26話 スキング商業組合
「残念だが、それは無理な話だ」
突然、知らない声が聞こえた。
次の瞬間には、建物の影から走り寄って来る幾人もの武装した男たち。
マガジン付きクロスボウを構えた男たちは、皆揃って覆面で顔を隠し、二の腕に同じ腕章を付けている。
そこにはスキング商業組合の紋章!
スキング商業組合の組合兵だ!
「動くな!」
指揮官と思しき男が声を張り上げた。
完全に包囲されていた。
『ぬしよ、囲まれたぞ!』
「相棒、どうするの?」
唖然としつつもエリオットとアニタは互いに背中を合わせて、いつでも応戦できるよう身構える。
タマはふわりと空へと上がり、エリオットの視界を妨げないようにする。
見た所、相手は20人あまり。囲みを突破できない数ではない。
しかし、組合兵が包囲してくる目的がわからない。
エリオットとアニタは視線だけを交え、状況判断のため一旦彼らの言う通りに従うことにする。
それに、スキング商業組合所属のモロノフが、ガタガタと震えていることが気がかりだ。
まるで敵と相対してしまったかの様に。
「バカな! どうして組合兵が!」
モロノフが血走った目で叫ぶ。
組合兵は誰も答えない。
代わりに指揮官はハンドサインを出した。
組合兵たちは警告も無しにモロノフに向けて矢を放つ。
「あばばばばばば!」
モロノフは体中に矢を受けて、血を吹き出しながら倒れた。
血だまりに沈む彼はびくびくと痙攣したのち、動かなくなった。
「お前ら……」
アニタが獰猛な視線を組合兵たちに向ける。
事と次第によっては付近一帯を消し炭にしかねない。
「貴様らはモロノフに雇われた冒険者だな?」
クロスボウの先端を向けながら指揮官が訊いた
。
「だったらどうする? 喧嘩でもするか?」
「殺し合いの間違いだろ? いや、そもそも喧嘩も殺し合いもするつもりはない」
指揮官が再びハンドサインを飛ばす。
組合兵たちが皆揃ってクロスボウを下げたのだ。
「どういうことだ?」
てっきり戦闘になると思っていたので、エリオットたちは組合兵たちの行動に理解が追い付かない。
「我々はスキング商業組合の組合兵だ。任務はそこのモルノフの始末。やつはアサシンを使って、スキング商業組合に対して要人暗殺を行った。そこのアサシンを使ってな」
「はあああああッ?」
アニタがモロノフの死体と指揮官を交互に見る。
「こいつ、やっぱりアタシらを騙してやがったのか!」
見る見るうちにアニタの表情が怒気に染まっていく。
このままでは死体に火炎球を撃ち込みかねない。
エリオットはアニタを宥めつつ、
「つまり、あいつは自分が雇ったアサシンを始末するために、俺らを雇ったということか?」
「そうなるな」
極めて事務的に指揮官は答えた。
なるほどな、とつぶやいてからエリオットは大きくため息をついた。
「たしかに組合が言う通り、企業間抗争じゃないな。それに盗賊ギルドの情報通り、モロノフ個人の依頼だ。腹立たしいくらいにな」
嘘は言っていないが本当のことも言っていない。
組合の考えに、呆れ果てるばかりである。
ただ――エリオットもモロノフとアサシンに何かしらのつながりがある事は薄々気づいていた。
なぜならアサシンの生体融合について訊いたとき、モロノフが答えた内容は詳しすぎた。
脚部がフルチューンナップ済みなど、どうやって知り得たというのか。
「だからこそ、余計に腹立たしい」
アニタが激怒するのも頷ける。
話す合間に、組合兵たちは現場の片付けを進めていく。
人一人なら優に入る大きさの革の袋を開いて、中にモロノフの死体を詰めた。
飛び散った血も手際よく消していく。
気絶したアサシンも同じような革袋の中に詰められた。
「あんたらが派手に立ち回ってくれたおかげで、部隊の到着が間に合った。裏切者の特定と処分も速やかにできた。礼を言う」
「おいふざけんなよ! アタシらはいいように使われたってことか!?」
アニタは不服そうに口を尖らせる。
彼ら暗黒巨大商業組合に良いように使われてしまったというのが、許せないらしい。
「結果としてはそうなるかもな」
「てめぇぇぇぇ!」
「まぁまぁ。抑えて抑えて」
「うがあああああ!」
今にも暴れ出しかねないアニタを押さえて、それからエリオットは指揮官に訊いた。
「さて、指揮官さん。依頼の話をしていいかい?」
「依頼? 我々はお前たちに依頼などしていないが」
「あんたらが問答無用で依頼人を殺したせいで、俺たちは無報酬なんだが。どうしてくれる?」
あんたらの利になる行為を働いたんだから、それなりの見返りをよこせ。
エリオットは言外にそう伝える。
冒険者はただでは転ばない。
初めて指揮官に感情らしきものが見えた。
エリオットの肩に手を乗せて、言う。
「安心しろ。うちは暗黒巨大商業組合にしては比較的融通が利く」




