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16話 シティアドベンチャー

小雨はとうに止み、もう防水革コートも必要ない。

おかげで街にはぼちぼちと人が繰り出し始めている。

買い出しの市民や職人、改造腕を見せびらかすようにして歩く冒険者ともゴロツキともとれない男たち。

道端では浮浪者めいた男が、ピクリとも動かずに濡れたまま伏している。

声を掛ける者は誰もいない。


コルセア・シティ本来の賑やかさを取り戻し始めたストリートの雑踏を縫いながら、エリオットとアニタは件の石工の家へと向かっていた。

名前はミューゼルというらしい。熊みたいにがっしりとした体格に髭が特徴とのこと。


「こういうのはだいたい相場が決まってる」


急にもったいぶった感じでアニタが言う。


「女だ」


予想外の相場であった。


「はぁ」


気の抜けた返事を返すエリオット。


「どうせ女と駆け落ちかなんかだろ。飲んだくれなら十分あり得る」

「いや、なんで飲んだくれと駆け落ちがイコールになるんだ?」


エリオットは呆れたように訊いた。


「酒場ほど女に声かけやすいところはないだろ」

「決めつけは良くないぞ」


ストリートには至る所に合法違法問わず看板が設置されている。

『安心な薬草』『安全第一』『FOOD:盛飯』といったマジカルに光る魔法光看板が、次々とエリオットの目に入ってくる。

魔力が切れかかっているのか、どれもが明滅していた。


「絶対そうだって!」


アニタはエリオットのジャケットの裾を引っ張る。


「飲み屋の看板娘を、こう、酒の力で手籠めにして。んで朝起きたらベッドでオハヨ! さてどうしよう、って感じで2回戦おっぱじめてるんだって。アタシの名推理!」

「2日も?」

「2日も。その石工、熊みてぇにデカい身体してるんだろ。体力的によゆーよゆー」

「そうかぁ? まぁ。話を聞いてからだな」


エリオットはアニタの名推理とやらを話半分にも聞かない。

最初に言った通り、決めつけは判断力を鈍らせる。

なおも()推理を語るアニタをほどほどに制しながら、ほどなくして2人は石工の家へと着いた。





エリオットとアニタは、どちらからともなく気まずそうに視線を合わせた。

2人は石工の家にて、その妻から消えた石工の話を聞こうとしたのだが、


「ぐすっ……ぐすっ……ううっ……」


泣いてばかりで一向に話が進まない。

不安に押しつぶされそうなのはわかる。

だからエリオットとアニタはあえて何も言わない。

しかし、石工の妻は自己紹介すら泣いてままならないのだ。


「あのぅ……2、3聞いてもいいですか?」

「はい……ぐすっ……」


たっぷり10秒かかって、ようやく返事が来た。

線が細い30歳半ばくらいの美人さんで、泣き顔を見続けるのは心が痛い。

ただ、こうも反応が遅いのは如何なものか。


「俺たちは冒険者で、ミューゼルさんの捜索に来ました。もちろん手伝って頂けますよね」

「はい……」


視線を感じる。

どうやら石工の子どもたちが、扉の隙間からこちらを覗いているようだ。

エリオットは居住まいを正して質問する。


「ではさっそく。旦那さんが消えた件で、何か心当たりはありませんか?」


こういう時はなるべく丁寧な言葉遣いを心掛ける。

とくに凶悪な左手を晒しているのだ、警戒されて黙られると非常に困る。


「まったく……お酒を飲みすぎること以外は、特に……」

「未だにどこかで飲み続けているとかは?」とエリオット。

「あの人、仕事はちゃんとする真面目な人だから……仕事をサボることはありません」


ここまでは事前に組合長から聞いていた通りである。

こちらの情報に間違いはなさそうだ。


「2件目はどこに行くとか決まってるんですか? 行きがちな店とか馴染みの店とか」


石工の妻は黙して考える。


「えーっと……たしか……『ナンバン』だったと思います。安くて量が飲めるって前に言ってた気が」

「貴女は、お酒は?」

「下戸です……」


申し訳なさそうに言う。

お酒が飲めれば一緒にいられたのに、と意味のない後悔をしているのだろう。


「ハイ! ハイ!」


と、唐突にアニタが立ち上がる。

自信満々に胸を張り、ビシィっと石工の妻に人差し指を突き付けると、


「なじみの酒場の娘がいたはず! もしくは懇意にしている飲み屋のねーちゃん! アタシの名推理はどう!?」

「いえ……あの人、昔から女遊びはしないんです。酒場もただ酒を飲む場所、という感じでしたし……」


差した指をどう仕舞うべきか。

アニタはむぅと唸って、大人しく椅子に戻る。石工の妻は余計に混乱した様子だ。


――潮時だな。


最後に、と前置きをしてエリオットは尋ねた。


「こういったこと……突然いなくなることって過去にもありましたか? 里帰りとかサプライズとか、なんでも」

「いえ、まったく」


エリオットは微笑、頭を軽く下げた。


「ありがとうございました」





「成果なし?」


アニタが難しい顔をしながら訊いてきた。


「いや、多少は。こういうのはいろんな情報を集めて、総合的に判断するものだ。まず――女絡みじゃない」


エリオットは自信ありげに言った。

石工の妻へのインタビューを終えた2人が次に向かったのは、石工の現場だ。

目的は石工ミューゼルが消えた日、若い衆を連れて行ったとされる酒場の店名を聞くためだ。


「足取りを追う。ミューゼルの足取りから、どこで消えたかを探る」

「よくわからないけど。オーケー、つき合ってやるよ相棒(エリオット)


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