〔第二話 〕大火の出会い
大火災の炎に包まれる夜の町。逃げ惑う人々。
パワードスーツ姿の緑川健太は、ややパニック気味になり、
「小隊長、ここは、どこなのですか!」
と、頭部のフルフェイス・ヘルメットを後ろへ外して、辺りを見回した。
「私にも、わからないわ」
桜庭春花もヘルメットを外す。小隊長の彼女も混乱しているようだ。
町並みは時代劇のセットのようであったし、火災から逃げる人々は、皆、和服だった。ここは、どう見ても江戸時代である。
「あなた方は、未来の人ですか?」
不意に声をかけてきたのは、神主の格好をした若者だった。手には鞘に収まった大太刀を携えている。
「私は陰陽師・安倍泰成の末裔の一人、清麻呂と申します。2022年から来ました。あなたがたは?」
「私たちは、2124年からです。私は宇宙自衛隊の二等宙尉・桜庭春花。ここは、どこですか?」
「おそらく、幕末の京都でしょう。殺生石が割れて、時空に歪みが生じたようですな」
清麻呂は落ち着いた口調で言った。この状況で、ずいぶんと余裕のある若者だ。
そこへ健太が、
「と、いうことは、この火災は禁門の変の戦火で起こった『どんどん焼け』の大火」
かなり混乱していた健太だが、自分たちが『タイムスリップ』をしたと、知れば、少しは落ち着きを取り戻したようだ。
健太は実戦初参加で、宇宙からの降下中に事故にあった。タイムスリップをしなければ、今頃は、死んでいたであろう。そう思えば『どんどん焼け』の大火の中でも、健太はホッとした。
そして、冷静さを取り戻した春花は、
「緑川二士は、この時代の事に詳しいの?」
「まあ、幕末の歴史は好きな方ですね」
「それは頼もしい仲間を見つけた」
そう言いながら、笑みを見せる、清麻呂。
だが、さらに穏やかではない状況が、三人の目の前で起こった。敗軍と思われる兵たちが、民家に火を付けながら、敗走しているのだ。
「おい、一般人の家を焼くなよ!」
正義感を見せる健太だったが、
「何奴だ。怪しい格好をしておるな」
「だが女も、いるぞ」
「男は殺して、女を奪おう」
十人くらいの敗残兵が、槍を突き出して、ジリッと、迫ってきた。
咄嗟に健太は、マシンガンの銃口を向ける。
パワードスーツには、左肩にマシンガン(弾薬2000発を背中の弾薬箱に格納)右肩に四連装のミサイルランチャー。左右の腕に二連装のグレネードランチャー(合計四発)を装備していた。
「撃つぞ!」
健太は威嚇したが、
「なんだ、その棒から弾でも出るのか?」
と、敗残兵はバカにする。さらに、一歩、二歩と近づいてきた。
こうなれば、しかたがない。
ババ、バババ、バーンッ。
六発連射。訓練通りの射撃だが、人間を撃ったのは初めてだ。若干の後味の悪さを感じる、健太。
三人の兵が倒れた。残りの連中は、
「連発銃だ。逃げろ」
と、逃走した。倒れた三人は呻いている。
「あがっ」
「うっ、うぅ」
「い、痛い」
まだ死んではいない。ひとまずは『人殺し』は、していないと、健太は安堵した。
「上出来よ」
小隊長らしく春花が声をかける。
「だけど、どこかに隠れる場所はないかしら」
「あそこは、どうですか?」
健太が指差した先には、古い寺があった。
三人が、その寺に入ると、
中には、『姫』と『武者』がいる。
その姿を見た清麻呂は、驚愕の声をあげた。
「あっ、お前は!」
「おのれかっ!」
と、姫が懐刀を抜いて、飛びかかって来る。
パッと身を退いて逃れる清麻呂だが、武者も抜刀して斬りかかって来た。さらに身を退いて、刃をかわす清麻呂。
神器の『天照ノ大太刀』を抜き、応戦の構えをみせる。
「今度は、いったい何なの!」
そう言いながらも、春花は姫に飛びかかり、床に押し倒して、取り押さえた。
「離せ、無礼な!」
「無礼って、いきなり斬りかかって、何なの、あんたは」
「おい、淀様に何をする!」
武者が春花を引き剥がそうとしたので、
「あんたこそ、小隊長に何をするんだ!」
と、健太は武者に体当たりする。
ドカンッ!
パワードスーツの力に吹き飛ぶ武者。壁に叩きつけられた。
「恐ろしき力よの、何者だ」
武者は、健太に刀の切っ先を向ける。
春花と姫は床で転がり、
「無礼者、離せ、馬鹿力の怪しき女が」
「怪しき女は、あんたでしょうが」
揉み合ったが、姫が、パワードスーツの春花を、巴投げで投げた。
「う、うぁっ」
宙に舞う、春花。
「幸村、この場は退け!」
「御意に」
と、姫と武者は寺の外へと飛び出して、走り去った。
「あの二人は何者ですか?」
春花が清麻呂に訊く。
「姫の正体は『九尾の狐』です。武者の方は、おそらく時空の歪みで冥府から転生した亡者。確か、幸村、と呼んでいた『真田幸村』でしょうか」