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9話 交戦

「だからどうすんだっての」

「こうする!」


エリオットは岩陰から飛び出した。

そこへ、狙いすましたかのように魔法攻撃だ!


「バカか!」


アニタは天を仰いだ。

しかし、炎の槍は走るエリオットの目前で立ち消える。

――いや、突き出した左手の前で霧散したのだ!


「魔法無効化!? なんだよその腕は!

アニタが驚きの声を上げ、それをかき消すほどの咆哮をエリオットが上げる。


「おああああああああッ!」


エリオットは魔法攻撃を蹴散らしながら距離を詰める。

組合兵の雰囲気が変わった。

魔法攻撃が通用しないからではない。

視線はエリオットの左腕に向けられ――


「ぐっ!」


組合兵の身体が裂け、血飛沫が高く上がる。

左腕の鉤爪めいた指の軌跡に沿って赤い血が尾を曳く。

目を充血させたエリオットが別の組合兵へと突貫する。


「貴様、それは――」


エリオットは吐血しながらもう1人の組合兵の首を刎ねた。

残る組合兵が剣を抜いて斬りかかる。

エリオットは左手で剣を受け流し、返す一撃は貫手。

鎧を容易くぶち抜き、組合兵の背中から漆黒の手が生えた。


「容赦ねえな……」


問答無用で組合兵を人間松明にしたアニタが、若干引いた様に言う。

組合兵の身体からエリオットは手を抜いた。そして彼女に笑いかけ、


「ごぶっ!」


血の塊を吐いた。

アニタは苦笑混じりに肩を竦めた。


「あーあ。まだ完治してないのに無理するから。そのうち衰弱して、モンスターに乗っ取られるぞ」

「その時は――」

「アタシが一思いにやれと?」


エリオットは袖で口元を拭って、言う。


「スコットさん。助けてくれ」

「おい」





「やっぱりおかしいですね……」


組合兵たちの死体を見下ろしながら、ぽつりとスコットが呟く。

アニタは死体漁りに一生懸命で聞いちゃいない。


「何がおかしいんです? スコットさん」


代わりにエリオットがその呟きを拾う。

もっとも、エリオットも自分の装備が落ちていないか、周囲を確認している。

今のところ無限格納庫も何も残っていない。


「組合兵とはいえ、正当な理由もなくいきなり冒険者に攻撃するなんて。出るところに出ればよくて牢獄、普通は斬首ですよ」


アニタは中身を抜きとった財布を投げ捨てると、


「知らねーよ! アホどものことなんて! 大方、アタシら全員殺して深淵にでも叩き落とせばバレないとでも思ってんじゃねえの」


エリオットの心臓がどきりと跳ねた。

丸腰の『栄光の道』の死体が脳裏を過ったからだ。


「理由がないです。この人たち、特に目ぼしいお宝も持ってません。僕たちを攻撃する理由がありません」

「たしかにそうっすね。もしくは俺たちが襲い掛かって来ると早合点したとか? 俺たちってそんな無法者に見えるんですかね?」


スコットとアニタは無言でエリオットを見る。

正確には左腕を見る。


「な、なんすか?」

「いや、そんな物騒な左腕をしていてよくそんなことが言えるなぁと」とスコット。

「結構ひどいこと言いますね……」

「事実を言ったまでだよ。でも、たしかに明らかに違法改造してるような人がやってきたら、警戒するのもわけないか」

「岩陰に隠れてたんで、俺の姿は見えなかったと思うんですけど……」


エリオットは納得がいかず、やや憮然とした面持ちだ。

だが、スコットもアニタも、違法改造腕の無法者説を信じ切ってしまったようだ。

一緒にいるのはまだ短い時間でも、罵るような2人ではないことエリオットは理解している。

だからこそ「キミは気にしなくていいよ」と言外に告げる、スコットの優しげな視線が余計に刺さる。

こういう場合は自分の意思を貫くほうが間違っている。

エリオットは申し訳なさそうに後ろ頭を掻いた。


ただ――攻撃を仕掛けてきた理由はわからない。

しかし、組合兵たちがエリオットの左腕を認知していたのは明白だ。

接近戦を仕掛けた時、明らかに組合兵の視線は左腕に向けられていた。

《魂喰らい》のことを知っている証拠だ。


「そうか……狙いはロストした《魂喰らい》か」


エリオットは小声で独り言ちた。

組合兵たちは魔力の痕跡を辿って、《魂喰らい》の痕跡を探そうとしていたに違いない。

つまり一緒にパーティーを組んでいた組合員たちは、『栄光の道』を何らかで返り討ちにして、単独で最も深き迷宮(ダンジョン)を脱出。

そして報告の後、商業組合は増援部隊を投入してきた。

そう考えるほうが腑に落ちる。


「しかも第6階層に侵入できるような、強力な魔法使い部隊だぞ。連中、よほどお前のことが欲しいらしいな」


エリオットは険しい視線を左腕に向ける。

自分が生き残るためには仕方がないことだった。

だがその結果、もっと恐ろしい事に足を踏みいれてしまったのでは?

エリオットの頭の中で、そんな疑念がぐるぐると渦巻く。


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