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ブックワームは書架へ潜る  作者: くれは
第五章 爆炎の赤竜(ドラゴン・ルージュ・ド・エクスプロジオン)
25/105

25 新しく埋める頁は

 疾風の大鷲(ゲール・イーグル)爆炎の赤竜ドラゴン・ルージュ・ド・エクスプロジオンの顔の前を飛ぶ。(ドラゴン)の標的はソフィーとリオンだが、目の前を飛ばれては無視するわけにはいかない。

 (ドラゴン)は鋭く並んだ歯の隙間から炎を漏らして、大鷲(イーグル)に鼻先を向けて、顔を持ち上げた。口から吐き出された炎の塊を大鷲(イーグル)はもう一度、風を使って羽が焦げそうな距離でかわしてみせた。

 そうやって顔の近くを飛び回る大鷲(イーグル)の方に、(ドラゴン)は完全に気を取られていた。


「今っ!」


 ソフィーの声とともに、白輝の一角獣(ルミナス・ユニコーン)が駆け抜け、跳ぶ。その軌跡に、輝きが残って見えた。

 一角獣(ユニコーン)(ドラゴン)の前脚に、その立派な白銀の角を槍のように突き刺した。

 痛みからか、(ドラゴン)は唸り声をあげ、前脚を持ち上げた。

 いなないて体の向きを変えた一角獣(ユニコーン)は、振り下ろされた前脚を素早く避けてソフィーの元に戻ってきた。

 (ドラゴン)の前脚の傷からは、わずかにインクのような黒い液体がこぼれただけだった。

 傷は浅い。ソフィーは唇を噛んだ。


「ささやかな抵抗ね。その程度の攻撃、爆炎の赤竜ドラゴン・ルージュ・ド・エクスプロジオンには効かない」


 (ドラゴン)の肩に乗ったシジエムが、つまらなそうにセティを見下ろす。


「セティエムも諦めて、わたしと一緒に行きましょう?」

「嫌だ! 俺は知識を集めて頁を埋めるんだ!」


 セティはシジエムを睨み上げる。

 ソフィーは戻ってきた一角獣(ユニコーン)の首を抱く。


「あまり効いてない……この程度の傷じゃ、どうにもならない」


 でも諦めてはいなかった。そのときにはもう、ソフィーは覚悟を決めていた。


「リオン、もうしばらく時間を稼げる?」

「なんとかするよ」


 リオンは鋭く口笛を吹いた。その音とリオンの意思に従って、疾風の大鷲(ゲール・イーグル)が舞い戻る。

 ドラゴンの顔が下りてきて、炎を吐き出した。


氷華の兎ラパン・ドゥ・ジーヴル!」


 セティが氷色の兎を操り、氷の壁を作り出して炎を防ぐ。防ぎきれない熱気が、三人に押し寄せてくる。

 その熱気の中で、大鷲(イーグル)が地面に降りて羽を畳んだ。リオンはその体によじ登って、背中にまたがった。


「直接行くつもり?」


 所有者(オーナー)(ブック)の近くにいる方が、より意思を伝えやすい。特に細かな指示があるなら、すぐ近くにいる方が良い。それは、探索者(ブックワーム)の中では常識のように言われていることだった。

 そうとわかってはいても、ソフィーは心配そうな視線をリオンに向けた。


「まあね。ちゃんとかわしてみせるさ」


 リオンは明るく言って、ソフィーにウィンクして見せた。ソフィーの心配そうな顔が、呆れたものに変わる。リオンはその変化にほっとして、(ドラゴン)を見上げた。

 長い尻尾が振り回されて、その衝撃をセティが氷の壁で受け止める。その隙に、大鷲(イーグル)はリオンを乗せて飛び立った。


「邪魔ね」


 (ドラゴン)の鼻先を飛び回る大鷲(イーグル)に、シジエムは眉をひそめる。(ドラゴン)大鷲(イーグル)に気を取られて、顔を持ち上げた。今にも炎を吐こうと、その眼は鋭く大鷲(イーグル)を追いかけている。

 リオンを見送ったソフィーは、一角獣(ユニコーン)と一緒にセティの隣に立った。セティは、(ドラゴン)を見上げて少しぼんやりとしていた。時折、ぼうっと輪郭が光って曖昧になる。

 書架(ライブラリ)に入ってから、セティはずっと(ブック)の知識を使い続けてきた。その疲れが、きっと溜まっている。さっきの休息(スリープ)で多少は回復したのだろうけど、それじゃあ足りないのだ。


(それでも、(ドラゴン)を倒すためにセティは必要。セティがいなければ、きっとわたしたちは勝てない)


 あの(ドラゴン)に勝つ。その意思を込めて、ソフィーはセティの名前を呼んだ。


「セティ」


 セティははっとしたように振り返った。ぼんやりしていた表情が、ぎゅっと引き締まる。こんなの全然どうってことないと言いたげに、唇が引き結ばれる。いつもの生意気な顔をする。

 その表情を見て、ソフィーは微笑んだ。


「セティに、白輝の一角獣(ルミナス・ユニコーン)をあげる。セティがこれを使えば、きっとあの(ドラゴン)を倒せると思うから」


 ソフィーが一角獣(ユニコーン)の首筋を撫でると、一角獣(ユニコーン)は大人しくセティの前に進んで頭を下げた。薄暗い洞窟の中で、その姿はきらきらとまばゆいくらいに輝いていた。

 セティは何も言わなかった。言わなくても、聞かなくても、ソフィーの意思を受け取ったと思った。目の前にいる美しい一角獣(ユニコーン)は、ソフィーの意思そのものだった。

 自分の前で頭を下げる一角獣(ユニコーン)に向かって、セティは両手を広げる。長い角を避けて、その頭を抱える。


「お前の知識、食らってやる。俺の一頁になれ」


 一角獣(ユニコーン)の体が光の塊になる。セティは両手で抱えた光の塊を、大きく息を吸うように飲み込んだ。白い喉がこくりと動く。

 光を飲み込んだセティの体も淡く光る。

 シジエムがその光を見下ろして、哀れむような顔をした。


「セティエム、あなたはまた、せっかくの白い頁を汚したのね」


 セティはシジエムを睨み上げた。


「汚れじゃない! 知識だ! 俺は知識を手に入れて、成長してるんだ!」


 隣で、ソフィーもシジエムを見上げる。


「勝ちましょう、セティ!」

「当たり前だ! 白輝の一角獣リコルヌ・リュミヌーズ!」


 セティの前に、真っ白に輝く一角獣(リコルヌ)が姿を見せる。


「こい!」


 セティが手を差し伸べると、一角獣(リコルヌ)は一声いなないた。そして、その体が光をまとう。

 強くなる光が一角獣(リコルヌ)の輪郭を曖昧にする。一角獣(リコルヌ)は光の塊に変化して、セティの手に向かっていった。

 セティが強い意思とともに光を握りしめる。セティの手の中で一角獣(リコルヌ)の光は意思の力を受けて変化してゆく。それは長く、細長く。そして光は白銀をまとう。

 光が収まったとき、セティの手には、その身長よりも長い白銀に輝く槍が握られていた。




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