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14話 雨と冒険者組合

部屋の中は暗く、じめついていた。

エリオットは一糸まとわぬ姿で、自宅の鏡の前に立つ。


「やっぱり変だよな……」


線が細いとさんざん揶揄されていた身体が、どういうわけか一回り大きくなっている。

最も深き迷宮(ダンジョン)で受けた傷も相まって、筋肉質のまるで歴戦の戦士めいた体つきだ。


『余を振るうんじゃ。それなりのガワがないと格好が掴んじゃろ?』


ベッドに腰掛けた黒髪の少女――タマが笑う。

ただの少女ではない。

彼女は実体を持たぬ幻影で、その証拠に少し透けている。


「そうかもしれないけど……お前が俺の身体に干渉できるって事実がコワイ」

『何を言うか。余とぬしは同じベッドで一夜を過ごした仲じゃろうが』

「頼むからその言い方は止めてくれ。頭がおかしくなりそうだ」


今エリオットが話している少女はゴーストに近い。

本体はエリオットの左腕だ。

鋭角なフォルムをした漆黒の外骨格に覆われた人外の腕。

攻撃的な鉤爪は日常生活に不備が出てしまうほど。

漆黒の左腕(シニストラ)――何処からどう見ても違法改造だ。


『実際はぬしの治療に、余の身体の一部を挿入()れての。その影響じゃろうて』

「だから変なこと言うな。まさかまた体を乗っ取る気じゃないだろうな?」

『髪の毛1本で生き物を操るような真似、さすがの余にもできん』


タマはぷいとそっぽを向いた。

できるものなら既にやっている。そう表情が語っていた。

エリオットは腹部の矢傷痕をさすった。

上級回復魔法を以ってしても消えないそれは、戒めと新たな因縁だ。

ため息をつく。

一体何回目だろうか。


『ため息ばかりついていると、幸せが逃げるというからの』

「ため息どころか、お前に憑かれ(、、、)てるからな。幸せなんて裸足で逃げ出してしまったさ」

『たわけ』


エリオットは木窓に近寄り、開けた。

湿った匂いだ。

濃い灰色の空がどこまでも続き、小雨が点線を描く。

繁華街から光――魔法光の看板やホログラム魔法が変に反射するせいで、薄暗さの中に妙な派手さを醸し出している。


ここはコルセア・シティ。別名10万人都市とも言われる、大陸西方では最大の都市だ。

しかし、都市貴族と暗黒巨大商業組合の力の前に、ポデスタの機能はすでに形骸と化している。

大きな塔が見えた。

全てを見下ろすかのようにそびえる尊大な塔だ。

コルセア・シティを牛耳る暗黒巨大商業組合が1つ、クロムウェル商業組合の本部である。


一瞬だけエリオットの顔に影が過り――木窓を閉める。

武器や防具は身に付けず、手早く服装を整えた。

さらにエリオットは、油をたっぷりしみ込ませたフード付きの防水革コートを羽織った。


『ぬしよ。どこへ行くのじゃ?』


タマが訊く。

タマはエリオットの左腕であるからして、どこへ行くにしても付いて来る。

ちょっと楽しそうにしているのは気のせいだろうか。

エリオットはポケットに財布を突っ込み、フードを被る。


「仕事に、な」



行き先はもちろん――冒険者組合(ギルド)だ。





冒険者組合。

ごろつきと変わらない冒険者たちを統制し、彼らに仕事を斡旋する職業組合だ。

であるからして、組合所のドアを開けるとたくさんの冒険者たちがいた。

仕事を吟味する者、商談中の者、すでに飲んだくれているものなど様々だ。


ただ、エリオットが組合所に入るなり、話や笑い声が途切れた。

視線はエリオットの左腕に向けられている。


一瞬の静寂。


後に、好機の視線と猛烈なひそひそ話が巻き起こる。

最も深き迷宮から生還したエリオットは、今日初めて冒険者組合を訪れたのだ。

誰しもが異様な左腕に興味を持つ。


『愚かな人間どもの視線が余に集まって来る。心地よいの! ぐわっはっはっはっ!』


タマはご機嫌そうに、エリオットの斜め前に浮かんでいる。


「呑気なもんだよ……」


エリオットは同業者たちの視線を一切無視して、まっすぐカウンターへと向かう。

冒険者の仕事は、基本的にはランクごとの掲示板に張り付けられている依頼書で行われる。

適当な依頼書を剥がして、受付カウンターへ持って行き、仕事を受けるのが流れだ。

だだ、エリオットはそんなことをせず、いつも受付カウンターへ直行する。

そして馴染みの受付嬢に声を掛けるのが日課だ。

普段はにこやかな笑みを浮かべている馴染みの受付嬢が、今日ばかりは目を丸くする。


「エリオットさん……ですよね?」

「あー……うん。たぶん……今のところ……ね」


受付嬢はエリオットの頭と左腕を、交互に何度も何度も見やる。

それから口をパクパクとさせるばかりで、言葉が出てこないようだ。

エリオットは頬を掻きながら。


「当分は慣れないだろうけど……まぁ俺も慣れてないけどさ……」

『慣れぬなら余が変わってやろうか?』


タマがくすくすと笑う。


「うるさい」


受付嬢が「?」と首を傾げた。

タマの声は他人に聞こえず、姿も見れない。

ずるい。まるでこちらが狂人ではないか。


「髪も真っ黒ですし、とゆーかその腕どうなってるんです!?」

「いろいろあって」

「いろいろって……シーフの腕じゃないですよそれ……」

「違うね」


もちろん馬鹿正直に言えるわけがない。


「ダンジョンに行く前は普通でしたよね!?」

「うん」

「クロムウェル商業組合や『栄光の道』の方々と一緒に行きましたよね」

「そうだな」

「もしかしてこの前にあったダンジョンの――」


受付嬢とエリオットの間に、琥珀色の蒸留酒が入ったグラスが置かれた。


「おっとその話はそこまでだ」


割って入ってきたのは見るからに厳つい壮年の男。

後ろに撫でつけた髪には白いものが混じっている。

彼はコルセア・シティの冒険者組合の組合長である。


「そういう話がギルド的にマズい。誰が聞いているかもわからんしな。もっと人少ないところで話せ」


組合長はグラスをエリオットの前へと滑らせる。


「で、何しに来た?違法改造丸出しの腕を、見せびらかしに来たわけじゃないんだろ?」


エリオットは違法改造ではないと否定しつつ、


「もちろん。仕事を受けに。ただ……シーフ案件以外ので」

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