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39話 いざラウロウサ―思惑

近づく土煙はどんどん大きさを増し、馬や鳥の嘶きが聞こえてくる。

パーシング商業組合の紋章こそ掲げてはいないが、あからさまに組合兵である。


エリオットは苦虫を数匹まとめて噛み潰したような顔をする。

騎兵まで準備しているとは、絶対にレレーナをクロムウェルに渡さないというパーシング商業組合の鉄の意思を感じる。

実に厄介な相手だ。


とはいえ――


そんな輩と真正面から殴り合う必要などない。

エリオットたちは迎え撃つなんてナンセンスな考えを一瞬で捨て、一目散に走り出す。


「橋だ! 橋さえ越えればいい!」


ラウロウサ・シティの支配圏に入れば、たとえパーシング商業組合とて好き勝手にはできない。

違法的に暴れようものなら他の暗黒巨大商業組合――ラウロウサ・シティに強い力を持つクロムウェル商業組合が黙っていないからだ。


「タマ! 数はどれくらいだ!?」


エリオットの頭上が波打ち、険しい表情のタマが現れた。ひーふーみーと数え、


『20はおる! 甲冑に槍を持っておるぞ!』

「ファックオフ!」

『やつらクロスボウを構えおった! 撃ってくるぞ!』

「ファックオフ!」


立て続けに聞こえる風切り音!

矢は全て外れたようだ。


「もしかして非常にマズい?」とレレーナ。

「あんたが馬より速く走れるなら問題ない!」


エリオットの表情に余裕など欠片もない。


「エルフは俊敏といっても無理があるね」

「無駄口叩く前に走れ! 死ぬ気で走れ!」


今はまだ距離があるのと馬上のため、騎兵たちの射撃の精度はそれほどだ。

しかし、それも時間の問題である。

エリオットたちは必死で走るが、それよりもパーシング商業組合の騎兵たちが距離を詰めるほうが速い。


橋まであと500メートルほど。

後ろを振り返る余裕はない。

地響きめいた蹄の音がすぐそこまで聞こえる。


『ぬしよ! 来おったぞ! 騎兵が迫って来おったぞ!』

「わかっている!」


残り200を切った。

橋まで目と鼻の先だというのに、どう考えても間に合わない。

タマの顔色が変わった。


『ぬしよ! 矢じゃ!』

「ああ! わかっている!」


風切り音がさっきと違って近い。背筋を悪寒が走った。


「クソがッ!」


エリオットは悪態をついて立ち止まると、振り返りざまに矢を叩き落とした。

その矢はもちろん全てレレーナに向けて放たれている。

騎兵たちの目的は一貫してレレーナの排除だ。

気は進まないが、どうやら腹を括らねばならないようだ。

エリオットは騎兵たちを迎え撃つべく、威圧的に左腕を構えた。


「アニタ! レレーナを連れて走れ!」


その瞬間、アニタは驚いたというよりも、むしろ怒ったような表情を浮かべた。


「はぁ!? 相棒(エリオット)、足止めならあたしの方が」

「魔法を使った瞬間に射抜かれる! いいから走れ!」

「チッ……わかった! 無理すんなよ」


しかし、不意にレレーナの走りが遅くなった。

眉を顰めて前方を、橋の方を見ている。


「ちょっと待ちたまえ何か様子が――」



その時だ!



橋の脇の草むらがざわめき、完全武装の兵士が飛び出してきたのだ!

もちろんラウロウサ・シティの衛兵などではない。

兵士たちは統率された動きで展開し、既に巻き上げたクロスボウを構える。


「挟まれた!?」


さすがのアニタも狼狽え、しかしレレーナを庇うように前へと出る。

兵士たちの指が引き金に掛けられた。

だが、その照準はレレーナに向けられてはいない。


「おい冒険者! ここは俺たちが食い止める。さっさとそのエルフを連れて行け!」


予想外の言葉にアニタは目を丸くした。

よくよく見てみれば、彼らが羽織る外套にはクロムウェル商業組合の紋章。

彼らはパーシング商業組合の待ち伏せなどではなく、クロムウェル商業組合の組合兵たちなのだ。

組合兵たちはクロスボウを斉射!

矢はエリオットたちの頭上を越えて、騎兵たちを射抜いていく。


「ありがたい!」


その機を逃さずエリオットは走り出す。

射撃戦を繰り広げるクロムウェルの組合兵たち。

彼らの横を走り抜け、既に橋へと到達していたアニタたちに追いついた。

アニタは腰を下ろして、力なく手をひらひらと振っている。

その隣で、レレーナも肩を大きく上下させて息を整えていた。


「とんだ旅行だな……」


エリオットは恨めしそうに言う。


「すまないね。でもステンドグラスを見たいのは本当だ」


と、レレーナは苦笑いをする。

苦笑いであれ何であれ、笑えば少しは気が楽になるものだ。

軽口だって転がり出る。


「そうかいそうかい。そんなにすごいとこなら、あとで俺たちも行かせてもらうよ」

「ぜひ、おすすめする」


大粒の汗を拭い、レレーナははにかんだ。

エリオットは肩を竦め、ふと後ろを振り返った。

いつの間にか戦闘の音は止んでいた。

クロムウェルの組合兵もパーシングの騎兵もどちらもいない。

気味の悪い静寂がそこにはあった。


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