24話 アサシン
建屋は爆発四散!
火柱が起こり、瓦礫が四方に飛び散った。
一拍遅れて為楽ストリートのあちこちから悲鳴が上がる。
「ふー、すっきりした」
アニタは右腕から空のカートリッジを排出させた。
触媒全てを使った渾身の一撃だ。
「なぁ、マジで大丈夫なのか、これ? 街のど真ん中だけど」
勢いで魔法攻撃したはいいが、炎の照り返しで急に冷静になったのだろうか。
新たなカートリッジを挿入しながら、アニタはちょっとだけ焦った様子だ。
実際官憲がやってくれば、もちろん依頼達成は困難となる。
「大丈夫、問題ない!」
たぶん!
エリオットは心の中で付け加える。
「それに、どうやら奇襲でどうこうできる相手じゃなさそうだしな」
エリオットの視線は、アニタや爆炎などには向けられていない。
炎に半身を赤く照らされながら、佇む男が1人いた。
全身を黒のレザーアーマーで包んだ細身の男だ。
腰にぶら下げたサーベルと顔半分を覆い隠す覆面が、事実を告げる。
「あいつが対象だな」
エリオットはアニタを庇うように立つと、正面からアサシンを見据える。
佇まいからして並の戦士や冒険者とは違う。
殺意がほぼ感じられず、しかしこちらに向けられた視線からは敵意がありありと伝わって来る。
「貴様ら、刺客か」
苦々しげに言うと同時に、アサシンがアニタ目掛けて投げナイフを投擲した。
戦いにて、先に魔法使いを黙らせるのは定石だ。
投げナイフはアニタの喉へと一直線に飛び――
エリオットは左腕で易々と弾く。
明後日の方向へ飛んだナイフは、市の広告看板に突き刺さった。
「悪いが大人しくしてくれると助かる。俺も依頼人も楽できるし、あんたは不必要な怪我をしないで済むからな」
爆炎を映して左腕の外骨格が赤々と輝く。
エリオットは腰を落として身構えた。
「それに別にあんたを殺してもボーナスは入らないし」
「好き勝手に言ってくれるな」
アサシンは両手に1本ずつ、新たな投げナイフを取り出した。
「俺は捕まるわけにはいかない」
ようやく殺気がエリオットへと向けられた。
研ぎ澄まされた、それこそ触れただけで鮮血が溢れそうなほど鋭い殺気だ。
「知らねーよ。あんたの都合なんて」
エリオットが地面を蹴って距離を詰めようとするのと、アサシンが跳ぶのは同時であった。
前ではなく後ろに!
「な!?逃げるつもりか!」
モロノフが言う通り、足の生体融合はかなり性能の良いものに仕上げているらしい。
たったひと蹴りでアサシンは5メートル以上距離を取ったではないか。
普通に走っただけでは追いつけない。
エリオットも足を生体融合により改造しているが、相手はその比ではない。
アサシンが投げナイフ投擲する。
マズい。
エリオットは紙一重で避けるも、さらに距離が開き――
「チッ、逃がすか!」
焦りは判断を鈍らせる。
『ぬしよ! ダメじゃダメじゃ、まだ早い!』
不意に現れたタマが血相を変えて静止するが、僅かに遅かった。
ニューロンが加速する。
エリオットは地面を蹴った。
鈍化した時間間隔の中、エリオットは左腕を振り上げてアサシンを引き裂こうとする。
が!
エリオットの左腕は僅かにアサシンに届かずに、空を切るのみだった。
「なぜ!?」
答えは明白である。
鈍化した時間の中でも、アサシンはさらに後ろへと移動していたのだ。
そもそもニューロン加速状態は時間が停止しているわけではない。
時間の流れが鈍化したように感じるだけだ。
ゆえに鈍化した時間でも変わらず動くアサシンとの間合いを、エリオットは見誤ったのだ。
時の流れが元に戻る。
アサシンは目を見開いた。
一瞬にして、エリオットが自分との距離を詰めていたのだから、驚くのも当然だ。
牽制でさらに投げナイフを投擲するが、少々狙いが甘い。
エリオットは容易く叩き落す。
「タマ! ニューロン加速をもう一度使うぞ! 今度こそ追いついてやる」
『無茶を言うでないわ! 当分は使えん!』
それからタマはトーンを少し落とすと、
『ぬしがその身体を余に渡すならば、もう一度使えるがの』
そんな稚拙な手に乗るエリオットではない。
「くそっ、自前の足で何とかするしかないか」
自分のミスとはいえ、舌打ちをしたい気分だった。
両足のセーフティーを解除し、身体能力を向上させる。
これにより短時間ではあるが、最も深き迷宮でケルベロスの頭を刎ねた時のような動きができる。
タマがエリオットの隣に並んだ。
獰猛な肉食獣めいた彼女の瞳には、好戦的な光が燃えている。
『どうやら向こうも、ぬしと同じ考えのようじゃぞ』
アサシンはそれ以上逃げようとはせず、正面からエリオットを見据える。
彼はエリオットのニューロン加速を知らない。
逃げたとしても、先ほどと同じように一気に距離を詰められる。
ならば逃げるより、自分の機動力を生かして迎え撃つ方が得策と考えたのだろう。
「商業組合の犬め。不義をすればどうなるかを思い知らせてくれるわ」
アサシンはサーベルを引き抜いた。
肉厚のサーベルで、表面がうっすらと紫色の光を放っている。
ただのサーベルではない、魔剣だ。
エリオットは鼻で笑う。
「馬鹿言うな。犬はどっちだ。こちとら雇われた冒険者だぞ」
「ならば訂正する。冒険者風情がしゃしゃり出てくるな!」




