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7話 放火魔

最も深き迷宮(ダンジョン)第6階層――中層部。

エリオットが落下した深淵の獣がいた場所まで、あと一息といったところ。


爆音が響いた。

瞳孔を開けたアニタが、右腕を突き出した。


「おらぁ! 死ね死ね死ね死ねッ!」


魔法陣が展開し、火炎球(ファイアーボール)が次々と放たれる。

生体融合により改造された右腕で、彼女は火炎球(ファイアーボール)に限っては呪文詠唱を必要としない。

論理詠唱により放たれる火炎球(ファイアーボール)は、次々と魔神の群れを焼く。

古き者とも呼ばれる、膜状の翼を有する樽めいた姿をした、アニタに言わせれば「クソッたれども」だ。


『AGGGHHHH!』


炎に包まれ悶える魔神たち。


「燃えろ燃えろ! 消し炭になっちまえ! はっはっはっ!」


アニタは一切手を緩めようとしない。

高笑いを上げながら、むしろ逃げようとする魔神を狙って火炎球(ファイアーボール)をぶっ放す。


「手前のほうも狙って欲しいんですけどね」


決死の様相で突っ込んできた魔神に槍を突きたてながら、スコットはやんわりと苦言を呈する。

彼の槍は、槍といっても幅広で波打った(ウェーブした)刃である。

刺突すれば一撃で殺し、斬れば傷口は大きく裂ける。

優男には似つかわしくない極悪武器だ。


「ファックオフ!」


残念ながらトリガーハッピー気味のアニタに、スコットの声は届いていないようだ。

鬱憤を晴らすかの如く火炎球(ファイアーボール)をばら撒く。


「んー! アタシは今、生きてるッ!」


そんな中、エリオットは呆然としていた。

あまりにも苛烈で無茶苦茶な戦い方に圧倒されていた。

とゆーか引いていた。


しかし、だ!


弾幕を掻い潜り、魔神が1匹突っ込んでくるのが見えた。

爆炎と炎のフラッシュで、アニタは気付いていない。

気づいたところでとっさに迎撃は難しいだろう。


「チッ!」


エリオットは地面を蹴る。

再び身体を走る電流めいた衝撃。

アニタのそばを駆け抜け、魔神のすぐ前へと立ち塞がる。


『GR!』

「さっさと逃げたほうがお前らのためだぞ」


エリオットは左腕を一閃。

魔神の球根めいた頭が高く飛んだ。


「やるじゃん」


アニタの三白眼が好意的に輝いていた。

エリオットは何と返そうか少し迷った末に、

「どうも」とだけ言った。


ほどなくして魔神の群れは壊滅した。

『栄光の道』のようなAランク冒険者パーティーでも、群れ相手は苦戦するというのに。


「かーッ! 張り合いのない! せめてもっと魔法を撃たせてくんない?」


消し炭となった魔神の群れを見ながら、アニタは地団太を踏む。

周囲の岩や岩壁は着弾した火炎球(ファイアーボール)により、煙を上げるほど赤熱している。

地獄が広がっていた。


『あの魔法使いは狂戦士か何かかや? 可愛い顔して、やってることはえげつないんじゃが』


虚空に水を打ったような波紋が広がり、タマが呆れた顔をしながら現れた。

即席のパーティーを組んで以来、気を利かせてか彼女はずっと姿を消していた。

とうとう耐えられなくなって出てきたのだろう。


「狂戦士というよりは、放火魔か魔法攻撃狂だな」


呆気に取られているのはエリオットも同じである。

猛者という単語がしっくりくる。

アニタは右手をスライドさせると、ルーン文字がびっしりと書かれたカートリッジを引き抜いた。

炎系の魔法に使われる触媒が入ったものだ。

さすがに撃ち過ぎたのか、新たなカートリッジに交換する。


「あん? 何見てんだよ」

「別に」


――あまり関わり合いにならないほうがよさそうだ。


エリオットは心の中でつぶやいた。


「よーし。モンスターの群れも駆除したことだし、上に向かうぞ」


返り血を拭きながら、スコットは呑気に言う。

今なら、2人から離れて用を足そうとした僧侶の気持ちが、エリオットにも少しだけわかる気がした。





最も深き迷宮(ダンジョン)第6階層――深淵の獣の御前。


超自然的な橋が幾本も深淵の上に架かり、高所恐怖症にとっては地獄のような場所。

そして、エリオットが『栄光の道』に裏切られた場所だ。

エリオットは立ち止まり、じっと見つめる。

今いるところからでは暗くてよく見えないが、真っすぐ道なりに行けば上階層へと、しかし左手に架けられた橋を進めばあの場所(、、、、)に続いている。


「おーい、どうしたぁエリオット。顔が強張ってんぞ」


アニタが肩を小突いてきた。


「いや、なんでもない」


嘘である。

そして、容易く見透かされた。

後ろ頭で手を組んで、アニタは横目でエリオットを見る。


「辛気臭ぇなぁ。言っとくけど、アタシらまだ第6階層を抜けてすらないんだぞ。あと1~5階層もあるんだぞ」

「上の方がモンスターも弱いし、むしろ気が楽だけどな」

「けが人が何を言ってんだか」


エリオットは笑って誤魔化した。

同時に悩む。

自分の装備を回収したい――と。


「ちょっとここで待っていてくれるか?」


気が付いたらそんなことを口走っていた。

アニタが目をぱちくりさせる。


「は?」


アニタの返事も待たずに、エリオットは駆けだした。


「おいおい! そっちは深淵の獣の御前だっての!」

「大丈夫。あいつはもう死んでるから」

「そういうことじゃねーッ!」


どんどん暗闇に飲み込まれていくエリオットの背中。

アニタはため息をつくと、スコットを見上げる。


「なースコット。あのアホ、どうするー?」


スコットは困ったように眉根を寄せた。


「どうすると言われましても……」

「もう放っていてよくね?」

「いえ。僕の寝覚めが悪くなってしまいます。だから、寄り道しましょう」

「しゃーねーなぁ」


スコットとアニタも、少し遅れてエリオットの後を追う。

主なき御前へと向かって。


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