15話 消えた石工
エリオットはソロのシーフである。
たいがいのシーフは盗賊ギルド所属で、冒険者組合に入っている者はほぼいない。
みんな登録料と会費の二重支払いを嫌うからだ。
ゆえに2つのギルドを掛け持ちしている物好きは珍しく、貴重な存在である。
エリオットはそんな物好きの1人だ。
「つまりエリオットは盗賊ギルドにお伺いを立てずに、うちが好き勝手に使えるシーフだ。重宝せずにどうする?」
組合長に面と向かってそう言われたことを思い出す。
クロムウェル商業組合と『栄光の道』との合同パーティーに、エリオットのことを紹介したのも組合長だ。
自分は、とても使いやすい駒なのだろう。
「もっとも、この腕じゃもうシーフ家業は厳しいけどな」
エリオットは左腕を見ながら自嘲する。
「だからトロールとか、そんなモンスター退治系の仕事が欲しいんだけど」
エリオットはグラスに手を伸ばし――組合長にかすめ取られる。
組合長は琥珀色の液体を一気に飲み干すと、
「あいにく今はない」
組合長は新たなグラスを出すと、葡萄酒を注ぎ始めた。
質はイマイチなそれを再びエリオットの前に置く。
「だが、お前さん向けの仕事ならある。その腕でも十分こなせる仕事だ」
組合長はニヤっと笑った。褐色の肌に対してやけに白い歯だ。
嫌な予感がした。
「人探しだ」
まだグラスは取らない。
「ちと行方不明の人がいてな」
「おいおいおい。この街で行方不明なんて日常茶飯事だぞ」
まだグラスは取らない。
「緊急だ。一仕事終えたらモンスター退治系を斡旋してやる。あそこで食いっぱぐれてる戦士どもに睨まれても知らないけどな」
Cランクらしき冒険者パーティーが睨んでいる。
エリオットはこれ見よがしに凶悪な左腕をひらひらと振る。
それからグラスを取り、
「ああいいさ。詳細を聞いてから受けるか決めるよ」
「アタシと2人でな」
エリオットは弾かれたように振り返った。
すぐ後ろで女の冒険者が、三白眼でエリオットのことを見ていた。
肩にかかるくらいの金髪だが、頭のてっぺんが赤い。たぶん脱色している。
可愛らしいが挑戦的な顔、首に付けたチョーカーといい、忘れられない要素がこれでもかと詰まった小柄な女だ。
「アニタ……?」
「おうよ」
アニタは火が付いた魔力回復用の葉巻を加えたまま、適当な椅子を引いてエリオットの隣にちょこんと座った。
負傷していた左手は元通りになっている。
「なんであんたが……」
「おいおい。アタシは冒険者だぜ。冒険者が組合にいて何がおかしいってんだ? ああ?」
アニタはエリオットのグラスを奪い取ると一気に流し込む。
「うぇ。これ、ちょっと生姜入れすぎじゃね?」
受付嬢は、今度はアニタとエリオットとを交互に見やり、
「知り合い……なんですか?」
「同じ冒険者パーティーなんだから当然だろ!」
「ええ! エリオットさん、ソロ辞めたんですか!?」
エリオットも初耳である。
というかあれは即席パーティーだったはずでは?
「細かいことはいいんだって。アタシもソロになったし、いいじゃん」
スコットのことがエリオットの脳裏を過る。
そう言われては、断ることができないではないか。
「で、依頼よ依頼! 人探しだっけ?」
ばしばしと受付カウンターを叩くアニタ。
受付嬢が複雑そうな顔で、そんなアニタのことを見ている。
それにアニタは気付いているが、エリオットは全く気付いていない。
『人とは面倒な生き物じゃ』
タマは3人を見下ろし、ニヤニヤと笑みを浮かべながら虚空に溶けた。
受付嬢が下がり、かわりに組合長が前にでる。
依頼書を1枚、灰皿を1つ滑らせる。
「これが今回の依頼書だ。あと放火魔、葉巻は消すか外で吸え」
けちっ! と舌を出してアニタは葉巻を灰皿にこすりつけた。
エリオットは構わず依頼書に視線を落とす。
組合長が説明を始めた。
「一昨日から石工が行方不明になっている。腕はいいが飲んだくれで有名な奴でな。その日も若いもんを連れて飲みに行ったらしいんだが」
「帰ってこなかったと?」
「ああ。そいつ、二日酔いでも迎え酒片手に仕事に来るような奴でな。そんな奴が仕事に来ないとなれば、さすがにただ事ではないって考えたらしい」
「おいおい。ただのアル中探しってか?」
アニタが後ろ頭に手を組んで、不満そうに言う。
「そんな様子で衛兵も取り合わないらしい。で、家族と石工ギルドから依頼が来た」
石工ギルドという単語だけやけに語気が強かった。
要するに冒険者組合的に、石工ギルドに貸しを作っておきたいようだ。
「ちゃんと解決できる人間を送り込む必要があるでな。そこでエリオット、お前に白羽の矢が立ったってことだ。シティアドベンチャーは得意だろ?」
「だいたい理解した。飲んだくれを連れ帰ればいいわけだな」
「ああ。任せたぞ」
「任された」
組合長は空のグラスに再び葡萄酒を注ぐ。
「嬢ちゃん、残念だが今回は火炎魔法をぶっ放すことはないぞ」
「しゃーねーな。シティアドベンチャーしてやんよ」
アニタはエリオットの前にグラスを回した。
エリオットは一瞬ためらったのち、ぐいと飲み干す。
アニタの言う通り、生姜がキツい。
空いたグラスを返して言う。
「で、ここからは依頼料の話といこうか。」




