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13話 加速するニューロン

フォックスが驚愕に声を裏返す。


「バケモノか!?」


唸る風と共にエリオットの左回し蹴り!

フォックスが盾で受けるも、衝撃までは殺せずよろめいた。


「言うに事欠いて相手をバケモノ呼ばわりじゃと? たわけが!」


エリオットの攻撃は止まらない。

真っすぐ伸ばした鋭利な四指に力を込め、貫手。

辛うじて構え直した盾の表面で、盛大に火花が散る。

さらにエリオットは黒腕を振りかぶり――


「いや、人だよ」


ぽつりと漏らした。

エリオットの瞳には正気が戻っていた。

しかし、焦点は定まらずどこか虚ろだ。


「まだ人だよ」


地面を蹴って後ろへと跳んだ。

肩口まで漆黒の外骨格に覆われた左腕を、エリオットは脂汗を流しながら押さえ込む。


「タマめ……油断も隙も無いな」


幾十もの魔法陣が左腕を覆っている。

一度外した侵入対抗魔法(ICE)を再度起動させ、エリオットは身体の主導権を奪い返したのだ。

左腕を通し、全身にみなぎっていた超常の力が急速に薄れていく。


『たわけが! もう少しであ奴を殺して片割れを回収できたものを!』


犬歯を剥き出しにして、烈火のごとくタマが吠える。


「うるさい! お化けめ!」

『んあ!? 失礼な奴め!』


一瞬だけタマは鼻白み、霧散する。

当分の間は出てきまい。

しかし、忌々しい声だけはエリオットの脳内に響く。


『……じゃが、ぬしに死なれても困るからの。余の力を、少しだけ使わせてやろう』


――ご大層な前ぶりだことで。


『おぬしを、人よりも少しばかり速い世界へ連れて行ってやろう。くくくっ』


悔しそうな言葉を残して、タマの気配は消えた。

左腕は肩口まで外骨格に覆われたまま、元には戻らない。


「ファッキュー!」


エリオットは中指を立てて吐き捨てた。


「ごちゃごちゃと何を言っている!」


フォックスが踏み込みと同時に斬りかかる。

切っ先が触れるか触れないか、エリオットは紙一重で躱す。

回避の動きに先ほどまでの精細さはない。


エリオットはシーフだ。接近戦のスペシャリストである戦士(ファイター)とは違う。

このまま戦えばエリオットが負けるのは明白だ。


ならば――今この一撃で倒せばよいのだ!


左手を伝い、身体に電撃が迸る。

躱しながら、エリオットの両眼が鋭く、細く、漆黒の光を灯した。

感覚が研ぎ澄まされる。



ニューロンが加速した。



フォックスが手首を返して胴を薙ごうとする。

が!

鈍化した時間感覚の中、それを冷静に眺めているエリオットがいた。


エリオットは剣の腹にそっと手を添えて、軌道をずらす。

そのまま時計回りにフォックスの隣へと移動した。

左拳を握る。


「お返しだ」


エリオットは、拳を振り抜いた。

そして――時間の流れが元へ戻る。

フォックスは錐揉み回転しながら吹き飛び、遅れて打撃音が響く。

まるで雷鳴が轟いたような音だった。


殴られたという事実を認識するよりも早く、フォックスは頭から地面に叩きつけられた。

さらにワンバウンド、ツーバウンドと跳ね、転がり、止まった。

首を捻じ曲げたフォックスは倒れたまま、ピクリとも動かない。

漆黒の盾が音を立てて倒れた。

死んだか、あるいは――



「どうでもいい……」


掠れた声で独り言ちる。

エリオットは咳き込み、片膝を付いた。

口元を腕で拭うと、べっとりと血が付いた。


「くそったれ……」


周囲を見た。

死者や怪我人を問わず、何人も倒れ伏し、いたる所から呻き声が聞こえる。

今のエリオットに助けることはできない。

目を瞑り、前を向く。


「くそったれ……」


エリオットは最も深き迷宮(ダンジョン)の出口へと向かって歩き出す。

足取りは覚束なく、数歩進んだのちエリオットは膝から崩れ落ちた。

一連の戦闘行動で、身体はとうに限界を迎えていた。

開いた傷から地面に赤い染みが広がっていく。


「くそったれ……」


エリオットは顔だけを上げる。

立ち上がるチカラはもうない。

歪んでいく視界の中、光がぼやける。

手を伸ばすが、届かない。


「ダメか……」


意識が次第に遠のいていき――ぐいと身体を引っ張られた。



「おい。何寝てんだよ。バカ。気張れ」



アニタだ。

エリオットを無理やり起こし、肩を貸す。

無傷ではない。

額から血が流れ、裂傷がひどい左腕は力無く垂れている。


「アニタ……」

「死ぬなよ。あんたまで死なれたら、アタシの寝覚めが悪くなっちまう」


すぐ傍の顔すら滲んで見えない。

エリオットはぎゅっと唇を噛み、


「ありがとう」

「礼を言う前に足を動かせ、バカ」


アニタとエリオットはゆっくりと、しかし着実に前へと進む。

最も深き迷宮(ダンジョン)の出口へと。



光が出迎え、風が頬を撫でた。

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