないけど、書架(ライブラリ)で迷ってるとか、帰れなくて困ってるとかなら、助けたい」


 セティは真剣な表情でリオンを見上げた。リオンは大きな手でセティの頭をぽんぽんと叩く。セティは唇を尖らせてその手を払った。


「だから、子供扱いはするな」

「悪い悪い」


 リオンは払われた手のひらをひらひらと振って、もうその意思がないことを示した。ふん、とセティは両手を腰に当てる。


「子供が書架(ライブラリ)に入った話は、もうだいぶ広まってるの?」


 ソフィーの問いかけに、リオンは頷いた。


「俺のところには、探知の(ブック)を探してるって、心当たりはないかって、人伝てに届いたんだ。

 行方不明の子供って二人いるんだろう? その片方の父親が探索者(ブックワーム)で、何人か募って探しに潜ってるらしい」

「そう。それで見つかるなら良いんだけど」

「まあ、相手は書架(ライブラリ)だからな。うまく繋がるかどうかは……結局のところ運頼みだ。それ以外の探索者(ブックワーム)も気にしてはいるけど」


 ソフィーは書架(ライブラリ)の入り口前の広場を眺める。いつもより探索者(ブックワーム)の数が多いように見えるのは、その影響だろうか。それとも気のせいだろうか。


「わたしにもこれといって良い考えがあるわけじゃないの」

「だからって、黙って待ってるのは嫌だ。俺も探しに行きたい」


 セティはソフィーとリオンを順番に見た。力がこもった、まるで睨むような視線に、ソフィーは微笑んで頷いた。

 それからまっすぐにリオンを見る。


「わたしもセティと同じ。書架(ライブラリ)に潜りたい。少しでも可能性があるなら、できることはやっておきたい」


 ソフィーとセティの緊張をほぐすように、リオンはウィンクする。


「そういう話に声をかけてもらえて光栄だ。俺もぜひ同行させてくれ。というか、もう潜るつもりで準備してきたんだ、実はね」

「話が早くて助かる。わたしたちも、潜る準備はしてきてあるの。早速行きましょう」


 動き始めようとするソフィーを、リオンは止める。


「なんで止めるんだ、さっさと行けば良いだろ」


 セティが苛立ちをあらわにリオンを見上げる。リオンは「まあまあ」となだめてから、不意に真面目な表情になる。

 リオンが見せる珍しい表情に、ソフィーは口をつぐんだ。


「実は、潜る前に話しときたいことがある。聞いた噂なんだけどな」

「噂?」


 リオンは、ソフィーとセティに一歩近づいて声を潜めた。


「そう。なんでも書架(ライブラリ)の中で『セティエム・グリモワール』を探している奴がいるらしい」

書架(ライブラリ)の中で……?」

「セティエムって……!」


 セティが不安そうに視線を揺らして、地面を見た。ソフィーは逆に、目を見張ってリオンを見つめる。


探索者(ブックワーム)の間で噂になっている。銀髪の男らしい。そいつが書架(ライブラリ)の中で、突然背後に現れて、聞いてくるんだ」


 ──セティエム・グリモワールを知らないか?


「知らないと答えると、気づけば目の前からいなくなっているって話だ。本当かどうかはわからない、ただの噂だけどな」

「いえ、でも……」


 ソフィーがちらりとセティを見る。セティは顔をあげて、ソフィーに頷いてみせた。


「きっと、そいつもグリモワールシリーズだと思う。この前のシジエムと同じ、俺の兄姉(きょうだい)……俺を探してるんだ」


 セティは不安そうな顔でソフィーとリオンを見上げた。ソフィーは小さく溜息をついて、リオンを見る。


「わたしも、その噂は本当なんじゃないかと思う。セティの言う通り、この前のシジエムのような(ブック)なんでしょうね、きっと」

「だとしたら、俺たちもそいつに会う可能性は高いってわけだ」


 セティは不安そうな顔のまま、半ズボンの裾をぎゅっと握った。何か言いたげに口を開いて、でも言葉にならずにそのまま口を閉じる。

 ソフィーが膝を曲げて、セティの顔を覗き込む。


「どうしたの? 気になることがあるなら言って?」

「あ、その……」


 セティはズボンの裾を握りしめたまま、ソフィーの顔を見て、それからリオンの顔も見た。耐えきれないように、視線を落としてうつむいた。


「ソフィーもリオンも、俺が一緒で良いのか?」


 セティの言葉に、ソフィーとリオンは顔を見合わせた。何を言おうかと二人が迷っている間にも、セティは言葉をあふれさせた。


「俺がいると、この前のシジエムのときみたいに、きっと……二人ともまた危ない目に逢う。俺のせいで、二人とも……」


 その言葉を遮ったのは、リオンの手だった。リオンが無遠慮に、セティの黒い髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。


「……っ! こ、こんなときまで子供扱いするなっ! 俺は……」


 泣きそうな顔で手を振り払うセティに、リオンは笑ってみせた。


「この噂話を聞いたときから、そうなるだろうって覚悟してここに来たよ。じゃなかったら、そもそもここには来ない。むしろ、お前は来るなって言われる方が悲しいよ、俺は」

「わたしも、覚悟ならあるつもり。セティの所有者(オーナー)を続けるってのは、そういうことだって、何度も考えたもの」


 ソフィーもにっこりと笑ってセティを見下ろす。


「それに、セティは特別で強い(ブック)だから。セティがいればきっと大丈夫、でしょ?」


 セティは口をへの字に曲げて、強気にぐいと顎を持ち上げた。


「当然だ。俺がいれば大丈夫なんだからな。俺はいずれ大魔道書になる、特別な(ブック)なんだ」

「ええ、期待してる、セティ」

「そうだな、頑張ろうぜ」

「任せとけ!」


 セティがいつものように胸を張って、ソフィーとリオンは笑みをこぼした。

 そして書架(ライブラリ)に潜る前にと、三人で拳を付き合わせたのだった。




   第七章 はじめてのおつかい おわり


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