〔第六話〕十代目・石川五ェ門
深夜の護帝神社。春花の寝室に健太が入ってきた。
「小隊長、起きて下さい」
「きゃあ、あんた本当に襲いに来たの!」
「違いますよ。不審な輩がいるんです」
「不審なのは、あんたでしょう」
「だから、違いますよ。たぶん盗賊だと思うのですが」
「えっ、盗賊?」
「変な話し声が聴こえたので、見に行ったら、不審な男たちが五、六人、境内に集まっていたんです」
春花は飛び起きて、健太に指示した。
「早く、パワードスーツを着るのよ」
この夜。護帝神社の境内に集まった盗賊の首謀者は、自称『十代目・石川五ェ門』と、いっても、安土桃山時代の大泥棒・石川五ェ門とは、全く関係のない人物である。
この男は、西日本の某城下町に生まれた。呉服屋の末っ子であったが、少年時代は剣術道場に通い、筋が良く、将来は免許の皆伝を受けるであろうと噂される。
しかし、十代の頃に江戸の呉服屋へ奉公に出て、そこで博打を覚えた。悪い仲間もでき、彼は剣術自慢でもあることから、博徒の親分の子分になってしまう。
だが、そんな彼は、博徒としての頭角を現し始めた頃に、女性問題で、兄貴分を斬ってしまった。
そのまま大阪に逃げた彼は、それ以降、盗賊になり『十代目・石川五ェ門』を名乗って、京阪を荒らし回っている。今では手下を率いる『お頭』であった。
この五ェ門は、以前から、護帝神社に奉納された宝刀『月夜見ノ小太刀』を狙っていた。宮司が留守であると聞いて、今夜、手下を集めたのだ。
春花は、パワードスーツを着用しながら言う。
「相手が五、六人なら、火器は使わずに格闘戦よ」
「はい、了解しました」
パワードスーツには、マシンガン、グレネード・ランチャー、ミサイルが装備されている。だが弾には限りがあるために、なるべく温存したいと、春花は考えた。
二人が境内に出ると、やはり盗賊らしき人影がある。暗視眼鏡で見ると、凶悪そうな人物が、六人。
「自分が、行きます」
健太は盗賊の前に躍り出た。
「なんだ、お前は!」
盗賊の一人が、そう言うより早く、健太の脇腹を短刀で刺した。もちろんパワードスーツの装甲で守られている。
「な、なんだ?」
その男は何度も刺したが、全く刃が立たない。すると今度は、大柄な男が前に出て来て、
「ふんっ、ワシが相手じゃ」
健太に向かって、突進してきた。
「おりゃあっ、小僧が!」
ガツン!
激しく激突する。健太は正面から受け止めた。
「見かけによらず、恐ろしい力じゃ。だが」
大男は、足を掛けた。
「ワシは元力士じゃ!」
投げ技を出す。
ドスン。
健太は地面に叩きつけられた。それを見て春花が怒鳴る。
「なに、やってんのよ!」
「いやあ、そうくるとは」
立ち上がった健太は、大男のボディにパンチを叩き込んだ。
ズドンッ。
「う、うぅっ」
悶絶する大男の顔面を狙い、飛び回し蹴り。
バギンッ!
キックが決まると、大男が真後ろに倒れ、気絶した。
「おいおい、あんまりナメるなよ」
自称・石川五ェ門が、
シャキーン。
背中に背負った忍者刀を抜く。
「俺は、こいつらとは違うぜ」
気合い一閃。
「いやあぁーっ」
五ェ門は健太の左首筋へと斬り込んだ。
ガッ。
首筋に当たる刃。そのまま五ェ門は、
ググッ、
と、忍者刀に、力を込めた。首を切断するつもりだ。
「死ねやッ!」
「死なないよ」
両手で刀身を握る健太。そのまま、忍者刀をへし折る。
ガギイィーン!
「な、なんだ。本物の化け物か」
五ェ門は血相を変えて、脱兎のごとく遁走した。
「う、うぁっ」
他の仲間も、蜘蛛の子を散らしたように、逃げる。ただ一人、気を失った元力士が大の字になりノビていた。
「こいつ、どうするの」
と、春花が指差す。
「おい、生きているか?」
コン、コンと爪先で、大男の脇腹を蹴る、健太。
「う、うぅっ」
さすがは元力士だけあって、回復が早い。すぐに、両目をパチリと開いた。そして、健太の姿を見る。
「あっ、うぁっ、化け物!」
大男は、バネのように跳ね起きて、全速力で逃げ去った。