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45話 反撃の代償

カランコロン。


深夜、魔法光看板の明かりが落ちた頃、クリニック『CHEEP』のドアベルが鳴った。

顔に本を置き、デスクでうたた寝をしていたドクが、のそりと起き上がる。

居眠りを邪魔されたことで、少々機嫌が悪いらしく、もじゃもじゃ頭が逆立っているかのよう。

文句の1つでも言ってやろうとドクは入口の方を見て、


「おいおい。今日はもう店仕舞いなんだけど……うわっ!」


心臓が止まるかと思った。


ドクは来客を、血まみれのエリオットを見て驚きの声を上げた。

「おま! おまえ! なんだこれどうなってる!?」


エリオットは血を滴らせながらふらふらと入ってきた。


「ああ……ちょっと、やらかしてな」


そして力無く笑う。

ドクはしばしあんぐりと大きく口を開けたまま硬直していた。

だが、融合医とはいえドクも魔法医のはしくれだ。

すぐさまエリオットの傷を確認すると、清潔な布を引き出しから大量に引っ張り出した。

傷に押し当てるよう指示を飛ばし、


「と、とにかくここ! ここに座ってろ!」


言われるがままエリオットは診療台に倒れ込むように座った。


「医療用でポーションがある! ちょっと待ってろ、効き目の強い奴を取って来る!」


ドクはバリスタの弾丸めいた勢いでクリニックの奥へと消えた。

扉を開けたり物をひっくり返したりする音が時折聞こえてくる。


エリオットは深々と息を吐いた。

ドクが渡した布は見る見るうちに赤く染まっていく。

いつの間にか、タマがエリオットの前に立っていた。

ギラギラと怒気を孕んだ目がエリオットを射抜く。


『助けに行くつもりかや?』

「ああ」

『ぬしでは勝てぬ。死ぬぞ』

「だろうな」


アニマルヘッズ1人に手も足も出ず、このざまだ。

クロムウェル商業組合の本拠地に行けば、それが束になって襲い掛かって来る。

返り討ちにあうのは火を見るよりも明らかだ。


「なぁ、タマ。お前、言っていたよな。俺の力じゃまだ大きな組織を相手することはできないって」


返事はない。

言葉にするまでもなく答えはYESだからだ。


「そうか。所詮は借り物の力だもんな」


何の前触れもなくエリオットの左腕に魔法陣が幾重にも展開した。

しかし、それらは一瞬のうちに全て霧散した。

《魂喰らい》の浸食を押しとどめていた侵入対抗魔法(ICE)が、全て解除されたのだ。


『ぬしよ……どういうつもりじゃ?』


怪訝な顔でエリオットを正面から見据える。

何か裏があると勘繰っているのか、漆黒の外骨格は肩口から増える気配はない。


「どういうつもりも、そういうつもりもない。見たままだけど」

『何を……考えておる……?』

「俺の力じゃクロムウェルを倒せない。アニタも助け出すことができない。だから――」


エリオットは微笑を浮かべた。しかし、自棄になっているわけではない。


「お前に俺の身体を託す」


その双眸には固い意思が窺える。タマの方が気圧されてしまうほどに。


『何を馬鹿なことを言うておる。それがどういう意味か解っておるのかや?』

「ああ。もちろん」

『なんというたわけか!』

「喜べよ。お前がずっと欲しがっていた身体だぞ」

『じゃからそれをたわけというのじゃ。余は何も身体が欲しいわけではなくでじゃな……』


タマは頭を掻きむしりがならうんうんと唸る。


「頼むよ。俺に大事な人を助ける力をくれないか?」

『ぬしはたわけじゃ。本物のたわけじゃ』


どれだけ言ってもエリオットは首を縦には振らないだろう。

タマは大仰にため息をついた。


『本気なんじゃな?』

「ああ」

『本当の本当に本気なんじゃな?』

「ああ」


彼女もまた微笑を浮かべている。


『よかろう。おぬしの心意気、しかと受け取った』


左腕がら漆黒のタールめいた物質が吹き出した。

それはあっという間にエリオットの全身を覆い尽くしてしまう。





バタバタとうるさい足音が帰って来た。


「まったくうちは患者がピヨピヨと鳴く程度のことしかしないクリニックだぞ。重傷患者が来てもできることなんて……」


ドクが両手に抱えるほどのポーションを持って戻って来た。

外傷から腹痛、筋肉痛用など効能はさておき『CHEEP』にあるありったけの量だ。

後遺症さえ気にしなければ、いかに重傷とて傷は塞がるはず。


少し――遅かったのだけれども。


ドクはその場に突っ立ち固まった。

彼の前、診療台の傍らに立つエリオットを凝視している。


「エリオット……だよな?」


ドクの声は僅かに震えていた。

エリオットの姿をしているが、ドクが知っている彼とは雰囲気というか、纏う空気が異なっていた。

まるでエリオットの姿形をした別の何かのようで――


『少し前まではな』


エリオットは悠然と歩きだした。

つい先ほどまで、マチェットで胸を叩き割られて瀕死の状態だったとは到底思えない。


「お、おい……」


ドクは踵を返したエリオットの片へ手を伸ばし――自分が一歩もその場から動けていないことに気が付いた。


『ドク。しばしの別れだ。次会う時まで元気にしているのじゃぞ。あと今日は戸締りをしっかりしておけ』


エリオットは去っていく。

『CHEEP』のドアを開け、彼の黒い背中はコルセア・シティの眩しい夜へと溶け込んでいく。

あっという間の出来事だった。

ドクは呆然としたまま、開け放たれたドアの向こうを見る。


「阿呆が……」


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