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第一章 賀籐兄妹 4



    4



「オレは知らね~ぞぁ~~~~~~~~~~~~~~~!」

「こ、このメスガキが勝手に転んで、あのオスガキが好き好んで電車に飛び込んだぁぁぁ~~~!」

酔漢の大学生2人はそう云い残すと全力で、階段を駆け下り、アルタ前に出て、タクシーを拾い、中野坂上で降りた時に現金で清算した。

電車はあと8メートルで到着ポイントという時に空中にいた音矢を跳ねた。

8メートルとはいえ、その質量、そうとうなダメージを音矢は受けた。

そして、墜落。

電車と激突すると認識した寸前、音矢の心の中で絶叫した。

その声を聴いて〈それ〉はやってきたのだ。

〈それ〉はその声を聴きつけると瞬時に現れる。

絶叫するということは未だ生存しているということで、その絶叫がなければ現れない。

〈それ〉は今回、真っ白な端末のような姿で現れた。

―ああ、ぼくが子どもの時にバカみたいによくやっていたゲーム機だ。

ゲーム機めいているからディスプレイが中央に位置している。

ディスプレイは電源が入ったが如く、一本の線が横に流れるところを打ち出し、その線が跳ねて、波を表す。

起動音めいたものを音矢は聴いたような気がした。

ディスプレイの線が消えると大きな閉じた〈目〉が表れた。

その〈目〉と音矢の目が交差した。

それは数か月後に鮎川洋二が出会う〈プロビデンス〉と同種のもの。

この残酷な一幕を人々は凝視する反面、誰も見ていなかったと云える。

その証拠に呆然として、誰もスマートフォンで撮影を始めなかった。

だが、鮎川洋二が名付けた〈プロビデンス〉という存在はあらゆる撮影から逃れるコーティングが施されているので、意味はないのだが。

ともかく賀籐音矢は〈プロビデンス〉の保護下に組み込まれた。

かつて賀籐音矢であったものを内包した〈それ〉は線路に落ち、線路の脇に落ちた。

ここは二階にあるホーム。

下は車道であった。

脳内の音矢は未だ、激しい脳震盪のため、意識が混濁して、機能していない。

そんな時のために複製生体や義体とか鮎川洋二が呼んでいたものには、実は、防衛プログラムめいたものが入っており、彼は夢遊病者のように活動していた。

線路の脇から線路と橋の中間スペースに移動し、車道の真上で車両を物色した。

手頃なトラックを見つけた時に自由落下。

複製生体内では神経接続や音矢の脳内データ、つまり記憶の洗い直し等が急ピッチで行われていて、最低限の作業が終わったとプログラムが判断した時には、音矢は浜松にいた。


10:30。

区役所通りの入口で待つ弓へ父親からの電話が入った。

それは兄・音矢が事故に遭ったというものだ。

―ああ、だから、30分も遅刻したんだ。

受け入れることができない弓はそんなことしか考えなかった。

弓がこの場所にいるということは彼女じしんも凄く後ろめたいことであった。

だからとっさに父親にはなぜか「渋谷にいる」とウソをついた。

―たった数駅、それが何になるかというのだ。

両親はさすがに顔を合わせ、弓も2人と行動を共にした。

警官や駅員と様々に話し合っていたが、弓には何も聞こえなかった。

これは当日得た情報以上のものもあるが、説明すると、衆人環視の中で起きた事故だというのに、音矢の死体は発見されなかった。

ショルダーバッグが発見され、中の私物から素性が割れた。

音矢が跳ねて落ちた地点からは十数メートル這いずった跡があり、それが途切れたのは落下したからと思われた。

定点カメラがある場所ではないので、車道でどこかの車輌に乗ったとして、この日、このガード下を通った自動車を捜索したり、呼びかけたが何にも繋がらなかった。

大海や山中での死ではないので、いくら車輌に落下して運ばれた可能性が高いとはいえ、この死体消失は異常な出来事には変わりなかった。

音矢を跳ねた電車の先頭部の凹みから、音矢が即死あるいは重症だと知れた。

一週間後、その根拠を基に近しいものだけ数人の告別式が営まれた。

弓は学校を休んでいた。

ひと言も話そうとしなかった。

だから、この告別式には了解していたものだと思っていた。

しかし、そんな了解なんて親の早合点だと気付かされた。

告別式は賀籐氏の自宅で執り行われた。

出席者は近い親戚と音矢の学校の校長と担任だけだから、十人。

「偽善者夫婦の分際で、偉そうだなぁ!」

久しぶりに声を出した上に大声であるから、このひと言で弓はかなり喉を傷めたハズだが、その後は、なぜに自分の両親が偽善者であるかを滔々と語り尽くした。

声がかすれてくると泣き声に変わり、参列者はそれが合図であるように、帰宅していった。

父親は又席を外した。

だが母親は弓を抱きしめて「ごめんなさい」とだけ繰り返した。

時折り「私の意地っ張りのせいで」とか「音矢と弓をないがしろにした」と混じる。

弓は母親を許す気持ちになっていたが、こうも思っていた。

―私は兄と恋人をいっぺんに亡くしたんだ! おまえみたいな凡庸な女に私の気持ちが判ってたまるか!

2人は世田谷の住まいに帰って行った。

その間、母はずっと弓の手を握っていた。

そして寝しなに弓のLINEに一報。

『弓子、兄ちゃんは生きている』

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