〔第四話〕幸村無双
護帝神社の未来人二人は、
「小隊長、巫女さん姿が似合いますね」
「そうでしょう。実は私、高校生の頃、巫女さんのバイトをしたことがあるのよ」
「本当ですか?」
「本当よ。けっこう評判が良かったんだから」
それを聞いて、健太は小声で独り言を、
「でも、十年以上前の話」
「今、なんか言った?」
「言ってません」
「嘘。十年以上前って言ったでしょう!」
「聞こえているんじゃないですか」
「本当に言ったのね!」
そんな二人を見て、宮司は微笑みながら、
「まるで、姉弟のようだな」
「お似合いですが、夫婦になるには、女性が年上過ぎますかね」
と、清麻呂。だが、宮司は笑いながら、こう言った。
「そんなことはない。愛には色々な形がある」
その頃、江戸幕府は、禁門の変を起こした長州藩を処分するために挙兵することを決めた。長州征討である。
これに対して長州藩が、藩内の倒幕派を粛清するなど、幕府に恭順の意を示したことにより、一旦は収束した。だが、長州藩で内部抗争が勃発し、再び、倒幕派が主導権を握る。
この事態を受けて、幕府は第二次長州征討の兵を挙げた。その数は十五万。十四代将軍の徳川家茂も指揮を執るために大阪城に入る。
その将軍・徳川家茂を狙う者があった。冥府から甦った真田幸村だ。幸村は鎧武者の姿で、単身、大阪城の正面に立った。
「攻守ところを変えか。まさか、この大阪城で徳川将軍の首を討ち取る日が来るとはな」
だが、すぐに城兵が飛び出してくる。
「怪しい奴がいるぞ」
「何者だ」
と、十数人が幸村を取り囲む。
「我は、左衛門左・真田幸村」
幸村は、伝説の『妖刀村正』を抜いた。この村正は徳川家からは、不幸を招く不吉な妖刀であると、忌避されていてた。
幸村が『大阪の陣』のときに携えた刀も、村正だ。
「おりゃあ!」
城兵に斬りかかる、幸村。
ズバッ!
「ぐあっ」
一太刀で両断される、城兵。
「くせ者だ!」
「討ち取れ!」
城兵たちも応戦したが、
ザシュッ、ザシュッ。
と、幸村は敵を斬り倒し、大阪城の城内へと侵入した。
「敵襲だ!」
「何、数は?」
「それが、たった一人で」
数十人の城兵が、幸村へと殺到する。
「この幸村を討ち取れる猛者がいれば、首を取って手柄にするがいい」
血刀を片手に、高笑いを上げる幸村は、手当たり次第に敵を斬り倒した。地に転がる、おびただしい数の屍。
そこへ、甲冑姿の若き将軍・徳川家茂が現れた。
「ここは、この家茂に任せよ。下がれ、者共」
「う、上様」
「なぜ、こんな所へ」
「お戻り下さい」
「危険です」
家臣たちは口々に言ったのだが、
「このような魔物を討てるのは、神君家康公の血を引く、我のみである」
「ほう、家康の甲冑を身に付けてきたか」
幸村はニヤリと笑う。
家茂は徳川家の宝刀『ソハヤ之剣』を抜いた。
「来い。悪鬼魔導よ」
「では、参る」
幸村は不敵な笑みを浮かべ、一歩、踏み込んだ。
家茂も退かずに、前へ出る。
間合いを詰め、対峙する二人。強い視線が、ぶつかり合う。
「ほほう、さすがは征夷大将軍だ」
「なぜ、真田幸村ともあろう武将が魔導に堕ちた」
「徳川への怨みだ」
そう言うと、幸村は村正を振り上げ、
「滅びろ徳川!」
と、上段から斬りかかった。
ガッゴッ。
ソハヤ之剣で受ける家茂。
「消えよ、亡者!」
家茂は幸村を弾き返した。
「やるな、若造が」
「幸村、冥府へ戻れ」
ガチン、ガチン、ガチン。
双方、一歩も退かず、激しく刀を合わせる。激しい火花が散った。
「上様!」
家臣が助太刀をしようと、刀を抜くが、
「下がれ、下がれ。この悪鬼は、徳川家への怨霊だ。お前たちの相手ではない」
家茂は家臣を下がらせた。
大阪城で、壮絶な戦いを続ける、家茂と幸村。そして、
ガキーンッ!
凄まじい音を発して、折れたの刀は『妖刀村正』だった。
「な、何!」
驚愕する幸村だったが、
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」
九字護身法を唱えると、
バシン。
正拳で家茂の顔面を叩き、さらに組み付いて投げた。倒れた家茂のソハヤ之剣を奪う幸村。
「こ、この化け物が」
「徳川将軍よ、死ね」
幸村は刃を家茂の首に押し当て、
バヂン!
首を斬り落とした。
「将軍の首、真田幸村が討ち取ったり!」
幸村は叫び、勝ち名乗りを挙げる。
そして、徳川家の宝刀『ソハヤ之剣』を地面に叩きつけて、
ガギイィーン!
へし折った。
その後、長州征討は十五万人の幕府軍が、わずか3500人の長州軍に惨敗する。