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44話 前哨戦

満月が意地の悪い笑みを浮かべて見下ろしていた。


エリオットはそれを見た瞬間、両足のセーフティーを解除して地面を蹴った。

石畳が捲れ上がる。

エリオットはすでに周りが見えなくなっていた。

彼の視線は一点に、今まさに武装馬車に放り込まれようとするアニタのみに集中する。


『ぬしよ! 冷静になれ! まだニューロン加速は――』

「うるせぇ!」


タマの忠告を無視して、エリオットは一気に組合兵たちとの距離を詰める。

自分たちに近づく獰猛な気配を感じてか、組合へたちが武器を構えてエリオットを迎え撃つ。

鉤爪が閃いた。

斬り飛ばした槍の穂先や柄、そして血飛沫が舞い上がり、組合兵たちが次々と崩れ落ちる。


「アニタ!」


邪魔をする組合兵を全て斬り伏せ、エリオットは左腕を伸ばし――

白銀の穂先がエリオットの鼻っ面を掠めた。

エリオットは急制動、返す槍の穂先の一撃を横へ跳ねて躱す。


「邪魔を、するなッ!」

「すまんが邪魔をするのが私の仕事だ」


大槍を構えるのは牛を模した兜を被ったエリート組合兵、アニマルヘッズ(バイソン)だ!

穂先は青々とした魔法の光を放っている。

魔剣を無理やり柄に付けた豪槍だ。

エリオットの顔に焦燥の色が浮かぶ。


「ファックオフ! アニマルヘッズとかふざけるなッ!」


吐き捨て、鉤爪を振り上げて躍りかかる。

バイソンは大槍で易々と鉤爪をいなし、お返しに連続で突きを繰り出す。

音が遅れて聞こえるほどに速い。

エリオットは衣服を浅く切り裂かれながらも全て躱しきる。

だが、次の攻撃には繋げられない。

大槍とのリーチの差を前に、そして戦士(ファイター)としての実力差を前に間合に入る隙が見いだせないのだ。


アニタを積み込んだ武装馬車に、ぴしゃりと鞭が入った。

エリオットはギリリと奥歯を噛む。


「なぜアニタを攫う!?」


バイソンの兜の下から含み笑いが微かに漏れる。


「餌だよ。お前をおびき出すための。な、予想通りのこのことやって来た」


大槍の穂先を下に、柄を逆手で持つ独特の構えでバイソンは間合を測る。


「そっちに向けた部隊が全滅するのは織り込み済みよ。そして、ここで仕留めてその左腕を頂く。組合のためだ。悪く思わないでくれ」

「馬鹿言うな。断るに決まってんだろが!」

「残念だが、拒否権というものは我がクロムウェル商業組合の前では存在しない!」


爆発めいた勢いで大槍が放たれた。

エリオットの視界が鋭利な穂先で埋まり、慌てて鉤爪で軌道を反らした。

バイソンの姿が掻き消えた。

どこへ!?


『下じゃ!』


タマの声がエリオットに届くよりも先に、身をかがめたバイソンが伸びあがりと同時に抜刀する。

エリオットはその一撃を、右手で抜いたショートソードで受け止める。

刃に沿って剣身が滑り、赤々と火花が飛散する。


「まだまだぁ!」


バイソンの左腕が衣服を突き破って展開、仕込みマチェットだ!

灼熱めいた痛みが走った。


エリオットはバックステップで距離を取る。

ぼたぼたと石畳に地面がしたたり落ちた。

チェインメイルごと叩き割られた胸板が、見る見るうちに真っ赤に染まっていく。

ショートソードが手から落ち、エリオットは片膝を付いた。

バイソンが仕込みマチェットを左腕へと格納する。

そして投げた大槍を拾い上げ、エリオットを見下ろす。


「フォックスを下したと聞いてはいたが……たかがその程度か……」


兜越しにもわかるほど、明らかに落胆した様子であった。

圧倒的に有利を取れる得物を投擲するなど、普通の戦いではまずしない。

格下と見切ったが故に、エリオットは試されたのだ!


「部下を送らずとも私1人で急襲すればよかった。無駄な損失を出してしまったよ」


バイソンが近寄って来る。

エリオットは脂汗を滲ませながら肩を上下させることしかできない。


『ぬしよ』


《魂喰らい》がエリオットの隣に寄り添った。

彼女は耳元に口を寄せ、囁く。


『ぬしよ。まだ倒れるには早い。余との盟約、忘れたわけではあるまい――』


バイソンは立ち止まり、大槍を大上段に振り上げた。


「ではその腕、もらい受ける」


月の光を反射し、穂先が金色に輝く。

その時だ!

エリオットは全身のばねを使って後方へと、大槍の間合の外へ跳んだ。


「まだ動ける力があったか!」


バイソンはエリオットの攻撃に備え、大槍を構え直し――しかしそのままエリオットは踵を返し、走り出す。

予想外の行動にバイソンも一瞬反応が遅れた。


「な!? う、撃て! 弓で足を止めさせろ!」


慌てて命令するも、すでにエリオットの背中は豆粒ほどの大きさだ。

放たれた矢は掠りもしない。


『そう。それでよい。わざわざ勝てない戦いを挑む必要などない。死んでは元も子もないからのぅ』

「うるさい」


どれだけ走っただろうか。


風を切る屋の音も聞こえなくなった頃、エリオットの足が止まった。

人気のない路地で、壁に手を当て身体を支える。

体力はすでに限界を迎えていた。


「アニタを見捨てて逃げたんだぞ……何がよいものか」

『小娘の1人や2人、些末な事よ。後で取り返しに行けばよかろう』

「無理言うな。クロムウェルの本拠地に乗り込むってことだぞ。1度しか使えないニューロン加速で、助けに行けるわけがない」

『そうじゃ。ぬしの力では無理じゃ』


まるで口が裂けたかのように、タマは邪悪めいた笑みを浮かべた。


『じゃが、余なら話は別じゃ。余であればあの程度の弱敵、赤子の手をひねるよりも容易い』


ゆっくりと手を伸ばしてくる。

この手を握れと言わんばかりに。


『どうじゃ? 余にその身体を渡さぬか? 余なら道理を叩き潰し、無理を押し通すことが可能じゃぞ』


エリオットは答えない。

再び、ふらふらとした足取りで歩き出す。手を付いた壁には、血がべっとりと付いてあった。

止まっている暇などないのだ。


『まぁ良い。ぬしがどうやって小娘を助け出すか、余は高みの見物と決め込むがのぅ』


タマの姿が闇夜に溶け込んだ。


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