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6話 即席パーティー結成

「おーい。生きてるかー?」


突然女の声が降ってきた。

どうやらいつの間にか力尽きて眠ってしまっていたようだ。

最も深き迷宮(ダンジョン)で居眠りしてしまうなど、不用心にもほどがある。

エリオットは内心反省するも、まどろみが未だ脳内に滞留する。

思い瞼を開けるべきか、それともこのままもう少し眠るべきか。


「あー。ダメだコイツ。死んでるかも」

「どうします?」

「あん? 燃やすに決まってんだろ! やっぱモンスターを爆発四散させるより、人を燃やすのが一番――」

「いや、あんたら何ヤベーこと言ってんだ」


さすがに燃やされるのは勘弁願いたい。

エリオットは鉄の意思で瞼をこじ開けた。

目の前には2人の男女が立っていた。


1人は長身の男だ。

チェインメイルを着こみ、槍を持っている。

エリオットと同様に少し線が細い印象を受ける、いかにも優男といった様相だ。


もう1人は小柄な女だ。

金色の髪が肩まで伸びているが、頭のてっぺんは赤みがかっている。

三白眼と首元のチョーカーが、エリオットの視線を惹く。

あと、すでに展開済みの魔法陣が眩しい。


「いや、あんたら何ヤベーことしようとしてんだ」

「いやだって死体あったらショゴス寄ってくんじゃん。燃やしたほうが世のため人のため、みたいな?」


女がいけしゃあしゃあと言い放つ。

未だ論理詠唱による魔法陣を消そうとしない。


「だから死体じゃねえ。まだ生きてる」

「死にかけにしか見えないし。いっそのこと楽にしようか? 有り金置いてくれたら火葬してあげんぞ」

「おい、だれかコイツの口を塞げ!」


相方の男が、今まさにヤベーことをしようとしていた女の肩を叩く。


「アニタ、それくらいにしておいてください」


どうやらアニタという女よりも、優男の方が話が分かるようだ。


「冗談だって、冗談。もう、すぐ本気にする」


アニタはようやく魔法陣を消した。しかし、名残惜しそうにしつつ。

一方で、男はにこやかなスマイルを浮かべて、エリオットに向けて自己紹介をした。


「僕はスコット。こっちはアニタ。キミと同じ冒険者さ。同業者のよしみで話しかけたけど、とにかくまだ息があってよかったよ」


エリオットは苦笑する。


「なんとか生きてるってのが正解かな」


実際死にかけていたことを思い出して。


「俺はエリオット。雇われのソロのシーフなんだけど、色々あって1人になってる」


パーティーメンバーの裏切りにあって殺されかけました、とは言わない。

アニタが訝しそうにエリオットを見る。

正確にはエリオットの左腕を見ている。


「はぁぁぁ? その左腕でシーフだぁ? どう見ても違法改造の戦闘用腕じゃん」


――まあ、そりゃそうだよな。


エリオットは反論しない。

鍵開けや罠解除をするのがシーフの仕事だ。

そして、この腕はどう見ても鍵をぶっ壊して、罠もぶっ壊す脳筋にしか見えない。

誰だってそう思う。


「ははっ。色々あってね」


結局、エリオットは笑って誤魔化すことにした。

とにかく話を変えることが先決だろう。


「ちなみにだけど、あんたら回復魔法か回復ポーションか持ってないか?」


エリオットはありとあらゆる神に祈りながら訊いた。

が、アニタは視線を反らし、頬をぽりぽりと掻く。


「あーごめん。もう切らしてる。アタシらも6階層からの脱出組で」


聞くや否や、顔にはなるべく出さないようにしたが、エリオットの落ち込みようはすさまじかった。

半生半死の状態での脱出はまだ続くらしい。


「僕たちも使い切っててね。もともとは僧侶を含めた3人パーティーだったから、あんまり用意してなかったんだよ」


スコットが申し訳なさそうに言う。

アニタが舌打ちをした。


「あのアホ僧侶が悪いんだよ。しょんべんしてる最中に魔犬(ガルム)に噛まれてやんの。ウケる」


――ウケないぞ。


ちょっと引いてしまったエリオットであった。


「で、あんたどうすんの?」

「え?」


アニタの視線を正面から受けて、エリオットの声が若干上ずった。


「どうするのって訊いてんの。見た感じ、ボロボロだし、装備もないし、訳ありそうだし。放っておいたら死にそうだし」


エリオットは話が見えないのか、呆けた顔でアニタのことを見返す。

助け船を出したのはスコットだ。


「要するに、僕たちと一緒に来ないかい? 2人より3人の方が、僕らも生き残る確率は高まるし」

「え、いいのか」

「もちろん。回復ポーションはないけど、ご飯ならあるよ」


ご飯という単語に忘れていた食欲が、腹の音となって思い出させる。

ぎゅるるる……という音に、アニタが吹き出した。


「あ、えっと、その……」


エリオットの脳裏を過るのはトルーマンたち『栄光の道』の死体。

また裏切られるのではないかという恐怖。


『その時は余に任しんす』


いつの間にか、タマが宙に浮いていた。

目を細め、小刻みに肩を震わせている。

身体を渡せば何とかしてやると続けるつもりなのだろう。


――そうはいかない。


左手を小突いてやる。


「あんたら……人のことを焼こうとした割には、親切だな」

「あん? お前は一言多いね」とアニタ。


エリオットは立ち上がると、ズボンに着いた土を払った。

小さな幸運を噛み締めながら。

第6階層脱出組による、即席のパーティーが出来上がった。


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