20話 当たり前っつうのは実は時代が変われば変わっちまうわけで人生の先輩っつうのも難儀なもんだってしみじみしみるぜ
久々なので優しい目でお読み下さい
フロアー内は嗚咽と怒号がそこかしこから溢れる酷いものであった…
人間の醜悪や虚飾が詰め込まれそれを特権と勘違いしていた奴等の夢の時間の崩壊…
俺はそんな空間の中に立っていても同情の一つも感じる事もなくただ風魔親子の結末を見つめていた。
「おい、ミカよどうやら服部親子の方もケリは付いたようじゃぞ」
虎じぃのその一言で俺は最後のケジメを付けるために大きく息を吐き出し気合いを入れた。
「あぁ、サンキュー」
「それと、滴は、他の奴等に連絡して撤収しておけ」
「後処理はコワーイ警察さんがしてくれるしな」
「わかりました!ビシッと落とし前付けてきて下さいね 笑」
「おぅよ!じゃぁ任せたぜ滴」
「任されましたミカ先輩」
滴は笑顔を残し部屋を後にした…
「じゃあ、頼もしい後輩にもケツ蹴られちまった事だし、こりゃあますます半端できねぇわな。ちょっくらビシッと落とし前つけてくるわ」
「お前さんは呆れるのぉ 笑 ちょっと近くまで買い物行くみたいな感じで落とし前つけてくるとか 笑 お前さんらしいっちゃらしいし行って来い」
「虎ジィ、オヤジ行って来るわ」
三日月は二人に背を向けながら振り向かず手をヒラヒラさせながら、元カノである服部百華の元へ歩を進めて行った…
服部親子の姿が近づくにつれオジサンとオバサンの表情がはっきりと目に映る。
オジサンは、憤怒と絶望そして軽蔑を含んだ表情…
オバサンは、床に泣き崩れながらも、その表情の中に同性であるからこその嫌悪が色濃く浮かび、その目は汚物を見るような冷たい目をしていた…
当事者の百華は、そんな二人を前に必死に取り繕い自分は悪くないと失望と絶望に打ちのめされている両親の姿にも気づかずに必死に言い訳を叫いている…
俺はそんな百華の姿を見ても全く心が締め付けられる様な感覚を覚えない自分に、あぁ本当に俺の中の百華は死んだんだと改めて気持ちを悟った…
カツンカツンと近づく足音に気づき振り向く三人に俺は
「困ってるみたいですね?」
と一言だけの言葉を投げた…
「三日月くん…この度は本当に本当にすまなかった…ご両親から聞いたと思うが、私は最低だった…最後までみっともなく現実を受け入れられずあげく娘を許してくれなどと恥知らずな事を叫いてしまい結果、ご両親からの信頼をさらに失い、今日と言う日すら教えて貰えない醜態だ…配信を見て急いで辿り着く始末…情けない大人だよ私は…そんな私の言葉を信じて貰えるかわからないが話をさせてくれ…君達は未成年だ、結婚した夫婦のように、娘に法的な責任を取らせ罰する事ができない…その事が、私も妻も悔しくてたまらない…君のお父さんにもせめて慰謝料だけでも受け取って欲しいと頼んだが断られてしまった…これは多分私たち夫婦が育て方を間違ってしまったと言う罪悪感からただ少しでも軽くなりたいと言う身勝手なエゴだと自覚した上での行動でしかないのも分かっている……本当に人として情けないし最低な人間だ…私たちは…信じて貰えなくて当然だが、私たち夫婦は君に対して誠心誠意償い謝罪したいのも本心の一つなんだ…娘は許さなくて構わない…これはご両親から条件を出されたからとは関係なく、あの日から真剣に悩み出した答えだから…後は見ての通りさ、娘と話をして娘と共に罪を背負って行くのかを決めたかったんだが答えはすぐに出てしまったよ…」
オジサンは、そう苦しそうに俺に言葉を紡ぎ、血がしたたり落ちる程強く拳を握りしめながら俯いてしまった
「オジサン、オバサン、二人は自分たちをそんなに責めないで下さい。親は子供がまっすぐに育っていける様に、キレイ事。いわゆる道徳にある当たり前すぎる最低限の事を子供に教えながら、親自身も一緒に、キレイ事を嘘にしない様に自ら必死にお手本となりながら、子供の成長を見守り促し続けるのっつうのは並大抵の難しさだっっつうのも少しは分かっているつもりっすから。」
「結局は、コイツが選んだんっすから全てオジサン達に責任があるっつうわけじゃぁ無いと思いますよ」
「俺から一つだけ言わせてもらう事があるとするなら、自分の娘を信じ味方になってやるのは良いんですがねぇ、度を超し過ぎちまうのは頂けねぇんじゃあないんすかね。」
」事情は知らなかったにせよ、俺とまだ付き合っていたと思っていたにせよ、コイツの素行が悪くなって来たと不安を感じたなら話すべきじゃあなかったのかと思うんっすよね…」
「挨拶の時に俺に釘をさしたから俺がなんとかすべきって思ったんすか?だったらもし俺が原因だったらどうしたんすか?俺はあくまで彼氏であってコイツの親じゃあないんすよ…親がすべき事を俺に求めるのはお門違いなんすよ…だって俺自身もまだまだ未熟な半端者なんすから」
「俺らは、大人とも言えずガキとも言えない半端モンな時期なんすよ。オジサン達にもそんな時代あったんじゃあないんすか?」
「子供扱いされると嫌で背伸びして大人ぶる。その癖都合が悪くなったり甘える時だけはガキになり使い分ける」
「大人もガキと同じで、ある時は、まだ子供なんだからと言い縛り押さえつけ、都合が悪くなればもう大人なんだからと叱る…そんなんじゃあいくら子供を信じていたって当の本人には何も伝わらないし響かないっすよ。そんな年頃の俺に親の代わりしろっつうのは違うと思うんっすよね」
「俺もお二人の信頼に応えようと二人で話し合いながら頑張る努力もしてはいたっすけど、経験がまだまだ足りないっすから、何か選択や考え方を間違っっちまったのかも知れないっすし、まだ何が正解かなんて何がベターなんかなんて分かんないんっすよ」
「オジサン達から見りゃあ自分たちのガキの頃より、今の子供は大人に見えてるんでしょうがそれは違うっすよ」
「今のガキはただネットっつうお手軽に色んな知識を知れるモンが小さい頃からあるだけで、それは経験から得た知識じゃあなくお手軽に手に入れた偽モンなんすよ。所謂頭デッカチで屁理屈だけは一人前のお手軽知識で大人に負けない知識を振りかざすだけの大人になったつもりの勘違いなガキなんすよ。たちの悪いのが勘違いしたまま社会や大人を分かったつもりで冷めた目で見下し大人の社会を馬鹿にしてる癖に、その馬鹿にしている大人の悪い価値観をこの小さく閉鎖された学校なんて言う社会に持ち込んでやれ勝ち組だ!やれ負け組だ!陽キャだ陰キャだと騒ぎ立てカーストだのくだらねぇ事してるんすから。未熟でしかないとしか思えないっすよね?馬鹿にしている社会の真似して愉悦を求めてるんすから」
「オジサン達は、社会で揉まれて来てるから分かるッス米?社会に出ればどんな仕事も勝ち負けなんてなくて生活すんのに関わる仕事だって分かってるんすよね?…ホワイトだのブルーだの、勝ち負けだのは愉悦に浸りたい承認欲求の強い人間であったり、そうした人間と自分を比べ自らを否定して諦めてそうした一握りの承認欲求の強い人間を僻んでさらに自らを貶めその考えを八つ当たりでバラ巻く一握り程度で社会の大半はそうじゃないっつうのが現実なんすもんね?」
「本当の所は未熟なんで想像を交えて言わせてもらったっすけど、一生懸命働いてる両親を見ていたらそんな事を考える余裕ないって思うんすよ。人間だから嫌なこと考えたり人を羨んだりする事もあるんでしょうがね。こんな事を小さな社会でしながら大人に養って貰ってるのが大人なんすかね?」
「すんません未熟な俺が言いすぎました。とにかく大人だって間違いますよだから俺は、オジサン達の正直なその言葉を謝罪として受け取りますから。後は、コイツの責任ですから」
俺はそう言いながら百華に視線を送った
百華は、救いを求める様に両親を見るがそれを両親は拒絶…
皿に俺にまで縋る様な視線を送って来るが俺はそれを無視をしてオジサン達に最後の言葉を投げた…
「ここからは俺に任せて下さい…ただ、半端な事言うつもりはないんで酷いことも絶望するような厳しい現実もつきつけボロボロに傷つけてしまうと思います。それだけはご理解下さい」
その俺の言葉にオジサン達は黙って頷き泣き崩れるオバサンに肩を貸し支えながら二人は静かにこの場を後にして行った…
その二人の背中は俺達と同じ年代を駆け抜け色々な経験をし掴んだ幸せな家族を支えた二人の偉大な大きな背中ではなく、今にも折れそうな枯れ枝の様な切ない背中に俺の目には映った…
「おい!百華、落とし前つけさせて貰います!テメェのしでかした事なんだから覚悟はできてるよな?」