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第二章 野原ハヤテ 4



    4



ハヤテはひと月で10人と女の子(中には30代もいたが)と性交した。

寝泊まりに使っていた店だったり、それこそ多目的トイレだったり、路上だったり、その場は様々だ。

中高で好きな女の子に話しかけることもできなかった、ほんの少しの前の過去が信じられない程だった。

雄としての自信をつけたこともあり、殴り合いはないものの、掴み合いや襟首を締め上げるくらいのいざこざは日常となっていた。

自宅から戻った時の砂子の友達の女の子のように、仲間内の女の子と肉体関係を持つことも当たり前になり、その荒っぽさと未だウブさが消えないかわいいルックスもあって、他のチームの女の子が寄ってくることもあった。

―女なんてのはヤって、ナンボ。どれも同じさ。

ハヤテはそのように思っていたが、同時に、砂子は自分に堕ちるように命じていることを理解していたので、その通りにしてやろうという気分も多いにあった。

そして堕落していくことは、堕落していく自分という存在を客観視する時に生まれる快感はセックス以上に甘美でもあったのだ。

なおかつ砂子とはあの初体験以来、身体を交わしていない。

それはどんなに堕ちても、砂子とだけは特別だ、といういびつな担保となった。

砂子とはよく酒飲んだり、あがりの良い時はやはりラブホテルの高級な一室でバカ騒ぎをするので、切れたワケではなく、それどころか、砂子にもどこかで同じ気持ちがあったのだ。

―この男は、私と一緒に堕ちてくれる。

そんな気持ちが。


最初期に何度か路上で遊んだことのあるチームのヤツと再会して、ヒマだったから、コンビニエンスストアで缶酎ハイを買って一緒に飲んだ。

「オマエ、あっちに行くとはね」

あっち、とはカズシやリュウ、砂子の集まりである。

「ううん、まぁ、なんとなくな」

ハヤテはカズシから聴いて知っていた。

このチームの連中は特殊詐欺の受け子を専門にやる半グレ予備軍で、良い生活をし、高い家賃の部屋に住む半グレに操られる犯罪者の仲間だということを。

「でもさ、あっちもタイヘンだろうよ」

「?」

「気が向いたら、いつでもいいな。いい仕事、紹介するぜ」


「YO!ハヤテ!オレのをしゃぶってYO!」

店長は眠りまなこのハヤテに云った。

「あ、店長」

「YO!そろそろいいだろう?高い時給、休める店内、それに色んな女の子とヤれる、って全部コレに繋がっていたワケだYO!」

ハヤテは作り笑いを浮かべた。

そういえば、この数週間、自分が「ヤろうぜ!」めいたことを云うと、女の子は決まって作り笑いを浮かべるが、それには男女関係なかったんだな、と妙なことを思っていた。

「砂子やカズシがバイを安心してできるのは、ミーがケツ持ちやっているからだYO!」

その瞬間にハヤテは理解した。

自宅から帰る時に砂子が云ってくれた「あんたさ、一人であの家に戻んなよ。もうあの街に帰る必要ないじゃん」はこの事から逃げるように、と。

「YO!今夜はしゃぶるだけでいい、今夜はしゃぶるだけ!だけだYO!」

つまり、今夜以降は肛門性交が待っているというワケだ。

しかし、砂子やそれ以外の女の子たちもフルだかパートだかは詳しく聞いていないが、売春で生活している。

ここにいるのは卑劣な老人だが、その女の子たちが身体を売っているという屈辱に耐えているのに、タダで抱いた自分はここで逃げるのは卑怯じゃあないのか。

―いや、ヤなものはヤだ!

「ふあけぶんじゃえ」

ハヤテは初めて知ったのだ。

腹に力を入れないと発音はできないものだと。

今は「ふざけんじゃねえ!」と云ったつまりだった。

手だしをしたかったが、ここ約ひと月、タダで宿泊させてもらい、雇用主としてとに信頼関係もでき、なおかつこの仲間内の女子の大勢と肉体関係を結んだ。

この精神的な借金のような、いわゆる呪いで、ハヤテは全身が硬直した。

―同性から性的虐待を受けたカズシたちが男娼になったのは、この老人のこのシステムにハメられたからだ!

「YO!今オマエ、『ふざけんじゃねえ!』と言ったのかYO!それはこっちの台詞だYO!もうかわいい家出少年が3人もウェイター待機してるんだYO!オマエはカズシやリュウと売ってもらうYO!直ぐに慣れるYO!ドウ・ユー・アンダースタン!?」

ハヤテはその時に初めて、家族を思い出した。

両親の笑顔、妹たちの笑顔、温かい食べ物、暖かい寝床、毎朝起床して行く場所がある幸せ、そんなことを思い出して、泣いた。

思えば、父は子どもの頃にはその父、つまり祖父の稼業はよい羽振りだったので、お坊ちゃんだったのに、頭が悪くて進学が思うようにできず、しかもここまで長男である自分がここまでグレて、あの人も災難だなぁ、とハヤテは父の心を想像した、この状況で。

「オマエ、何、泣いてるんだよ。オマエだけ汚れないって、あり得ないだろう!オレも50年前、継父とケンカしてこの街に来て、ヤクザの舎弟として拾われ、組員全員がゲイだったから、ひと晩中マワされたことから、この街の住人として始まったんだ・・・、YO!乱暴な言葉、ソーリーねー!YO!」

と言いながら、店長はハヤテを引きづり、2階に店はあるんだが、階段から彼を突き飛ばした。

直ぐに外へと出る。

「ふざけんじゃねえ!と言ったな。この街がふざけているんだよ!だから、おまえがオレに口奉仕をしても通行人の誰もが咎めない!ここはオレの街だ!オレの街で、アンタ、はしゃぎ過ぎたんだ、YO!」

こうして店長はハヤテにイマラチオを始めたのであった。

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