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第二章 野原ハヤテ 1



    1



さして怒りも哀しみもなかったのだが、気づけば旧新宿コマ劇場跡地にいた。

そこに移動してきたのは野原ハヤテ、17歳。

前兆はあったのだ。

高校にはいかなくなっていた。

そもそも行きたい高校ではなく、三つあった滑り止めで受けた高校のいちばん行きたくない高校であった。

それでも趣味やスポーツに打ち込んだり、それらが縁で友達や仲間ができたら違ったのだろうが、そういうものとは無縁であった。

ハヤテも人並みに子どもの頃は、特撮やアニメの番組に熱中し、小学校に上がると野球やサッカーに夢中になった。

でもそれは家族や周囲の同世代の子どもが見たり、したりしていたから、そうしたからであって、ある日ふとそうした自分に気づくと関心を亡くした。

ただ、それを露骨に表すと不審がられるので、段々と距離を置くくらいにはハヤテは子ども特有の大人な気配りはできた。

両親も揃っていて、下に妹が2人いる長男だったからか、そのような気遣いはできた子どもだったのだ。

小学校・中学校はそのような周囲のノリとそれへの対応で生きてきたのだが、いわゆる自我に目覚めるという時期が訪れる。

それがハヤテの場合は少し遅かったのかもしれない。

そのことで助長されたのかは判らない。

それは特に何かきっかけがあったワケではない。

いうなれば、周囲のクラスメイトからのいじめや教師の体罰といったもの。

いや、むしろハヤテはそういったことの被害者にも加害者にもならず、傍観者として過ごしてきたタイプであった。

でもそれは恒常的に周囲にさして興味がないことに起因していた。

強いて挙げれば、自分以外に関心がないので、それに気づくだけでよかった。

何に? 行きたくない場所には行かなくてよいことを。

最初は仮病で、それが何日か続くと、さすがに、まずは母親が「仮病で学校に電話する身になってくれ!」とキレた。

ハヤテは「仮病ではない!」と逆ギレした。

だが母親、それに父親も共に働く、就業者だったので、朝の諍いを振り切って親二人は出勤してしまった。

するとハヤテは家に1人だけで残る。

対人関係に難があったワケではないので、近所をフラついて、ゲームセンターや大きい新古書店に出入りしていた。

ハヤテだって、孤独を持て余している。

そして似たような少年たちと話しかけられた。

中には気が合うといっていい数人の同世代はいたのだが、今まで気遣いしてきた自分が疲れたことに、気づいたハヤテは少しでもストレスに思うと話の途中でも店を出た。

そして学校どころか、この町も嫌いなことにも気づいたのであった。

更に、父親と母親に詰め寄られると、この家族も嫌いなことに気づいた。

ハヤテがいる町は都心に出るには90分はかかる千葉の町である。

家に居ずらいので、アルバイトを始めようとコンビニエンスストアやドラッグストアの店員の面接を受けたが、朝からのシフトを希望しても、その話し合いでは高校に行くように諭された。

それではと夕方からのシフトで以前に面接したコンビニエンスストアとは別の店で働き始めたのだが、初めてのバイトだからか、いや、根本的に働くことを舐めていたからか、ハヤテは直ぐに辞めた。

教えるバイトリーダーは確かに声を荒げる欠点はあったものの、教えてくれる立場の相手を睨みつけたのであり、それが何度も重なり、声を荒げるどころから怒鳴った時にハヤテはそのまま店を後にした。

そのまま家に帰るのではなく、児童公園で就業時間まで時間を潰した帰宅すると両親の元にはコンビニエンスストアの店長から電話はいっていたせいで、ハヤテは父・母揃って詰め寄られた。

自室に逃げ込み、次の算段を考える。

県庁所在地にある大きな駅の街に行くことを考えてが、そこもこの町と似たようなものと悟り、ネットで話題になった繫華街に行こうと思いついた。

無趣味なハヤテには、お年玉等で貯金が約20万円程あったのだ。

真夏であったから、寝苦しく、その上、日中はヒマに任せて昼寝三昧であったからハヤテは眠れなかった。

そこで、支度をし、一時間くらいかけて、急行が止まらない最寄り駅ではなく、大きめな駅に歩いていった。

そこで小一時間待つと始発が走り出し、六時頃にはハヤテは、この街についた。

そんな早朝でも、酔客の胴間声や自分の同世代の若者の奇声が聴こえる。

開放感、そんなものをハヤテは感じた。

最近喫煙の習慣を身に着けたハヤテはショートホープを一本抜き出し、吸い始めた。

朝だからか、ハヤテの座った隣にはゴミ袋が置かれていて、そのパンパンに膨れた袋の底の端には、生ゴミから出た液体が入り混じって気色の悪い汁が溜まっていた。

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