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第二章 野原ハヤテ 3



    3



TVドラマ、しかも深夜ドラマのような叙述をしたが、つまり、ハヤテは砂子で初体験を済ませたのであった。

周囲に人が大勢いたが、リュウとカズシの方が声が大きいので、あまり気にならなかった。

かなり爛れた初めてのセックスではあったのだが、そのおかげで腕枕して事後、共に眠ることもできた。

チェックアウトした後に、2人だけでマクドナルドでモーニングセットを食べた。

だがその夜会ったカズシから、「砂子は売春で生活している女だ。カノジョになるとかあっちだって考えていない」と聴いた。

逡巡した素振りをハヤテはカズシに見せたのだが、それはまさに素振りであり、つまりフリである。

そんなことくらいハヤテは気づいていた。

昨日のラブホテルのゴージャス部屋も売春で大金が入った娼婦の気まぐれに過ぎない。

「カズシ、働くトコ、紹介してくんねぇ?」

飲酒しながらバカ騒ぎに漫画喫茶で睡眠と時間潰しだけしていたら、あと貯金が減るだけである。

更に、せっかく異性との性交により、新しい世界に一歩踏み出す、アンド、雄としての多幸感にも溢れているのに、カズシからそんな答え合わせをされて、このままで気が滅入ると判断したから、そのように頼んだのだ。

その夜からハヤテは雑居ビルのバーだかクラブでウェイターを始めた。

「YO!キミがカズシのフレンズかい!?よろしく頼むYO!」

店長兼オーナーは優しそうな60代の小男だった。

コンビニエンスストアの件もあったが店長の手ほどきもあり、無事に勤め上げた。

シフトに入り、おまけに開店前は客席で眠っていてもいいと云われた。

女をゲットし、仕事を無事に遂行させたからだろう、自分に自信がついたので、つい、父親からの電話にハヤテは出てしまった。

そして、自分は今、ちゃんと働いていること、恋人ができたことを伝え、だから当分は戻らないと云った。

「じゃあさ、そのカノジョとうちの庭でバーベキューパーティーしようよ!」

父親としてはようやく電話に出てくれた精一杯の譲歩だった。

ここで連絡の糸を絶やさないための、である。

「オレんちで肉を食わない?」

ハヤテは砂子にそう切り出した。

砂子お得意のニヤニヤとした笑みを浮かべられるとハヤテは思っていたのだ。

そういう家族芝居のようなことを憎む子だったから。

だが、砂子は無表情で、しかも視線まで落とした。

「そんな重く考えなくていいんだ。ただ一人で帰るのがイヤでさ」

砂子は視線を回し、回しながら考えていた。

「いいよ、その代わり、この街に帰って来て、帰って来たら、今度は私のお願いを聴いてよ」

ハヤテは二つ返事した。


千葉の家の庭では、いかにもアットホームな宴の準備がされていた。

スーパーで買ったのだろうが高級な肉が置かれ、野菜は欠かさず、ビールや焼酎といったアルコールも数多く準備されていた。

ハヤテは謝罪することはなかったが、自活できるので心配しないようにと両親に、以前のように怒鳴ることもなく、話した。

砂子はというと、ハヤテの両親にも、2人の妹にも、無視することなく、笑顔で、多弁ではないが対応した。

そこで当たり前のようにハヤテは酒を飲み、煙草を喫んだ。

父親もそれに付き合い、飲酒し、喫煙した。

そこにはこの家族で2人の男同士の共犯意識さえ芽生えていた。

宴もたけなわの中、母親は「ハヤちゃんも砂子ちゃんも今夜はもう遅いから泊まっていきなさいよ」とまるで最初からの台詞のように促した。

ハヤテは「今日も砂子んちに泊まるから、いいよ」、それに2人とも仕事あるし、とハヤテはこちらは砂子に前からの、言われるままの回答をした。

両親はハヤテが明るさを取り戻し、少々輩めくようになったが、無理強いは逆効果と2人を送り出した。

「あんたさ、一人であの家に戻んなよ。もうあの街に帰る必要ないじゃん」

そう帰りの最寄り駅のホームで砂子は云った。

ハヤテは手をつないでから、砂子の申し出を拒否した。

砂子は、ハヤテが初めて見る寂しげな表情をした。

その顔をハヤテは美しいとさえ思った。

街に着くと砂子の友達の女の子がいつものたまり場に一人いた。

太めで、産毛が髭のように見える子だ。

「どう、楽しかった?」

その子が、砂子に云うと「最低ー!」とだけ砂子は答えた。

「そう」とだけ云うとその女の子はハヤテの腕を組んできた。

「な」と云い掛けたハヤテに砂子は云う。

「その子と今夜ヤるように。じゃないと二度と会わないし、仲間使ってこの街から追い出す」

そう云い放ち、砂子は街の闇に溶けた。

ハヤテはこれが復讐だとようやく気づいた。

そして産毛が髭の女の子はハヤテの舌に自分の舌を絡ませてきた。

「ハヤテくん、安心して、砂子からステイ分の宿泊代、もう貰ってるから」

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